ゆいレールを運行する沖縄都市モノレールは9月13日、延伸開業する区間の試乗会を開催した。10月1日に首里駅から延伸開業する区間は約4.1km。新駅として石嶺駅、経塚駅、浦添前田駅、てだこ浦西駅の4駅が開業する。

  • ゆいレールが10月に延伸開業。写真はイメージ(写真:マイナビニュース)

    ゆいレールが10月に延伸開業。将来は3両編成に(写真はイメージ)

試乗会の様子は9月14日以降の新聞などで報じられた。沖縄タイムスは9月18日付のウェブ限定記事「ゆいレールの車窓から 延伸する新4駅 一足先に乗ってみた」にて、約11分の動画を公開。YouTubeでも動画を公開した。

ゆいレール各駅で列車到着を知らせるメロディが流れる。県庁前駅は「てぃんさぐぬ花」安里駅は「安里屋ユンタ」、市立病院前駅は「クイチャー」など。延伸区間の4駅も、石嶺駅は「ちょんちょんキジムナー」、経塚駅は「はべら節」、浦添前田駅は「めでたい節」、てだこ浦西駅は沖縄復興を後押しした名曲「ヒヤミカチ節」に決まった。

車窓の見所としては、経塚~浦添前田間が良さそうだ。沖縄タイムスの記事によると、「玉城朝薫の墓を眼下に眺め」「車窓からは浦添市内の街並みや、那覇市街も見渡せる。天気が良ければ遠く慶良間諸島も一望できる」という。高い所を走るモノレールだけに眺望が良いし、従来の市街地とは違う郊外の眺望を楽しめそうだ。

■延伸区間の終点、てだこ浦西駅が新たな交通結節点に

現在のゆいレールは那覇空港~首里間約13kmを結ぶモノレール路線。繁華街の国際通りや県庁、市立病院などを経由する。全国から那覇空港に降り立つ観光客にとって、ゆいレールは那覇中心部へのアクセス手段として定着している。2003年の開業以来、地域の交通手段として順調に乗降客を増やしている。観光客だけでなく、那覇市民にとっても通勤、通学、買い物など、日常生活に不可欠な交通機関となっている。

  • ゆいレール現行区間(青)と延伸区間(赤)。地理院地図を加工

鉄道ファンにとって、ゆいレールは沖縄県で唯一の鉄軌道路線としても知られる。「沖縄県に鉄道がある」と言われてもピンと来ないかもしれないけれど、モノレールも電車の一種だと言えば納得できるかもしれない。

ただし、ゆいレールの法律上の扱いは「軌道」である。道路上に敷設される線路は原則として軌道となる。路面ではないけれど、都市モノレールの線路は公道の真上に設置され、道路管轄の土地に橋脚を置く関係で軌道扱いとなった。歴史的にみると、鉄道はおもに長距離で都市間を結ぶ役割を持ち、軌道は道路交通の機能のひとつだった。

ゆいレールを整備した目的も道路交通の円滑化だった。沖縄県は太平洋戦争によって鉄道路線が破壊された。戦後も27年にわたってアメリカ合衆国の統治下にあったため、車社会として発展してきた。しかし、車やバスの増加に道路整備が追いつかず、本土復帰後の観光客増加もあって渋滞が問題となった。そこで那覇空港~沖縄県庁~国際通り~首里城という混雑道路区間に沿う形でモノレールが作られた。

延伸区間の終点、てだこ浦西駅は既存の那覇空港駅や首里駅と比べて、観光客にとってなじみのない駅名だろう。「浦西」は浦添市の西側にあたる地域を示し、「てだ」は沖縄の言葉で「太陽」、「こ」は「子」を意味するという。琉球王国以前の三山時代、この地を治めた王が太陽の子だったといういわれがある。日本の神話にもたびたび現れる「●●日子」のようなものだろうか。浦西だけでなく「てだこ」を付けたあたり、首里と同様の歴史を示し、観光に寄与したいという意図を感じる。

てだこ浦西駅周辺の観光要素は少ない。しかし、この駅は沖縄本島の交通にとって重要な意味を持ち、観光客にもメリットが大きい。なぜなら沖縄本島を南北に縦断する沖縄自動車道の結節点になるからだ。

沖縄自動車道の那覇インターチェンジは那覇市中心部に到達できず、那覇空港自動車道も那覇市の南側で整備されている。高規格道路で沖縄自動車道につながるとはいえ、那覇市周辺を迂回する。那覇市の中心部に向かうには、一般道の渋滞を覚悟しなければならなかった。

そこで沖縄県は、てだこ浦西駅周辺を自動車・バスとモノレールの結節点として整備している。マイカー向けには992台分のパークアンドライド駐車場が開業予定で、高速バスターミナルも整備する。レンタカーの営業拠点も整備する。

沖縄自動車道は北部の名護市まで通じているから、那覇市中心部から沖縄本島中北部へアクセスしやすくなる。なお、てだこ浦西駅と最寄りの西原インターチェンジは約3km。車で10分ほどかかるけれども、駅に隣接する位置にスマートICが整備されるため、すぐに高速道路に入れる。

そうなると、ゆいレールの延長によって沖縄の旅も変わりそうだ。いままで那覇空港でバスに乗り換え、あるいはレンタカーを借りていた人々が、まずはゆいレールに乗って那覇市中心部に滞在し、その後、てだこ浦西駅からバスやレンタカーに乗り換えて各地へ向かう。つまり、那覇市の交通結節点が那覇空港からてだこ浦西駅へ横滑りする可能性がある。そうすれば那覇市内の渋滞を回避できる。那覇市内に用があるなら、ゆいレールを使えばいい。

てだこ浦西駅を交通結節点にするという沖縄県の目論見が成功すれば、ゆいレールの乗客はさらに増える。そこでゆいレールは延伸区間開業と同時にダイヤ改正を実施する。従来は平日・金曜・土曜・日曜の4種類のダイヤを設定していたけれども、改正後は平日・休日(土曜含む)の2種類とする。また、那覇空港~首里間の折返し運用を導入する。現在の車両数のまま延伸すると、全体的に運行間隔が開いてしまうためだろう。

■ダイヤ改正で増便、将来的に増車する予定も

ダイヤ改正が行われる10月以降、朝ラッシュ時間帯の首里駅から那覇空港駅へ向かう列車は4分間隔とし、現在の混雑率160%の緩和をめざす。定員が少ないとはいえ、大都市並みの高頻度運転といえる。2020年度には2編成が追加導入される予定で、増便と混雑緩和が期待できる。

さらに、モノレール車両を従来の2両編成から3両編成に増車する予定もある。琉球新報の7月24日付の記事「ゆいレール、23年度の3両化、遅れも 製造社『完成困難』 沖縄県やモノレール社早期実現要請へ」によると、ゆいレールの2018年の利用者は1日あたり5万2,355人で、需要予測をかなり上回っているという。延伸開業後は5万9,000人が見込まれ、その後も那覇空港第2滑走路が運用を開始するなど好材料が多い。2030年度には1日あたり7万5,000人が見込まれており、2両編成では足りない。

しかし、製造を担当する日立製作所では、パナマのモノレール事業をはじめ海外案件も抱えており、沖縄県などの要望に応えられないかもしれないという。沖縄県知事は8月に官房長官や沖縄担当相と面談し、国の支援を求めた。菅官房長官は「国としても計画通りに進むよう後押ししたい」と支援する考えを示した。

ゆいレールは他にも宜野湾市や沖縄市への延伸、赤嶺駅から糸満方面に延伸する構想もあるようだ。これとは別に、沖縄本島では那覇と名護を結ぶ鉄道路線構想もある。「乗り鉄」にとって沖縄県は気になる地域になってきた。筆者もその1人で、行くならオフシーズンを狙っている。もし沖縄県がオフシーズンの観光誘客を検討するなら、モノレールや県営鉄道廃線跡など、鉄道ファンに向けた取組みもお願いしたい。