JR東日本は2月15日、羽田空港アクセス線(仮称)の環境影響評価手続きの実施に向けた準備を進めると発表した。いままで「構想」だった路線が「計画」へと格上げされる。鉄道ファンとしても新路線は喜ばしい。とくに休止中の貨物線「大汐線」復活に喜ぶファンも多いだろう。

  • 田町駅付近に残る大汐線の線路(左端)。写真は2014年撮影(写真:マイナビニュース)

    田町駅付近に残る大汐線の線路(左端)。写真は2014年撮影

JR東日本が手がける羽田空港アクセス線(仮称)は、東海道本線の田町駅付近から分岐し、大井埠頭の東京貨物ターミナル駅付近を経由して羽田空港国内線ターミナルビルまでを結ぶ。このうち、田町駅付近と東京貨物ターミナル駅を結ぶルートで大汐線を再利用する。「大井」と「汐留」の頭文字を取って「大汐線」と呼ばれた。

大汐線は東海道貨物支線のうち、汐留貨物駅と東京貨物ターミナル駅を結ぶ区間だった。汐留貨物駅は現在、「汐留シオサイト」として高層ビルが建ち並ぶ。日本の鉄道が開業した当初、新橋駅があったところでもある。再開発後に旧新橋駅を再現した「旧新橋停車場」が建てられ、「鉄道歴史展示室」とレストランが入居する。

旧新橋駅は後に広大な汐留貨物駅として整備された。築地市場の立地も船便と汐留貨物駅の橋渡しを行う位置が考慮されたらしい。築地市場と汐留貨物駅を結ぶ連絡線もあった。その後、東海道本線の旅客需要が拡大し、貨物列車を分離するために汐留~浜松町~大井埠頭~塩浜~浜川崎間の支線がつくられた。

  • かつての大汐線のルート(国土地理院地図を加工)

しかし、鉄道貨物のコンテナ化推進のため、貨物輸送の主役は大型トラックが乗入れ可能な東京貨物ターミナル駅に移っていく。さらに国鉄分割民営化により、汐留駅の広大な土地を売却するため、貨物駅機能は大井埠頭の東京貨物ターミナル駅へ移転した。その結果、大汐線は休止線となった。浜松町付近から旧汐留駅にかけての線路は都営大江戸線建設工事のために撤去されたけれど、現在も線路の大半が残っている。

大汐線は東海道新幹線が建設された後に開業している。東海道本線と合流していなかったため、羽田空港アクセス線(仮称)が東海道本線と接続するには立体交差が必要となる。筆者は2014年に大汐線を取材したことがあり、このときは大汐線の一部を地下区間として東海道新幹線の下を通り、東海道本線と合流するとのことだった。合流地点は未定とされた。

ただし、田町駅の北側であれば線路用地に余裕がある。東海道本線の上下線の間を広げて大汐線を挟むことで、分岐点を作れそうだ。あるいは旧大汐線から少し逸れるけれども、建設中の高輪ゲートウェイ駅の北側に合流地点を作れるかもしれない。

東京貨物ターミナル駅と羽田空港を結ぶルートは新規建設とし、新たにトンネルを掘る。羽田空港アクセス線(仮称)の全体的な構想としては、田町駅分岐ルートの他に、りんかい線に乗り入れ、大崎方面・新木場方面への2ルートもある。2014年にJR東日本が検討開始したと報じられたとき、総工費は約3,000億円と見積もられていた。さすがに単独事業では厳しいと見えて、国や東京都などの支援も仰ぎたいという意向だった。

  • 東京貨物ターミナル付近の線路跡(草に覆われた部分)。右に貨物駅があり、左にりんかい線の車庫がある。羽田空港アクセス線(仮称)は、りんかい線の車庫の入出庫線を利用し、大崎方面・新木場方面を結ぶルートも検討されている。写真は2014年撮影

しかし、まずはJR東日本だけで完結する旧大汐線ルートに着手することになった。2月15日付の朝日新聞の記事「羽田空港から東京駅へ18分 アクセス線、JR東が建設」によると、JR東日本代表取締役社長の深澤祐二氏は記者会見で、「2022年度に着工、29年度完成目標、全額自己負担も検討」と語ったという。東京~羽田空港間は約18分を見込んでいる。現在、浜松町駅乗換えで東京モノレールを経由すると約28分、品川駅で京急線に乗り換えると約33分かかる。10分以上の短縮は魅力的だろう。

空港利用者としては、24時間運行にも期待したい。京急空港線は民家に囲まれているため、深夜・早朝時間帯の運行は難しい。一方、羽田空港アクセス線(仮称)の沿線は倉庫街とビル街。タワーマンションも建っているけれども、高級物件だけに遮音性能は高いはず。低層戸建て民家がほとんどないから、終夜運転も十分可能ではないか。

鉄道ファンにとっては、旧大汐線の車窓も楽しみだ。線路は東海道新幹線の回送線の隣。高輪ゲートウェイ駅の東側の高架線から、東京タワーをはじめとする東京の景色を俯瞰できる。夜景も素晴らしいことだろう。倉庫街や京浜運河の水辺の風景も独特で、東京の鉄道路線としては特徴的な車窓になるはず。東京貨物ターミナル駅付近で貨物列車や新幹線車両基地も見える。

大汐線は貨物専用線だったけれども、かつて旅客列車も走っていた。1985年から運行された「カートレイン」だ。自動車とドライバーを同じ列車で運ぶという、カーフェリーの列車版だった。登場時の始発駅は汐留駅、終着駅は東小倉駅で、後に「カートレイン九州」と改称され、1994年まで活躍した。電源車1両、A寝台車3両、ワキ10000形貨車9両という構成で、運行開始当初は人気があったようだけど、貨車に搭載できる自動車の大きさに制限があったため、好景気によるマイカーの大型化に対応できなかった。

「カートレイン」は短命で終わってしまったため、当時、マイカーや運転免許を持っていなかった若い鉄道ファンたちには手の届かなかった列車ともいえる。それだけに「大汐線に乗れなかった」と悔しい思いをした人も多いのではないか。筆者もその1人だ。

もしJR貨物と連携できるなら、東京貨物ターミナル駅から北海道、あるいは九州へ向かう「カートレイン」、バイクを積んだ「モトトレイン」の復活も可能かもしれない。羽田空港アクセス線(仮称)は航空利用者以外の使い道もありそうだ。大いに期待したい。