――そのあたりは、今までの作品と比べて異なる点ですか?

原作があると、ある程度は枠組みが見えてきます。オリジナルだと無限に可能性が広がっているので、時間の許す限り「一番おもしろい脚本にしたい」とこだわりたくなる。もっともっと面白くできるかもしれない。足してみたり引いてみたり、それを延々繰り返して元に戻るところもありました。そうやって試行錯誤していって結末を考える時、捨ててきたアイデアが甦るんです。すべてがピタッとハマった時に「これがベスト」と確信しました。脚本の手直しは、トータルで33回だったと思います。

――33回も!?

クリスマスも脚本家と一緒に過ごしましたからね(笑)。こんな純愛な話を、オッサン2人が「ここでガラス越しにキスをするわけですよ!」とかファミレスで熱く語り合って。傍から見たら異様な光景ですよね。本当は作品のイメージダウンになるから僕の写真も載せないでほしいくらい(笑)。

――なぜですか(笑)?

この物語を考えたのが「コイツかよ!」と思われたくない(笑)。

  • 稲葉直人

原作があろうがなかろうが関係ない

――推敲作業はもちろん大変だったと思いますが、今もすごく楽しそうに話されていますね(笑)。

「楽しい」の裏返しは「苦しい」ですからね。でも、そのためにこの仕事をしたいと思っているので、やっぱり「楽しい」ですよね。『テルマエ・ロマエ』も原作モノとは言っても変えなきゃいけない部分があったり、『信長協奏曲』も原作を追い抜いてしまっていたり。設定とかキャラクターはそのままでも、ストーリーは考えないといけなかったのでその「生みの苦しみ」は同じなのかもしれません。原作者に「映像化してよかった」と思ってほしいし、ファンの人にも「これなら許す」と思ってほしい。原作を読んでいなくても、「これ面白いね」と言ってもらいたいので時間の許す限りがんばらないと。

そういう意味では、原作があろうがなかろうが関係ないですね。何よりも今回の映画を観た後に一番言われたくないのは、「やっぱり原作があるほうが面白いよね」。有名な漫画家さんや小説家さんが生み出した物語の方が面白くて、脚本家やプロデューサーが考えた物語は面白くないと思われたくない。売れている作家より「面白い」と思われる物語に。そうじゃないとオリジナルを作れる機会がどんどん減っていくと思うんですよ。やっぱり映画はリスクがつきもののビジネスなので、「つまらない」「ヒットしない」となると、「オリジナル作っていくのはやめよう」という流れに必ずなる。自分は業界内のちっぽけな1ピースですが、「オリジナルだけど面白かった」と言ってもらえないと次につながらない。

  • 綾瀬はるか 坂口健太郎

――そういった意味でも、大事な大事な1作ですね。

フジテレビは結構オリジナルをやっている方なんですよ。周防正行さん、三谷幸喜さん、是枝裕和さん。脚本家ですが古沢良太さんもそうですね。でも、有名作家さんのシリーズみたいなブランドでビジネスが成り立っています。

昔の映画にはいろんな選択肢があってエンターテイメントとしては豊かな時代でした。それが今は原作モノばかりになってしまった。オリジナル映画も作られているんですけど、お金が集まらないので作家のネームバリューに乗っかったものが多い。小規模のものはやっぱりアート路線に走りがちで、一般のお客さんにとっては小難しかったりするので。どちらの映画も好きなんですよ。好きな映画監督を聞かれたら、テレンス・マリックとかビクトル・エリセとか言ってしまうので。でも、映画ってもともとは大衆のものじゃないですか? 大衆向けだからこそ、映画というビジネスが世の中に存在しているわけで。大衆文化を突き詰めないといけないですが、その選択肢が減ってしまっているのは寂しいですし、良くないんじゃないのかなと思います。

  • 綾瀬はるか 坂口健太郎

――ここで大事なのは決して原作モノを否定しているわけではないということですよね。

そうです。原作モノも、もちろんあっていい。

やっぱりどこの企業のお偉いさんでも、まずは実績を見る。少女漫画の映画は過去にこれだけ当たっていて、確実にリクープ(費用の回収)できている。一方で、オリジナルのラブストリーのヒット作が少ないから原作を優先する。まともといえばまともな判断なんですけど、もうちょっと俯瞰で見ると、どこもこの方向に流れすぎているような気がして。子どもも大人も楽しめるラブストリーがないのは、そういうことが根本の原因だと思います。

立場によって違うと思うんですが、とある制作会社が企画して出資者を募って映画化まで持って行くのはすごく大変なこと。必ず「オリジナルでしょ?」「監督は?」となります。この連載の第1回は白石和彌さんですよね? 白石監督は、今ではお名前で「あの白石さんですか!」と興味を持つ人は多いはず。きっと、『凶悪』の前と後では周囲の反応が変わったんじゃないでしょうか。

みんな「リスクヘッジ」を探すわけです。監督、脚本、主演、原作……それを乗り越えてからも大変で。制作会社やフリーの方から「テレビ局だからいいですよね」と勘違いされるんですけど、社内で企画を通すのはすごく大変なんです。会社の規模関係なく、みんな考えることは同じで、リスクも変わりませんから。もっといろいろなチャレンジをする機運が高まって、大衆に向けたオリジナル作品がたくさん並んでいけば、原作があろうがなかろうが抵抗なく観られるはずです。そうすれば出資者の方々もお金を出してくれるようになって、また新たな可能性を秘めた企画が通る。そういう好循環になればいいなと思います。

(C)2018 映画「今夜、ロマンス劇場で」製作委員会