漫画や小説をもとに実写化される「原作モノ」が増える中、独自に生み出す世界観で「絶対に観客の心をつかむ」という揺るぎのない気概をもって、映画制作に挑む人々を取材する連載「オリジナルの担い手たち」。第2回は、綾瀬はるかと坂口健太郎初共演の映画『今夜、ロマンス劇場で』(公開中)の稲葉直人プロデューサーのあふれ出る映画愛に触れる。

本作は、誰からも忘れ去られたモノクロ映画の中から現実世界に飛び出した美雪(綾瀬はるか)と、映画監督を夢見ながらスクリーンの中の美雪に恋をしていた健司(坂口健太郎)の切ない恋物語を描く。この作品の萌芽はまさに映画的で、今から10年前まで遡る。アシスタントプロデューサー時代の稲葉氏は綾瀬と出会ったことで、「もっと映画館でしか楽しむことのできないオリジナルの物語があってもよいのではないか」という大いなる野望を抱いた。

『のだめカンタービレ』『テルマエ・ロマエ』シリーズの武内英樹監督、『信長協奏曲』の脚本家・宇山佳佑氏。稲葉氏と共に原作モノを手掛けた同志たちが再集結し、完全オリジナル脚本による映画が完成した。そこには情熱のみならず、原作含めた映画作りの経験、名作への尊敬の念と豊富な知識が惜しみなく注がれていた。

  • 坂口健太郎 綾瀬はるか

『ハッピーフライト』の現場で「ボーッと考えていた」

――もともと稲葉さんの発案だったそうですね。

もう10年前になりますね。アシスタントプロデューサー時代に『ハッピーフライト』(2008年)を担当して、主演の綾瀬さんはとにかく「ユニークな女優さん」という印象でした。凛としたシリアスなお芝居はもちろんですけど、コメディエンヌなところだけじゃなく、とにかく存在感がある方。似たような女優さん、いませんよね? そこが何よりも魅力的だと感じました。綾瀬さんだからこそできる、最大限魅力を引き出せる作品は何だろうか……現場に立っている時にそんなことをボーッと考えていたんです。

――いつもそうやってアイデアが浮かぶんですか?

通ってない企画ではいくつもありますよ(笑)。役者さんを起点に考えることはあります。ただ、それは時と場合によって異なっていて、原作や小説を読んだ時に浮かぶこともあって。イメージがピッタリ重ならないと、あまり気持ちが動かないんですよね。例えば、『テルマエ・ロマエ』(2012・2014年)の時は阿部寛さん、『信長協奏曲』(2016年)の時は小栗旬さんだったんですが、『テルマエ・ロマエ』は原作が外国人だったので「ちょっと待てよ」と一拍ぐらい間がありました(笑)。『信長協奏曲』は、すぐに小栗さんが。原作を読んでいると、「この人だったらすごく面白くなる」と自然と浮かぶんですよね。

  • 稲葉直人プロデューサー

    稲葉直人 1977年生まれ。2001年、フジテレビに入社。映画プロデューサーとして、これまで『劔岳 点の記』(09)、『SP 野望篇/革命篇』(10・11)、『テルマエ・ロマエ』シリーズ(12・14)、『真夏の方程式』(13)、『バンクーバーの朝日』(14)、『信長協奏曲』(16)などを担当し、2013年には優れた映画製作者に贈られる「藤本賞」を受賞した。現在は編成局編成部所属。

――『ハッピーフライト』は2月3日に地上波でも放送されました。あらためて観ましたが、面白い作品ですね。

6回目の放送なのに視聴率が10%超えて、本当にすごい映画だなと思いました。

――どのあたりのシーンで綾瀬さんの作品意欲が湧いてきたんですか?

パッと思いついたのが、落雷で停電した映画館にすすけた「お姫様」の綾瀬さんが現れるというものでした。『ローマの休日』(1954年)のアン王女だったり、『隠し砦の三悪人』(1958年)の雪姫だったり、そういう感じの役がハマりそうだなと。スクリーンから飛び出してくる話は、『カイロの紫のバラ』(1986年)とか『ラスト・アクション・ヒーロー』(1993年)とか『魔法にかけられて』(2008年)とかいろいろあるんですが、『キートンの探偵学入門』(1924年)に影響を受けてウディ・アレンが『カイロの紫のバラ』を作ったという背景もあります。そうした作品が脈々とある中で、白黒映画から白黒のまま出てくる作品ってなかったよなと。

  • 綾瀬はるか

    美雪役・綾瀬はるか

――『ハッピーフライト』の現場で思い浮かんだことが、そのまま今回の設定に繋がっていますね。

そうですね、細かいところは脚本家と詰めました。映画監督を目指す青年は振り回される側。王女と青年の恋愛物語は、本来であれば日本では成立しません。でも、SF設定であればそれが可能になる。それに加えて、実際は存在しない人間と存在する人間が後半で立場が逆転するのは面白いなと。前半がコメディで、後半はまさかの切ない展開になる。それをどう細かく描いていくかがスタートラインでした。

原作モノをやる時は、「原作だからやってはいけないこと」のような制限があるんですが、オリジナルはそれがない分、「観客を楽しませるにはどうすればいいのか」を徹底的に考えられる。「まだ何かある」という欲がどんどんあふれ出て来るんです。

――脚本の宇山佳佑さんと練り続けて。

そうですね。1年半前に編成部に異動したので日中はそっちの仕事をしながら、深夜はファミレスで映画の打ち合わせ。ちょうど映画化が決まった後ぐらいの人事異動だったんです。自分発のものだと脚本家や監督を置いてけぼりにはできないし、キャストもせっかくオリジナルに乗っていただいているのに、「すみません。僕いなくなります」とは言えませんからね。