• 北村一輝

    後藤龍之介役・北村一輝

――前半の肝となるコメディでは、北村一輝さんの存在が大きかったように思います。劇中の『ハンサムガイ』シリーズの主演を務める大御所役者・後藤龍之介。ナルシストですが、どんなことに巻き込まれても超ポジティブな、まさにハンサムガイ。彼のリアクションに、試写室が笑いに包まれていました。

よかったです(笑)。脚本を作る前に、好きな作品を全部観返したんですよ。それで気づいたのは、絶対にコメディリリーフで強烈なインパクトのキャラクターがいて。その人が笑わせてくれるんですけど、最後に心に残ることを言って主人公の背中を押すみたいな。これ、教科書に載せたほうがいいんじゃないかというぐらい、ラブコメディには外せないポイントでした。

劇場支配人役の柄本明さんは”仙人”のようなポジション。こちらもこうしたラブストリーでは欠かせない存在です。『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004年)の山崎努さんもそういう役でした。ちょっと不思議な役回りの方がいて、その人が何かヒミツを握っていて、主人公たちを見守っているんですよ。これも教科書に載っています(笑)。『猟奇的な彼女』(2003年)にも最後にそうした老人が出てきますよね。

  • 柄本明

    本多正役・柄本明

  • 加藤剛

    病室の老人役・加藤剛

――そこまで計算されていたとは。

綾瀬さんでこの話をやりたいとずっと思っていたんですけど、相手役がピュアな話ですし、イメージにピッタリの人があまりいなくて、そんな時に坂口さんが俳優業に進出して、「この人だったら絶対に良い!」と思って。そこから脚本を細かく作っていったので、坂口さんも当て書きなんです。

加藤剛さんは、大岡越前のイメージが強かったんですが、『舟を編む』(2013年)を何の予備知識もなく観て、「このおじいさん誰だろう」と思っちゃって(苦笑)。なのでエンドロールで「加藤剛」を見つけてビックリしました。加藤さんに断られたらこの映画は成立しない……そのぐらい重要な方でした。この物語をどう受けとめられるのか不安だったんですが、衣装合わせの時に初めてお会いして、「とてもステキな話で感動しました」とおっしゃっていただけて。年齢を重ねれば重ねるほど、加藤剛さんはグッと来る。若い女の子たちは坂口さんの切ない一途なところで涙するらしいんですけど、年配の方々はだいたい加藤剛さんに感動するはずです。やっぱり、すごいなと思いました。

――『ハッピーフライト』の現場でアイデアが浮かんだのが10年前。それから綾瀬さんは数々の作品に出演し、役者として大きく成長しながら、女性としてもさらに美しくなられた。この10年、そのあたりの変化もあったと思います。

もちろん、僕は少しでも早くやりたいと思っていたんですけど、いろいろな事情で時間がかかったことによって、結果的には坂口さんと出会え、綾瀬さんも大人の女性の美しさが磨かれた。10年という月日で、キャラクターも別のものになったと思います。10年前に作っていたら、もっとおてんばだったんじゃないですかね? それに時空を超える物語なので、それを体現するにはむしろ今の方が良かったのかなと思います。

  • 坂口健太郎

    牧野健司役・坂口健太郎

つまらなかったら「次」作品が消費される悲しさ

――たくさんのオマージュが散りばめられていて、映画愛あふれる作品でした。そして、時代の流れと共に映画が次々と消費されていくことの悲しさも描かれています。こういう仕事をしているせいか、深く考えさせられました。

うれしいです。まさにそうなんですよ。「なぜ今この話なのか」と聞く人もいて僕なりに考えたんですけど……今は動画配信の勢いがすごい。作品が消費されるスピードが加速しているような気がして。昔の映画でもビデオやDVDにならない作品はたくさんありましたが、最近はスマホやタブレットで観る時代になっちゃって、つまらなかったらすぐに「次」。この感じが結構さびしくて。すごく熱量を込めて作っているものじゃないですか? 映画館というあの空間だからこそ伝わる物語もあったりするので、それに対するノスタルジー……語弊をおそれずに言えば、警鐘になるんでしょうか。

――綾瀬さんの美しさと華やかな衣装、そして映像美。そういった演出効果なのか、あまり説教臭くは感じませんでした。

最初の脚本ではもっと分かりやすくメッセージを出すことも考えていたんですが、やっぱり説教臭いのはカッコ悪い。お客様に対して徹底的なエンターテイメントにこだわっているわりには、ちょくちょく自分の想いを織り込んだんですが、あらためて脚本家に書いてもらったら「いらないな」と。感じ取ってくれる方だけ伝われば。その程度に抑えました。