赤村トロッコ油須原線が10月28日に15周年を迎えた。期間限定、月1回の運行で乗車のべ4万人を達成。同日に開催されたトロッコイベントでは屋台村も用意され、多くの親子連れでにぎわった。普段は180人前後というトロッコ利用者はこの日、411名を記録。前日の176人と合わせて、2日間の利用者は587人となった。

  • 「赤村トロッコ油須原線」4万人目の乗客を祝福。鉄道タレントの木村裕子さんもお祝いに駆けつけた

4万人目の乗車は香春(かわら)町から娘さんとお孫さんを連れて訪れた松井さん。お孫さんは赤村の太鼓チーム「赤村 縁(えにし)太鼓」のメンバーで、平成筑豊鉄道田川線の列車に毎週乗って練習に通っているそうだ。

赤村トロッコ油須原線は未成線区間の一部を引き継ぎ、運行している。未成線とは、鉄道路線建設計画があったものの開業しなかった路線や区間を指す。そもそも着工されなかった区間もあれば、建設途中で中止となった区間もある。未成線の中にはトンネルや鉄橋などが完成していたにもかかわらず、開業しなかった区間もある。

油須原線は旧国鉄田川線(現・平成筑豊鉄道田川線)の油須原駅と、福岡県嘉穂郡稲築町(現・福岡県嘉麻市)にあった漆生(うるしお)駅を結ぶ鉄道路線として計画された。構想は古く、1922(大正11)年に交付された鉄道敷設法改正で指定されている。目的は筑豊炭田で採掘された石炭を周防灘の苅田港へ運ぶためだった。計画された区間のうち、漆生~下山田間は漆生線の延伸区間として、上山田~豊前川崎間は上山田線の延伸区間として1966(昭和41)年に開業した。下山田~上山田間は上山田線として開業済みだった。

残りの豊前川崎~油須原間も建設工事が進んだけれども、エネルギー事情の変化によって石炭需要が低下し、旅客営業だけでは赤字となることから、国鉄はこれを理由に運行事業を引き継がない方針となった。1980(昭和55)年に工事は中止され、豊前川崎~油須原間が開業を迎えることはなかった。用地は9割以上確保され、路盤は6割以上、レールも4割以上敷設されていたという。線路用地はすべて、帰属する自治体に無償譲渡された。

  • 漆生線・上山田線として開業した区間もすでに廃止されている

未成線区間は放置されていたけれど、1995(平成7)年に赤村村民有志で「軌道自転車トロッコイベント」が開催され、200人を集客して好評を博した。このイベントは翌年も開催された。ここから赤村トロッコの構想が持ち上がる。

当初は旧国鉄の車掌車を使うなどの案もあったという。しかし油須原線のトンネルを活用した水道管が設置されることになり、路盤が嵩上げされてしまう。国鉄在来線規格の車両は通行できない。それでもあきらめなかった有志は、筑豊炭田で使われていたトロッコ規格に着目。岐阜県の神岡鉱山で使われていた機関車と客車を譲り受けた。

2003(平成15)年3月15日、平成筑豊鉄道田川線に赤駅が開業。この駅は旧国鉄田川線と油須原線の分岐予定地点に設置された。同年10月5日、赤駅を起点とする観光鉄道として赤村トロッコ油須原線が開業した。未成線区間のうち、赤村に属する約1.7kmを往復20~25分でゆっくりと走る。終点は野原越(のばらごし)トンネル内にあり、ここが赤村と隣の大任町との境界となる。

  • 筑豊炭田ゆかりの610mm軌間。神岡鉱山で使われていた車両

  • 当日は好天に恵まれた。田園地帯で清々しい風を浴びて走る

実際にトロッコ列車に乗ってみると、台車に衝撃緩衝装置がないため、ガタゴトと揺れる。木製の椅子は固い。炭鉱の人々はこんな乗り物に乗って働いていたのか……と思いつつ、赤村の田園風景はとても美しい。トンネル内にはコウモリが生息しており、前後の機関車の運転士が懐中電灯で示してくれる。列車に驚いたか、コウモリたちがバタバタと飛び回る。コウモリ専門のサファリパークのようだ。

トンネル内の折返し地点はかつて柵で塞がれていたという。現在は非常口的な配慮から扉が設置されているけれども、トロッコ列車の運行はここまで。出口は見えているだけに残念だ。せめてトンネル出口まで延伸したいと関係者も望んでいるものの、実現には至らないらしい。

赤村トロッコ油須原線は開業時からボランティアによって運営され、乗車寄付金として大人300円・こども150円を支払うしくみになっている。トロッコ列車の運行は3~11月の日曜日に月1回。ただし、イベントなどで臨時運行する日がある。とても楽しい乗り物で、毎週走らせることができれば村の活性化につながりそうだけど、ボランティアスタッフに高齢者や遠方からの参加者が多いため、難しいという。

  • トンネル内の町村境界線で折り返す。もっと先へ行きたい…

10月27日に開催された「第2回全国未成線サミットin赤村」でも、乗客減とボランティアスタッフの高齢化が課題という地域が多かった。赤村トロッコ油須原線の場合は赤駅に屋台が1台あるだけで、周辺に飲食店などが少ない。トロッコ列車の定員は25名で、1時間に2往復程度、10時~16時の運行だから、1日の最大利用者数は300人になる。10月28日の411人は大記録で、予定の時刻表では行列を捌ききれず、ピストン輸送に切り替えていた。

赤村の村長、道廣幸氏は「客車をもう1台つなぐと、観光バス1台分になると思いますが……」と、観光資源としての伸び代に期待しつつ、課題の多さをにじませる。ちなみに村長も赤村トロッコの元運転士であった。

赤村トロッコ油須原線の次の運行予定は11月11日。2018年の運行はこれが最後で、2019年の運行日は未定とのこと。赤駅から徒歩15分ほどの赤村特産物センターでは、450円でカレーライス食べ放題だった(素材によって前後するという)。このカレーライスは「ばっちゃんカレー」として人気のようで、レトルトパックも販売されている。鉄道ファンならずとも楽しい赤村トロッコ油須原線、末永く続けてほしい。