小田急電鉄は2月23日、新型特急ロマンスカーGSE(70000形)のプレス試乗会を開催した。当日の様子については本誌既報の通り。当連載では、筆者最大の注目点だったWi-Fiコンテンツについて紹介したい。

  • 2月23日のプレス試乗会は梅ヶ丘駅で解散。その直後に下り急行線をLSE(7000形)が通過した。奇跡のツーショット!?

12月5日の車両公開時にも、GSEに採用される新しいWi-Fiコンテンツサービスが紹介されていた。しかし車体の美しさ、車内設備の工夫などに夢中になってしまい、解散後に「しまった! Wi-Fiコンテンツを試していなかった!」と後悔した。2月23日に試乗する機会を得て、さっそくWi-Fiコンテンツの全メニューをチェックした。

GSEには2種類の無料Wi-Fiサービスがある

「Romancecar Link(ロマンスカーリンク)」と名づけられたコンテンツサービスの最大のお楽しみは展望映像だ。先頭車に取り付けられたカメラの映像が配信される。ロマンスカーの一番人気は展望席。しかし展望を楽しめない中間車も料金は同じ。これが乗客にとって格差を感じる部分だった。「Romancecar Link」で展望映像が配信されると、中間車でも手元の端末で楽しめる。先頭車と中間車の格差是正というわけだ。

中間車への展望映像の配信は小田急電鉄が初めてではなく、近鉄特急の一部列車でも車内モニターで実施していた。観光特急「しまかぜ」もWi-Fi配信を実施している。展望映像だけでもうれしく、眺めていて飽きなかったけれども、「Romancecar Link」には他にもたくさんのコンテンツがあった。読み物、動画、記念映像などが豊富だ。これだけあれば中間車でも、風景が見えない夜間の乗車でも楽しめる。

  • 「Romancecar Link(ロマンスカーリンク)」日本語版トップメニュー

GSEには2種類の無料Wi-Fiサービスがある。前述の「Romancecar Link」と、もうひとつは「Odakyu Free Wi-Fi」だ。「Romancecar Link」はGSE専用のコンテンツを利用できるネットワーク。「Odakyu Free Wi-Fi」は2014年12月1日から始まった無料インターネット接続サービスで、小田急線の駅やロマンスカー、おもな観光施設などにアクセスポイントが設けられている。「Romancecar Link」はインターネット接続機能がないため、コンテンツの利用中、同時にインターネット接続はできない。たとえば展望映像のスクリーンショットを保存してSNSに送信したい場合、「Romancecar Link」をいったん終了し、「Odakyu Free Wi-Fi」につなぎ直す必要がある。

「Odakyu Free Wi-Fi」は他のフリーWi-Fiサービスと同様に暗号化されていないため、オンラインバンキングやショッピングサイトなど、パスワードを送信するようなサービスは使わないほうがいいだろう。仕事の重要なメールも控えよう。SNSで使った場合も、終了後にセキュリティが確保されたネットワークに接続してパスワードを変更するくらいの用心が大切。「Odakyu Free Wi-Fi」も情報の閲覧用と考えておきたい。

  • 2種類のWi-Fiへのアクセス方法は座席背面に表示されている。どちらもオープンネットワークのため、端末のWi-Fi設定で表示されたSSIDを選択すれば接続できる。座席背面には他にドリンクホルダー、マガジンラック、傘立てを配置。座席下には航空機機内持込みサイズの荷物を収納できる

なお、「Odakyu Free Wi-Fi」は1回の接続で3時間まで使えるから、新宿~箱根湯本間の乗車中は常時使える。「Romancecar Link」で車内専用コンテンツ、「Odakyu Free Wi-Fi」でインターネットコンテンツを閲覧すれば、車内で退屈することはなさそうだ。

展望映像は「後展望」も眺められる

「Romancecar Link」は日本語、英語の他に中国語、韓国語、フランス語など8言語に対応する。トップメニューは「現在地」「展望映像」など6種類と注意事項の項目があった。注目はやはり展望映像。スマートフォンで項目をタップすると、すぐに先頭車に設置されたカメラからの映像が始まる。映像の左下には「後展望」という項目があり、タップすると最後部の展望も見ることができる。「あ、7000形とすれ違った!」と思ったら、「後展望」でその姿をもう一度眺められる。前も後も眺められるとは粋な演出だ。

Wi-Fi対応のノートパソコンなどを持ち込めば、もっと大きな画面で展望映像など各種コンテンツを楽しめるだろう。各座席にコンセントがあるから、バッテリー持続時間を気にしなくていい。カメラの位置は運転台中央付近のようで、視点は展望車座席より高い位置にある。展望席は他の座席より座面が低いため、防音壁などで左右の視界が塞がれてしまうから、展望映像のほうが視界良好かもしれない。

  • 前方の展望映像。多摩線内を走行する貴重な場面かも!?

  • 後方の展望映像。カメラは窓ガラスの手前にあるため、光の反射が映り込む場合もある

もちろん、展望映像があるからといって、展望座席の優位性がなくなったわけではない。展望座席からの眺望や迫力は、配信された映像とは段違いに良い。また、プレス試乗会で特別に体験できたけれども、映像配信モードは非常ブレーキがかかった場合、自動的に切れる。展望座席なら途切れることなく風景を見られる。もちろん展望座席でも展望映像として後展望を楽しめる。

しかし、先代までの展望タイプのロマンスカーにあった「展望席」「それ以外の座席」の格差は縮まった。おそらく小田急電鉄としても、この格差の解消は長年の懸案だったはずだ。ちなみに、先頭車は展望に配慮するため、展望席もその後方の座席も荷棚がない。その分の荷物スペースは座席の下に用意された。一方、中間車は先頭車と同じ仕様の座席下スペースに加えて、荷棚も使える。荷物の多い人は先頭車両を選びにくいだろうから、「Romancecar Link」の展望映像はうれしいはずだ。

  • ノートPCを持ち込めば、大画面で展望映像を楽しめる

願わくは他のロマンスカー車両にも「Romancecar Link」を設置してほしい。とくに展望座席を持たないEXE(30000形)やMSE(60000形)にも搭載されたら魅力が増すと思う。

オリジナル動画やお楽しみ要素も

「Romancecar Link」は展望映像の他にもお楽しみ要素がある。「現在地」はいま走っている位置がカーナビ風にオリジナル地図上に表示される。できれば車窓から見える山や鉄橋の名前なども記載するとなお良いと思った。鉄道ファン向けに車両基地の位置も入れると喜ばれそうだ。「沿線情報」はおもに読み物で、エリアごとの観光案内がある。普段見る機会が少ない観光CM動画もある。また、小田急電鉄情報誌「Odakyu Voice」や、ロマンスカー社内誌「ロマンスカーるるぶ」も読み応えがありそう。

GSEに乗車したら、必ずチェックしておきたいコーナーは「クルーズコンテンツ」。乗務員、ロマンスカーアテンダント、車両整備係らスタッフによる手作りのコンテンツで、社員でなければ撮れない動画や大人用・こども用のクイズゲームなどがある。GSEの製造工程を紹介する動画も見入ってしまった。景色を見るか動画を見るか悩ましく思うほど。

  • 乗車しなければ観られないオリジナル映像

  • お楽しみコンテンツが盛りだくさん

「日付入りの乗車記念カード」「ぬりえ」「すごろく」などは「ダウンロードしてお持ち帰りください」というプレゼントアイテムだ。記念カードはスマホでもスクリーンショットで保存できる。塗り絵やすごろくはノートパソコンでダウンロードしたほうがよさそうだ。約1時間の乗車にノートパソコンは不要、と思ったら大間違い。「Romancecar Link」はスマートフォンでも楽しめるけれども、ノートパソコンがあればもっと楽しい。

プレス試乗会で「Romancecar Link」を体験してみて、2つの点でロマンスカーの旅を革新したと感じる。ひとつは中間車でも展望映像を楽しめること、もうひとつは車窓を期待できない日没後の乗車でも、お楽しみコンテンツが盛りだくさんであることだ。

小田急電鉄は3月17日のダイヤ改正で、一部の特急ロマンスカーにおいて新宿~小田原間の所要時間60分を切るという、創業以来の悲願を達成した。しかし、コンテンツを楽しむ時間が減ってちょっと残念、なんて思ってしまった。すべてのコンテンツを楽しむために何度も乗りたい。コンテンツが新しくなったらまた乗りたい。