社会人になり半年経つと、学生時代に奨学金を借りた方はその返済が始まります。奨学金を借りることで学費の不安が少しでも減り、学業に専念できたのなら、奨学金を有意義に使えたと言えるかもしれません。一方で、「返済が心配」という声も耳にします。「奨学金といっても借金なのだから、できれば早めに返済したい」と考える人もいるでしょう。

そこで本稿では、日本学生支援機構の奨学金の仕組みや、返済は急ぐべきかどうかについて解説します。奨学金を利用したという新社会人の皆さんは、ぜひ今後の参考にしてみてください。

  • 自分が利用している奨学金について、しっかりとその内容を把握しておきましょう(写真:マイナビニュース)

    自分が利用している奨学金について、しっかりとその内容を把握しておきましょう

日本学生支援機構の奨学金とは

日本学生支援機構の「国内の奨学金」には、原則的に返済義務のない「給付型」と、返済の必要がある「貸与型」があり、一般的に利用されているのは貸与型となります。貸与型には、無利息で借りられる「第一種奨学金」と、利息付貸与の「第二種奨学金」そして、「入学時特別増額」があります。

第一種奨学金について
第一種奨学金は、国内の大学院・大学・短期大学・高等専門学校・専修学校(専門課程)に在学する学生・生徒が対象となり、特に優れた学生及び生徒であり経済的理由により著しく修学困難な人に貸与される奨学金です。

貸与される金額は、学校種別、設置者(国立・公立・私立)、入学年度、通学形態(自宅通学・自宅外通学)などによって、決められた貸与月額のいずれかを選択する形となります。

返済方法は2種類あります。「定額返還方式」は、貸与総額に応じて月々の返済額が算出され、返還完了まで定額で返還する方法です。もうひとつは「所得連動返還方式」で、前年の所得に応じてその年の毎月の返済額が決まる方法です。所得連動返還方式の場合、毎年の所得によって返還月額が変わるので、返還期間(回数)は定まりません。

第二種奨学金について
第二種奨学金は、国内の大学院・大学・短期大学・高等専門学校(4・5年生)・専修学校(専門課程)の学生・生徒が対象となり、第一種奨学金よりゆるやかな基準によって選考された人に貸与されます。

貸与額は、大学院においては5種類の貸与月額から、大学・短期大学・高等専門学校(4・5年生)・専修学校(専門課程)においては11種類の貸与月額から、それぞれ自由に選択できます。第二種奨学金の利息は、年(365日あたり)3%を上限として付き、在学中は無利息となります。なお、第一種奨学金と第二種奨学金は併用することも可能です。

入学時特別増額について
入学時特別増額とは、第一種奨学金または第二種奨学金に加え、入学した月の分の奨学金の月額に一時金として増額して貸与される利息付の奨学金です。

日本政策金融公庫の「国の教育ローン」に申し込んだが利用できなかったという世帯の学生・生徒が対象で、貸与額は5種類から自由に選択できます。なお、入学時特別増額だけの利用や入学前の貸与はできません。

奨学金の返済は急ぐべき?

奨学金を借りると、その貸与総額はとても大きな金額になります。たとえば、4年制の私立大学に自宅から通い、第一種奨学金で毎月5万4,000円を48カ月(4年間)借りれば、その貸与総額は259万2,000円になります。この場合の返済額は毎月1万4,400円で、180回(15年)にわたり返済していくことになります。

第二種奨学金で借りる金額が大きいと、毎月の返済額がさらに大きくなることもあります。ただ、新社会人のうちは返済の負担が大きいものですが、勤続年数が長くなり、給与が上がったりボーナスがもらえたりするようになれば、まとまった金額を返せることがあるかもしれません。

その場合、日本学生支援機構の奨学金は「繰上返還」が可能です。繰上返還を希望する場合は、専用ホームページ「スカラネット・パーソナル」や電話にて手続きを行いましょう。もしくは「繰上返還申込書」に必要事項を記載し、郵送またはファックスで送ることでも手続きができます。繰上返還は全額または一部が選択でき、一部繰上の場合は返還残回数が減り、返済の期間が短縮されます。

奨学金は早めに返してしまったほうが、気分的にはすっきりするものです。では、返済は急ぐべきなのでしょうか。

これは、借りている奨学金が第一種奨学金か第二種奨学金かによって考え方が少し異なりますが、両者に共通して言えるのは、「無理な繰上返還はすべきでない」ということです。

たとえば、繰上返還をすることで、急な出費や病気などに備える現金や、近い将来必要なお金がなくなってしまえば、本末転倒でしょう。また、奨学金以外のローンを組んでいる、もしくはこれから組む予定があるなら、そちらの返済を優先すべきです。奨学金は、無金利や低い金利でお金を借りられるのがメリットです。その利点を生かすためにも、他のローンの返済を差し置いて奨学金の返済を急ぐ必要はありません。

第二種奨学金を借りていて繰上返還をする余裕があるなら、早めの時期に返すのがおすすめです。利息の付く第二種奨学金の場合、毎月の返済額は同じでも、元金と利息の比率が返済期間を経るごとに変わっていきます。はじめのうちは比率の大きい利息が徐々に減り、反対に、元金の比率は徐々に増えていくのです。返済が始まって早いうちに繰上返還を行うと、比率の大きい利息分が減ってお得になるというわけです。なお、繰上返済に手数料のかかるローンもありますが、奨学金の場合は手数料がかかりません。

第一種奨学金は無利息で長い間お金を借りられますので、その好条件を生かすのもいいでしょう。前述の通り、手元にまとまったお金があるなら他のローンの返済に充てたり、必要な貯蓄に回したりしたほうが、奨学金の返済を急ぐより有意義に使えることもあります。

ただし、早く返済したほうがその後のマネープランが立てやすいことは言うまでもありません。無理をする必要はありませんが、「結婚や子どもの出産までに返済する」など目標を立てるのもいいでしょう。

なお、ひとつ頭に入れておきたいのは、奨学金も借金であるため、住宅ローンを借りる際には申告が必要ということです。また、住宅ローンの審査で奨学金の延納や滞納が発覚すると、希望の借入ができないケースもあります。さらに、奨学金を借りていると、その分住宅ローンの借入可能額が減ってしまいます。借入可能額いっぱいまで住宅ローンを組むのはおすすめできませんので過度に心配する必要はありませんが、奨学金の返済が終わっていないとそのような影響があることを知っておきましょう。

返済に困ったら日本学生支援機構へ連絡を

奨学金はありがたい制度ですが、それを利用することで、社会に出た途端いきなり大きな借金を背負うことにもなります。早く返したいどころか、返済が困難になることも考えられます。そのような場合は、日本学生支援機構に必ず連絡しましょう。減額返還や返還期限猶予などの措置があります。奨学金を利用している人は、自分がどの種類の奨学金を借りていて、毎月いくらずつ、いつまで返すのかを再度確認し、しっかりと返済計画を立てましょう。

武藤貴子

ファイナンシャル・プランナー(AFP)、ネット起業コンサルタント

会社員時代、お金の知識の必要性を感じ、AFP(日本FP協会認定)資格を取得。二足のわらじでファイナンシャル・プランナーとしてセミナーやマネーコラムの執筆を展開。独立後はネット起業のコンサルティングを行うとともに、執筆や個人マネー相談を中心に活動中。