新幹線や在来線特急列車の車内販売が一気に縮小の気配だ。ここ1カ月ほど、JR各社から車内販売終了に関する発表が相次いでいる。
JR九州は1月24日、九州新幹線「みずほ」「さくら」の車内販売を終了すると発表。JR北海道も同じ日に特急「スーパー北斗」の車内販売終了を発表している。2月14日にJR四国が特急「しおかぜ」「南風」の車内販売終了を発表。2月18日には、JR北海道が北海道新幹線区間の車内販売(JR東日本子会社の日本レストランエンタプライズが営業)の終了を発表した。JR北海道の定期列車における車内販売は、宗谷本線・石北本線で実施中の「沿線地域の皆さまの特産品販売」のみとなる。
同じく2月18日、JR東日本は「はやぶさ」「はやて」の北海道新幹線区間に加え、東北新幹線「やまびこ」と秋田新幹線「こまち」の盛岡~秋田間、さらに在来線の特急「踊り子」「草津」などの列車で車内販売を終了すると発表。車内販売を継続する列車でも弁当・軽食類等の販売を取りやめるなど、取扱い品目が見直されることになった。東武鉄道もJR線へ直通する新宿駅発着の特急列車で車内販売を終了すると発表している。
2019年3月16日のJRグループダイヤ改正を前に、多くの列車から車内販売が消えることになりそうだ。ただし、車内販売の縮小はもっと前から始まっている。2012年に東海道・山陽新幹線「こだま」の車内販売が終了。2015年にはJR東海・JR西日本が在来線特急列車の車内販売を終了している。さらにさかのぼれば、各方面の新幹線開業とともに車内販売乗務列車は減っている。2月21日付の朝日新聞の記事「消えゆく車内販売、旅を彩る味どうなる?」によると、JR各社の車内販売は2000年をピークに売上が減少しており、現在はピーク時の半分以下だという。
■実際のところ、あまり利用されていなかった?
車内販売の廃止が報じられる中、ネット上では「寂しい」「『スゴクカタイアイス』が食べられない」などの声が上がり、新聞等も情緒的に報じている。1月24日に在来線の車内販売原則廃止、2月18日に北海道新幹線の車内販売廃止を発表したJR北海道の経営状況を顧みて、「リストラは仕方ない」「販売の努力はしたか」との論調もある。
しかし、JR各社がそろって主要定期列車の車内販売を終了した理由は、やはり「売れないから」だろう。「人手不足」もあるけれども、これも「売れないから」。売上が良ければ給料も上げられ、それを魅力と感じて求職者も増えたかもしれない。つまり、「売れない」が根本的な原因であり、それは利用者が「買わない」からだったといえる。赤字ローカル線の廃止が報じられるたび、乗らない人々が反対するようなもので、一方的に鉄道会社を責められる話ではない。赤字部門の廃止は企業として正しい判断といえる。
振り返って、筆者はいままで車内販売を利用したかといえば、そんなに頻繁ではなかった。筆者もなるべく事前に購入している。そもそも学生時代の貧乏旅行が体に染み付いていて、缶コーヒーの2倍以上の値段で売られるコーヒーには手が出なかったし、駅弁を買うより立ち食いそばをすすっていた。社会人になってからしばらくして、小遣いに余裕ができ、やっと車内販売で抵抗なくコーヒーを買えるようになった。
抵抗なく買い物ができるようになると、今度は「欲しいものが少ない」という現実に直面する。駅ナカの売店やコンビニを利用すれば、たくさんの商品から食べたいものを選べる。車内販売のワゴンは搭載品を含めて100kgもあるそうだけど、乗客の多様な要望を賄えるほどの品数はない。弁当は2~3種類、ビールは1銘柄。土産物もいまひとつ。なにか買いたいけれど、欲しいものは買えない。車内を観察しても、1車両をワゴンが通り抜けるまで、筆者以外の購入者は1組か2組。儲かってなさそうだな……と思っていた。
■乗客が欲しいものを売っていたか?
新幹線や特急列車などから車内販売が消えていく一方で、観光列車では車内販売が定番のサービスとなっている。観光列車は毎年増えているから、車内販売を実施する列車も増えている。観光列車だけでなく、JR東日本の普通列車グリーン車においても早朝・深夜や混雑時を除き、飲み物・軽食類の販売を実施している。つまり、車内販売という商売がダメになったわけではない。車内販売の役割が変わりつつあるようだ。
そもそも車内販売は、いわば乗客の“生命維持装置”にすぎなかった。日本人のおもな交通手段が列車であり、長距離列車が多く、寝台車や食堂車があった頃に誕生した。国鉄の合理化で食堂車が廃止され、乗客から「腹が減った」「喉が渇いた」などと苦情があり、仕方なしに車内販売を始めたという経緯だった。いまでは考えにくいと思うけれど、「酒が足りない」「タバコが切れた」という客が最も面倒だったかもしれない。だから「お客様に楽しんでいただく」というような品ぞろえではない。
本来なら列車を降り、駅から外の商店に行って調達すべき食べ物や飲み物、暇つぶしの雑誌を車内で買える。そうした「便利」なサービスが車内販売だった。しかし、人々の要望が多様になり、とくに近年は駅売店のコンビニ化などで対応できるようになった。「便利なサービス」は「もっと便利なサービス」に駆逐される運命にある。
一方、観光列車などの車内販売は活況だ。乗車記念品の雑貨やロゴ入りの菓子が売れる。車内の通路に行列もできる。商品の単価は弁当や茶よりも高い。しかし乗客の欲しいものは「記念品」であり、買い物そのものが「観光」「楽しさ」の要素になっている。売る側も利用者が欲しいと思うものを研究し、品ぞろえを工夫している。
先日、出町柳駅から淀屋橋駅まで京阪「プレミアムカー」に乗った。乗車時間は約50分。車内で乗車記念品が販売されていたので、1,500円のキーホルダーを購入した。箱が立派で、本来はコレクションアイテムのようだ。筆者は実用アイテムしか買わないので、自分の車の鍵に取り付け、現在も愛用している。
飲み物や弁当、菓子などは売店で買えるけれど、車内限定で販売される記念品は単価も高く、売上に貢献しそうだ。北海道新幹線であれば、青函トンネル通過記念品が売れそうな気がする。それは検討されただろうか。
「こだま」の車内販売は実施されず、「やまびこ」の車内販売も終わる。これらの列車は早朝などに通勤客向けの列車として運転されることもある。そこへ旅行客向けのワゴンを押して行っても売れるわけがない。出かけるときにハンカチを忘れたとか、髭をそり忘れたとか、よく見たらネクタイが汚れていたとか、そういう需要のほうが多いと思う。暇つぶしなら週刊誌よりも全国紙や経済紙のほうが売れるはず。カップ酒よりは野菜系の健康的なジュースだろう。
「シンカンセンスゴクカタイアイス」はネット上でも人気が伝わってくる。ファンも多そうだ。しかし、暑い日に列車に乗り込み、冷たいものをすぐ食べたいと思っている人たちに支持されているだろうか。乗車時間が短ければなおさらだ。筆者なら面倒な食べにくいアイスより、最中やビスケットサンドのようなアイスクリームを食べたい。片手で食べられる。溶けにくい。手も汚れない。ネット上の声以外にも耳を傾けてほしい。
筆者は車内販売をあまり利用していなかった。だから廃止されても仕方ないと思う。その一方で、「私が欲しいものはあったかな」という感想もある。ネット上の反応の中に、「乗客が買いたい物を売っていない、努力不足」という声もあった。一理あるだろう。観光列車の車内販売を工夫する研究心があれば、主要列車の車内販売でもビジネスチャンスを見つけられたかもしれない。時間帯・行先・客層に合わせた工夫があっただろうか。
JR各社で相次ぐ車内販売の終了は、2つの意味で残念だと感じる。ひとつは「利用者として困る」、もうひとつは「ビジネスチャンスを自ら潰してしまい、もったいない」だ。