――アイドル映画の模索もこの作品の目的の1つだったそうですね。追い込むと、どんどん輝いていく。

それも要素の1つ。ただ、アイドル映画の定義も難しいですよね。北原さんのファンが観て、そう思えばアイドル映画なんでしょうし、もしくはファンじゃない人が観てファンになるのもアイドル映画なのかもしれない。いずれにしても「主役として女性が輝く」、それがアイドル映画だと思います。つかめたようでつかめてないような……僕がひねくれているからダメなんでしょうね。もうちょっとストレートにアイドル映画つくればいいじゃんという話なんでしょうけど。何も考えずにホラー映画を作ってみるとか……それだと僕に頼んでくれた意味がなくなるか(笑)。

――確かに物足りないです(笑)。一方で、佐世保小6女児同級生殺害事件、ドローン少年やネット生配信での視聴者の反応など、実際に起こった事件や現代的なトピックスをモチーフにしている描写も数多くありました。それらをあらためて考える目的もあったそうですが、今回の映画を通して何か見えたことはありましたか。

佐世保小6女児同級生殺害事件(NEVADA事件)……2004年6月、6年生の女子児童が同級生の女児にカッターナイフで刺殺された事件。ネット上のトラブルが動機の1つとされている。加害女児とされる写真が流出し、着ていたパーカーの文字からネット上では「ネバダたん」と呼ばれた。

サニー

「NEVADA」事件そのものの問題と、そこからの十数年はネット社会、SNSの発達の歴史でもあります。それは分けて考えなければいけないんですけど、SNSというコミュニケーションの取り方の限界が日本以外でも世界規模で起こっていますよね。とはいえ、悪口を書き込んでいる人たちは叩きようがない。そんなことに対して、「違うんじゃないの?」と投げかけたいとずっと思っていたので、映画の中で「キタコレ」と囃し立てるネット住民たちを登場人物にしています。ただ、彼らを非難することだけが目的じゃなくて、「きちんと抱きしめてあげる」のもテーマでした。

事件について話すと……僕も人の親になってあらためて思ったんですが、少年犯罪とか社会的に重要な事件が起こると、それが身近な事件だったり、ましてや自分の子どもだったら、果たして何ができるんだろうかと。たぶんどうようようもできないと思うんですよ。でも、そのままでいいのかと言われればそうではなくて。そんなことを思いながら、モチーフを盛り込んでいきました。ただ、作品で扱うのはなかなか難しいですよね。これはモチーフではあるんですが、そこには被害者の方々がいて、その方々の時間は止まっている。それは絶対に忘れちゃいけないことです。

日本映画の生き残る道は1つ

――今回はオリジナル映画をテーマにした連載です。以前、取材させて頂いた時は、いろいろなテーマを扱えるような「職人でありたい」とおっしゃっていました。監督にとっての「オリジナル映画」とはどのような位置付けですか?

もっと増やしていきたいですね。原作ものは原作ものの良さがあるんですが、ふと映画に立ち返ると、前情報なしで「これから何がはじまるんだろう」と思って観たほうが絶対良いに決まっているんですよ。何百万部売れた漫画が原作の映画化。でも、それは漫画を手にした方々は、だいたいの内容を知っているということですよね。映画で「答え合わせ」は必要ないんです。

一昨年大ヒットした『シン・ゴジラ』『君の名は。』はオリジナル作品です。あれだけヒットしたということは、もう結論は出ていると思うんですよね。「オリジナルで面白いものを作ろう」昔の映画はみんなそうでした。漫画家が映画を観て興奮して、それを作品に活かすような、映画はエンターテイメントの王様だった。それが今は原作者の顔色をうかがって映画の内容を考えたり……そんなことをしても面白い映画ができるわけないんですよ。

  • サニー

――そんな苦労の末に完成した映画でも、批判の集中砲火にさらされることがこれまで数多くありました。

そうですね。あのキャラはちょっとイメージが違うとかSNSに書かれて。そんなんで良い映画なんて、できるはずがないんですよ。もちろん、言いたいことはわかりますけどね。でも、オリジナル映画での成功例がもっと増えていけば、日本映画は変わると思います。

――オリジナル作を手掛けた監督に話を聞くと、何よりも出資者側への説得力が肝だと。

今回は特殊な例ですが……まずは面白いオリジナル脚本を作る力をつけるべきだと思う。「これは絶対におもしろい」という本は世の中に必ず作れるんですよ。それを作る努力もしないでオリジナルを作ることができない現状を嘆くようではダメだと思いますね。

漫画にせよ小説にせよ、2時間ぴったりのプロットなんて1つもないんですよ。黒澤明さんの映画もそうですが、「2時間」のためのプロットを作るから面白いんですよ。原作もので6時間ぐらいになるものを苦労して2時間にするから脚色が必要になる。原作者の中にはそれすらも理解してない人もいます。プロデューサーが原作者の意向を伝えてきて、「この間その話、散々したよね!」と叫んだことも(笑)。そんなことを繰り返しているんです。そんなんで人を感動させる映画なんか作れるわけないんですよ。やっぱり、2時間の面白いプロットを作って、それを映画化する。成功する作品が何本か続けば、絶対にオリジナル全盛の時代が戻って来ると思います。

  • サニー

――原点回帰ですね。

そうなんですよ。日本映画の生き残る道はそれしかない。「客が育ってない」という人もいるんだけど、そんなことは絶対にありません。そういう映画を見せる環境を、こちらが作ってないだけで。それは僕も含めて反省しています。お客さんのために何が一番良いのか、どうすれば楽しんでもらえるのか。その先にあるのは「オリジナル」だと思います。

――そういう点でいえば、今回はとても重要な作品になりますね。

そうですね。まぁまぁ、勝負してますからね。結構やっちゃいけないこともやっちゃっています(笑)。

(C)2018『サニー/32』製作委員会