漫画や小説をもとに実写化される「原作モノ」が増える中、独自に生み出す世界観で「絶対に観客の心をつかむ」という揺るぎのない気概をもって、映画制作に挑む人々を取材するインタビュー連載「オリジナル映画の担い手たち」。第1回は、NGT48・北原里英主演の映画『サニー/32』(全国公開中)を手掛けた白石和彌監督の映画魂に迫る。

ノンフィクションベストセラー小説を原作とした映画『凶悪』で第37回日本アカデミー賞の優秀監督賞をはじめ、映画賞を総ナメした白石監督。「原作モノ」の魅力と強みを誰よりも知る一方、オリジナルへの熱き思いを日々たぎらせてきた。そんな白石監督にある日、「北原主演で映画を撮ってほしい」という話が舞い込む。『凶悪』でタッグを組んだ脚本家・高橋泉と話し合いを重ねて生まれた完全オリジナル脚本の映画が『サニー/32』だ。

北原が演じるのは、仕事も私生活も冴えない毎日を送る中学校教師・藤井赤理。『凶悪』でも観客を震え上がらせたピエール瀧とリリー・フランキー演じる"凶悪コンビ"は、ネット上で「犯罪史上、もっともかわいい殺人犯」として神格化された少女"サニー"の狂信的信者という役どころ。24歳の誕生日を迎えた赤理を誘拐し、冬山に監禁してしまう。この狂気的なストーリー展開の中には、白石監督の熱き情熱が注ぎ込まれていた。

  • サニー

    白石和彌(しらいし・かずや) 1974年北海道生まれ。1995年、中村幻児監督主催の映画塾に参加し、その後、若松孝二監督に師事。助監督時代を経て、行定勲、犬童一心監督などの作品にも参加。初の長編映画監督作『ロストパラダイス・イン・トーキョー』(10)の後、ノンフィクションベストセラー小説を実写化した『凶悪』(13年)は、第37回日本アカデミー賞優秀監督賞ほか、各映画賞を総なめした。その後、『日本で一番悪い奴ら』(16)、『牝猫たち』(17)、Netflixドラマ『火花』(16)など、幅広いジャンルを映像化し、2018年は『サニー/32』(2月17日公開)、『孤狼の血』(5月12日公開)。

秋元康との話し合いから生まれたもの

――オリジナル映画を手掛けた方々を取材する連載企画、その記念すべき第1回でのご登場となります。強烈なインパクトを残す作品でした。

おもねっては作ってないですからね(笑)。よろしくお願いします。

――秋元康さんとも会われたそうですね。

秋元さんはおそらく常に頭の中にいろいろな断片がある方で、その時も完全に固まった構想があるわけでもなくて、いろいろなアイデアを出してくださいました。でも、必ずそれを採用して欲しいというわけでもなくて。そのほかには具体的な作品名を出されてイメージのすり合わせをして、雑談に近い打ち合わせでした。

  • サニー

――その話し合いの中で、『サニー/32』の"種"となる部分はあったのでしょうか。

秋元さんはホラー作品を数多く手掛けていて、アイドルがホラー映えすることもおそらく分かっていらっしゃった。そんなこともお話をして、「極限の状況であれば人は変わる」という話になりました。僕も同じことを思っていたので、そこは起点になっています。尋常じゃない環境に北原さんを連れていけば、そのあたりが引き出せるだろうと予想はしていました。

――確かに尋常じゃなかった(笑)。とんでもないロケーションですよね。ご本人にもインタビューしたんですが、とにかく必死だったそうです。

生き残ることに必死にならなければいけなかった。撮影なのに(笑)。それほど過酷な環境でした。

  • サニー

    北原里英

――最初に話をされた時に、監督から「何も準備しなくていい」と言われたことに驚いたそうですよ。

「雪の中を裸足で歩く練習をしといてください」「2階から飛び降りる準備も」と事前に言ったところでね(笑)。とはいえ、安全を確保した環境でしか撮るつもりはなかったので、普段はアイドル活動に邁進している彼女にそのままの姿で来てもらって、「こんなことやらされるんだ……」という表情を切り取っていった方が絶対に面白くなる。半分はドキュメンタリーみたいなものです。

――彼女の反応はいかがでしたか?

徐々に自我がなくなって(笑)。最初はちょっと心配でしたが、それを乗り越えてから表情もより出てくるようになりました。

――北原さんはこれから女優として生きていく決意をされています。その可能性を感じる部分はありましたか。

芯に「やりたい」という思いと根性を非常に強く持っている方です。本人と話すと、ネガティブな発言が多いんですけど、女優に関してはそういう「食いつき」があった。今後、女優をやっていく上で、「あの時、これを経験したから」とたぶん思うはずです。その"はなむけ"は作ってあげたいなと思っていました。

  • サニー

    門脇麦

役者の才能と"シン・ゴジラ"的進化

――監督は門脇麦さんを「パワーファイター」と表現されています。北原さんとの共演シーンは1階と2階で中継するような環境で撮影したそうですね。北原さんに「パワーファイター」の刺激を与える、そういう計算もあったのでしょうか。

別々に撮ってもあのシーンは成立しません。そこだけはこだわって中継して撮ることにしました。それはそれでシステムを作るのが結構大変で。投写してやっているので、1~2時間復旧に時間がかかったこともありました。

――門脇さんは監督にとってどんな女優ですか?

北原さんと同じように「女優になりたい」という時期があって、腹をくくってここまで来たと思います。いろいろな役が来て、それでも貪欲に日々何かを糧にしてどんどん大きくなっている感じ。『シン・ゴジラ』の進化のような(笑)。

――その秘めた部分は北原さんにも?

もちろん。役者って、実は「天才肌」ってなかなかいないんですよ。