社会人になると、家族や周りの人から保険の加入を勧められるという場面も出てくるでしょう。「社会に出て経済的に自立したのだから、さまざまなリスクに備えておくべきかも」「友達と、どの保険に入ったらいいか話し合っている」など、すでに保険の加入を検討している人もいるかもしれません。

しかし、新社会人の皆さんは、民間の保険に急いで入る必要はない場合も多いのです。本稿では、生命保険がどのようなものなのか、そして生命保険などに加入する前に確認しておくべきポイントについて解説していきます。

  • 「生命保険」について、ちゃんと理解していますか?(写真:マイナビニュース)

    「生命保険」について、ちゃんと理解していますか?

生命保険ってなに?

「社会人になったら保険に入るもの」と、漠然と考えている方は多いようです。この場合の保険とは、一般的には「生命保険」を指していますが、それでは生命保険とは具体的にはどのようなものなのでしょうか。

実は、生命保険は定義の仕方によって主に2つの意味合いが存在する保険です。

まず、広い意味では「死亡や病気、ケガ、介護などによって、経済的に困らないように備えるための保険」であり、子どもの教育費や老後資金など、将来必要になるお金を準備する手段としても用いられています。

この場合、死亡保険や養老保険、医療保険、介護保険、学資保険、個人年金保険など幅広い保険をまとめたものが生命保険と呼ばれています。ちなみに、保障の対象をヒトとしたものが生命保険であるのに対し、保障の対象をモノにしたものが損害保険です。

一方、狭い意味での生命保険とは、死亡保険を指します。この場合、満期(保険契約が切れる日のこと)の有無や、満期時に保険金がもらえるかどうかによって、「終身保険」「定期保険」「養老保険」の3種類に分けられます。なお、死亡保険とは、被保険者(保険の対象となっている人)の死亡や高度障害によって、経済的損害を被ることに備える保険です。

ただし、生命保険というと、広義の意味で使われる場面が一般的かもしれません。さらに、新社会人の皆さんが「保険」や「生命保険」の加入に悩むとしたら、その多くは「死亡保険」や「医療保険」のことを指しています。それでは、社会に出たらこれらの保険に入ったほうがいいのでしょうか。

民間の保険に加入する前に確認すべきポイントとは?

周囲の友達や同僚など、自分と同じ年代の人が保険に入っていると聞くと、自分だけ置いてけぼりにされた気分になり、加入を慌ててしまう人がいるようです。また、「保険に入っていないと何となく不安だから」という理由で加入する人も見かけますが、そもそも保険とは漠然とした目的で入るものではありません。

死亡保険や医療保険などの生命保険は、「自分が死亡した時、経済的に困る家族がいる」「病気やケガで入院した時、経済的に困る」という明確な基準を元に加入を検討します。このポイントを押さえておくと、若い世代である新社会人の皆さんに本当に必要な保険がわかるはずです。

まず、死亡保険から考えてみましょう。あなたが独身で養っている家族がいない場合、死亡保障は基本的に不要となります。あなたが死亡した時、経済的に困る人はいないからです。つまり、一般的に新社会人の方に死亡保険は必要ない場合が多いということです。

では、死亡保険はどのようなタイミングで加入すればいいかというと、結婚して子どもが生まれたら死亡保障を備えておくのがいいと言えるでしょう。子どもが成人して独立するまでの間は、あなたが死亡した場合に生活費や将来の教育費などの面で経済的に困る人がいるためです。なお、結婚しても子どもがおらず、夫婦共働きで配偶者も正社員の場合は、基本的には死亡保険は不要だと言えます。こうして考えてみると、社会に出たからといって、すぐに死亡保険に入る必要はないケースが多いと理解できますね。

それでは、医療保険はどうでしょうか。医療保険とは、原則的に入院と手術の時に給付金が受け取れる保険のことです。つまり、通院のみの治療では給付金はもらえないのです。病気やケガをした時は外来診療で済むことのほうが多いのですが、そうした時には医療保険は利用できないことになります。そこで、病気やケガの時にまず頼りになるのは、会社で加入する「健康保険」なのです。

健康保険に加入していると、医療費の自己負担が3割で済むだけでなく、「高額療養費」という制度が利用できます。これは、医療費の自己負担が重くなりすぎないよう、月々の医療費に上限が設けられているものです。そのため、病気やケガで高額な医療費がかかっても、実際の自己負担は1カ月あたり多くても9万円弱に抑えられます。

そのほかにも、健康保険には「傷病手当金」といって、病気やケガで働けなくなった時に最長1年6カ月、手当金が受け取れる制度もあります。さらに、「休業補償」などの補償や、会社の健康保険組合が独自で給付を行っているケースもあります。

つまり、民間の医療保障を手厚くする前に、これらの「すでに加入している(これから加入する)公的な保険」の存在を確認し、いざという時に活用できるようにしておくほうがずっとお得なのです。

その上で、病気やケガに備えるには、どのような使い道もできる「現金」でしっかり貯金をしておくことが大切です。そうすれば、民間の医療保険は、公的保険や貯蓄でカバーできない分を補うものとして、入院と手術に備える最低限の保障だけ確保しておけばいいことになります。これなら保険料が安く抑えられますし、賢い加入の仕方と言えるでしょう。

自分にとってどのような保障がなぜ必要なのか

新社会人の方なら、基本的には死亡保険は要らず、最低限の医療保障だけ確保していればいいことがおわかりいただけたでしょうか。自分にとってどのような保障がなぜ必要なのか理解していれば、周りに流されて無駄な保険料を支払ってしまうこともありません。社会人になったら、まずは自分が加入している公的保険や会社の制度から知っておきたいですね。

武藤貴子

ファイナンシャル・プランナー(AFP)、ネット起業コンサルタント

会社員時代、お金の知識の必要性を感じ、AFP(日本FP協会認定)資格を取得。二足のわらじでファイナンシャル・プランナーとしてセミナーやマネーコラムの執筆を展開。独立後はネット起業のコンサルティングを行うとともに、執筆や個人マネー相談を中心に活動中。