阪急交通社が7月31日に「観光列車名の検索数年間ベスト10」を発表。さかのぼって7月17日には、エアトリが「乗って良かった! 観光列車TOP5」を発表している。現在、100以上も存在する観光列車の頂点はどれだろう。2つのランキングを比較した。

  • 近鉄の観光特急「しまかぜ」。阪急交通社のランキングで3年連続1位に(写真 : 阪急交通社)

■検索数の多い観光列車は?

阪急交通社のランキングは、同社の旅行ポータルサイト「hankyu-travel.com」のフリーワード検索機能で入力された観光列車名の検索回数をもとに集計されている。今回は2018年7月1日から2019年6月30日までの検索数をもとにランキングが発表された。まずは結果を見てみよう。

  • 1位「しまかぜ」(近畿日本鉄道)

2013年3月に運行開始。伊勢神宮の式年遷宮に合わせ、新型車両50000系を製造した。従来の近鉄特急より上のプレミアムクラス。ガラス張りの先頭車展望席、コンパートメント、個室、2階建てカフェ車両を装備する。大阪難波駅・京都駅・近鉄名古屋駅から伊勢志摩方面の賢島駅までを結び、乗車券・特急券の他に「しまかぜ」特別車両料金が必要となる。阪急交通社の検索ランキングでは2017年から3年連続の1位。おもな顧客が京阪神だからかもしれない。

  • 2位「四国まんなか千年ものがたり」(JR四国)

JR四国が2017年から土讃線で運行開始した観光列車。「伊予灘ものがたり」の成功を受けて、2番目の「ものがたり」列車として導入された。多度津駅と景勝地の大歩危峡を結び、景色を楽しむ窓向きのカウンター席、語らいを楽しむ2人用・4人用のゆったりとしたテーブル席を用意した。乗車券の他に特急料金とグリーン料金が必要。オプションで地元食材にこだわった食事メニュー、大切な人へのサプライズプレゼント「花束&メッセージ」サービスがある。

  • 2位は「四国まんなか千年ものがたり」(写真 : 阪急交通社)

  • 3位「ゆふいんの森」(JR九州)

JR九州の多種多様な観光列車の中から、博多~由布院・別府間を結ぶ「ゆふいんの森」が3位に入った。水戸岡鋭治氏のデザインを起用したJR九州「D&S(デザイン&ストーリー)列車」のトップバッターともいえる。運行開始は1989年と古参で、眺望に配慮したハイデッカータイプの座席、木材を使用したサロンスペースなど、大人向けの落ち着いたインテリアが特徴。それだけに安定的な人気があり、2017年は10位、2018年は5位とランクを上げてきた。口コミなどで評判が高まっているようだ。

  • JR九州の観光列車の先駆者「ゆふいんの森」(写真 : 阪急交通社)

  • 4位「花嫁のれん」(JR西日本・IRいしかわ鉄道)

北陸新幹線開業後、北陸ディスティネーションキャンペーンに向けて導入された観光列車。金沢~和倉温泉間を結ぶ。車両の外観・内装に加賀のみやびな雰囲気をデザインし、オプションの食事メニューは金沢の老舗料亭の料理や、世界的パティシエの辻口博啓氏が監修したケーキが用意されている。花嫁のれんは加賀・能登地方の嫁入りの風習で、花嫁の実家が作り、嫁ぎ先に掲げ、その暖簾(のれん)をくぐることで幸せを祈願する。1日2往復の運行で、金沢発の列車はホームに花嫁のれんを掲げ、乗客は花嫁のれんをくぐって乗車する。

  • 5位「SLやまぐち」(JR西日本)

山口線の新山口~津和野間を結ぶSL列車。国鉄時代から運行され、今年で40周年を迎えた。登場時は団体用の12系客車を使用し、その後はレトロ調に改造されていた。2017年に新造の35系客車を導入。客車は5両編成で、1号車は往年の1等展望車をイメージしたグリーン車となっている。乗車券の他に指定席料金などが必要。快速列車扱いのため、特急・急行料金は不要。京阪神から日帰りできることもあり、人気が高い。

  • 6位「SL銀河」(JR東日本)

西日本の列車が多い中、JR東日本が2014年から運行する釜石線のSL列車がランキング初登場となった。SL列車の人気だけでなく、三陸鉄道リアス線の開業も要因かもしれない。走行距離90km、所要時間約4時間半と、日本のSL列車の中で最も長距離かつ長時間の運行で、SL列車の旅をたっぷり楽しめる。車内にはプラネタリウム、図書コーナーを用意し、旅人を飽きさせない工夫もある。乗車券の他に指定席券が必要となる。

  • 初ランクインの「SL銀河」(写真 : 阪急交通社)

  • 7位「きかんしゃトーマス号」(大井川鐵道)

静岡県の大井川沿いに、新金谷駅と千頭駅を結ぶSL列車。もともと大井川鐵道は蒸気機関車の動態保存で歴史があり、旧型客車を扱うなど昭和の鉄道旅を再現していた。そこに夏から冬にかけて、英国のソドー島から「きかんしゃトーマス」と仲間たちがやって来た。青い「トーマス号」の他に赤い「ジェームス号」も運行され、千頭駅ではトーマス関連のイベントが開催されている。「トーマスが走っているらしいけど、どこで?」と思う人も多く、検索数の数字を押し上げているといえそうだ。

  • 8位「伊予灘ものがたり」(JR四国)

JR四国が2014年から運行する列車。JR九州の観光列車に刺激を受けて、車窓、設備、食事サービス、おもてなし要素をしっかり整えた。松山~伊予大洲・八幡浜間を結び、予讃線の中でも海沿いの「愛ある伊予灘線」を経由する。海に近い景観で有名な下灘駅に停車するほか、海から離れた肱川沿いの景色も壮観。予約オプションの食事メニューも素晴らしいけれど、予約なしで楽しめるカフェメニューも充実している。

  • リピーターも多い「伊予灘ものがたり」(写真 : 阪急交通社)

  • 9位「或る列車」(JR九州)

国営鉄道に買収される前の九州鉄道が製造した幻の貴賓列車「或る列車」をモチーフに作られた贅沢なレストラン列車。黄金色をふんだんに使った内外装が豪華だ。長崎~佐世保間(長崎コース)、大分~日田間(大分コース)をおもに運行するほか、門司港駅や博多駅などに乗り入れる特別運行も実施されている。スイーツに力を入れた食事コース込みのツアーが用意され、たとえば長崎発佐世保行の場合、3時間の乗車で大人1名あたり2万6,000円の贅沢な内容となっている。

  • 贅沢レストラン「或る列車」(写真 : 阪急交通社)

  • 10位「おれんじ食堂」(肥薩おれんじ鉄道)

肥薩おれんじ鉄道が2013年に運行を開始した。JR九州の観光列車と同じく水戸岡鋭治氏が車両をデザインしている。1号車はカウンター席とテーブル席のダイニングスペース、2号車はソファ席をのれんで仕切ったコンパートメント風の座席を用意したリビングルーム風。1便は調理パンとコーヒーのモーニング、2便は「フレンチの鉄人」こと坂井宏行氏が監修するランチなど、地元の食材を使った料理を楽しめる。

阪急交通社は全国展開しているとはいえ、阪急阪神ホールディングスの中核をなす会社だけあって、検索される観光列車も西日本エリアで活躍する列車が多い印象だった。検索数の多さは関心度の高さでもある。

■満足度の高い観光列車は?

続いて、実際に乗った人の満足度を示したランキングも見てみよう。総合旅行プラットフォーム「エアトリ」や「アルキカタ・ドット・コム」「auトラベル」などを運営するエアトリが、20~70代の男女1,028名を対象に、観光列車について調査した結果が発表されている。このうち286名が観光列車を経験し、良かったと答えた列車を挙げている。満足度の高さでトップ5。8つの観光列車がランクインした。

  • 1位「フルーティアふくしま」(JR東日本)
  • 1位「四国まんなか千年ものがたり」(JR四国)
  • 1位「伊予灘ものがたり」(JR四国)
  • 1位「海幸山幸」(JR九州)

これらはすべて満足度100%。乗車した人すべてが「良かった」と回答した。「フルーティアふくしま」は喜多方駅と郡山駅を結ぶカフェトレイン。まれに福島・仙台方面へ運行されることもある。ツアー商品としての販売で、福島県産のフルーツを使ったケーキ2点とコーヒー、フルーツジュース付き。「海幸山幸」は宮崎~南郷間を結ぶ。乗車時間は約90分。乗車券・特急券の合計で大人2,320円。JR九州の観光列車の中ではお得感のある列車と言えるかもしれない。

  • 2位「はやとの風」(JR九州)

満足度91.7%で2位。日豊本線・肥薩線経由で鹿児島中央駅と吉松駅をで結ぶ。車窓から錦江湾に浮かぶ桜島が見え、肥薩線に入ると九州の濃い緑に包まれる。肥薩線最古の駅である嘉例川駅・大隅横川駅で数分停車し、駅舎を眺める時間もある。嘉例川駅は九州駅弁グランプリで知られた「百年の旅物語かれい川」の発祥の駅。乗車2日前までに駅弁引換券を購入すれば車内で入手できる。

  • 3位「奥出雲おろち号」(JR西日本)

満足度90%で3位。木次線の木次駅と備後落合駅を結ぶ。ヤマタノオロチ伝説のある斐伊川に沿った眺めをはじめ、山中の区間ではトンネルと勾配が連続し、とくに出雲坂根駅のスイッチバックは見せ場のひとつとなっている。景色の良さと、乗車券と指定券のみで手軽に利用できるところが高ポイントの理由だろう。いくつかの停車駅で弁当やスイーツを購入できる。

  • 中国山地の絶景へ「奥出雲おろち号」(筆者撮影)

  • 4位 トロッコ電車(黒部峡谷鉄道)

富山県の宇奈月温泉~欅平間を結ぶ。発電所の建設資材を輸送するために作られ、現在も発電所向けの物資輸送を担う。黒部川の峡谷に沿い、真下も見える鉄橋や、壁に手が届きそうなほど小さなトンネルなど、自然景観の素晴らしさやスリリングな乗車体験が人気。満足度は88%。もともと旅客用鉄道ではなく、車両が小さいため、体格によってはちょっと窮屈かもしれない。

  • 安全だけどスリリングな黒部峡谷鉄道(筆者撮影)

  • 5位「越乃Shu*Kura」(JR東日本)

上越妙高駅と十日町駅を結ぶ、地酒をメインテーマとした列車。満足度87.5%。2号車はイベントスペースとして売店とスタンディングテーブルを配置し、地酒の試飲イベントや生演奏を楽しめる。有料の利き酒サービスがあり、気に入った酒を購入可能。十日町行は約2時間半、上越妙高行は約3時間半の乗車となる。車内で弁当やつまみを購入できるほか、食事付きの旅行商品もある。日本酒好きなら1度は乗りたい列車だ。

満足度の高い列車は、比較的低価格で、車窓や食事サービスなどの特徴がわかりやすいという共通点があるようだ。検索数では「憧れ」「どんな列車か知りたい」という興味が表れた。満足度は「これに乗れば間違いない」という列車選びの参考になるだろう。