20代~30代のおひとりさまに、はっきり言って保険はあまり必要ない。それよりも貯蓄や投資を優先させたい。しかし保険の仕組みは、ちゃんと知っておかないと、いざというとき困ったことに。保険と人生の関係について確認しておこう。

同情したから、お金を渡す?

保険の始まりにはいろいろな説があり、その仕組みも国や時代によって異なるが、基本は、困ったことがあったとき、失くしたものがあったときに、お金で補ってくれるというもの。災難を跳ね返すための仕組みといえようか。困ったこととは、火災、地震、病気、ケガ、死亡など。

昔ヒットしたドラマの中に、「同情するなら金をくれ」と言うセリフがあった。まさに「同情して金を渡す仕組み」ともいえるけれど、現代の保険は、どんなときにいくら渡すかが詳細に定められていて、条件を満たさなければお金はもらえない。まずこの点をしっかり把握しておきたい。また、困ったことそのものが解決されるわけでも、失くしたものが戻ってくるわけでもない。もらえるのはあくまで、お金だ。

つまり、感情の入り込む余地がない契約による金融商品だ。しかも保険はタダでは入れない。事前に保険料を支払う。保険とどう付き合うか(どんな保険を選び、いくら保険料を払うか)により、保険でカバーできるリスクと毎月の収支、ひいては人生の収支が大きく違ってくる。

保険料は、年齢などをもとに、事故が起きる確率により計算され、原則として、若いほど安い傾向がある。

若いうちは、毎月の保険料を聞いて、まあそれくらいならと思うかもしれない。しかし、1回あたりは、それほどの金額でなくても、支払い期間が長くなると保険料の合計額はけっこう大きくなる。保険には掛け捨てのものと、貯蓄代わりにも利用できるものがあるが、現在、利回りは高くない。限られた収入から、保険料を払うのか、貯蓄や投資に回すのか、その違いは10年後、20年後に大きな差となってくる。

保険に入るときは、(1)その保険に入る必要があるか、(2)どんなときに、いくらもらえるか、(3)保険料はいくら払うのか、の3点を必ず確認したい。

そもそも保険にはどんなものがあるのだろうか? 保険は大きく3つに分けられる。次から詳しく見ていこう。

日本に住む人全員が入る社会保険

1つめは、国が定める社会保険だ。この社会保険については、入るか入らないかの選択の余地はない。当然入らなければいけないという強制加入が原則である。その代わり、次回、詳しく説明するけれど、困ったときに様々な給付が受けられる。病気やケガに備える健康保険、将来受け取る年金のための厚生年金保険、失業に備える雇用保険など。会社員は給料の1割強を毎月社会保険料として自動的に天引きされている。けっこう高い保険料を払っているのだ。社会保険制度により、最低限の保障はすでに手に入れていることを忘れないように。

保険といえばこれ? 百花繚乱の生命保険

2つめは、生命保険だ。「私、保険に入っておいた方がいいかしら?」という会話で、暗黙のうちに指しているのは、通常、生命保険会社が発売している保険だろう。

生命保険の種類は多様で、しかも、「歌は世につれ、世は歌につれ」ではないが、時代に合わせるように様々な保険が発売されてきた。

しかし、シンプルに整理してしまうと、生命保険からお金をもらえるのは次の場合だ。

  1. 亡くなったとき

  2. 病気やケガで入院した、手術をしたとき

  3. 約束の日に生きていたとき

順に考えてみよう。

1の亡くなったとき。本人はもうお金をもらうことも使うこともできないから、残された人がお金をもらう。おひとりさまの場合、自分の死後に、お金を残したい人がいるだろうか? 年老いた両親がいて、両親の生活を支えていたなら、両親に保険金を残してもいいかもしれない。しかし現状は20代~30代の若い世代よりも、親世代の方が資産をたくさん持っているケースが多いのではないだろうか? そうであれば、亡くなったときの保障(死亡保障)は不要だ。亡くなったときに保険金をもらえるのは、定期保険、終身保険、養老保険など。これらの保険には当面入る必要はない。

2の病気やケガで治療をした、入院をしたときはどうだろう? この場合は、社会保険の1つである健康保険から給付がある。一部の負担は生じるものの、そこそこの貯蓄があれば、何とか支払えるはずだ。貯金が1円もないなら、貯まるまでの間、しばらく入ってもいいが、若いほど病気で入院する確率は低い。さらに、医学の進歩で入院日数は減る傾向にあり、入院せず通院で済む治療も増えている。病気やケガで保険金をもらえるのは、医療保険。入院日数や手術の種類に応じて保険金が支払われる。貯金がない人は、第3回で紹介した銀行の積立を利用して1日も早く貯蓄を増やしてほしい。健康な20代~30代のおひとりさまで、そこそこの貯蓄があれば、医療保険に入る必要は、ほぼないに等しい。

3の、生きていたらもらえる保険。これは貯蓄を兼ねて入る保険だ。養老保険、年金保険などが該当する。これらも、20代から30代のおひとりさまが、今、入る必要はない。なぜなら、お金を受け取る時期が決まっていて、必要なときにすぐに引き出すことができない上、現在、利回りが低いからだ。また、生命保険だから死亡保障が付いている。死亡保障が不要で、貯蓄が目的なら、シンプルに銀行預金や投資商品を利用した方が、効率がいい。

生命保険が役に立つのは、家族がいてお金がない人(イザというときに貯蓄ではまかなえない)と、家族がいてお金がたくさんある人(生命保険を活用して節税ができる)だ。

損害保険は必要に応じて

3つめは損害保険だ。事故によるケガ、車・家などのモノの損害を補償する。車を運転する人なら、自動車保険は必須。自宅を持っているなら火災保険に入っておいた方がいいが、20代から30代のおひとりさまで家を持っている人は少数派だろう。損害保険の加入で迷うおひとりさまは、あまり多くはなさそうだ。

つまり、今後、おひとりさまではなくなったとき、40代以降で健康や老後に不安を感じるようになったとき、家を買うなど生活に変化が生じたときは、保険を利用するかどうかの検討が必要だが、若いおひとりさまには、保険、中でも生命保険はあまり必要がないということです。

次回は、必ず入っている社会保険で、どこまで保障されるのかを紹介します。

<著者プロフィール>

ファイナンシャルプランナー 坂本綾子

20年を超える取材記者としての経験を生かして、生活者向けの金融・経済記事の執筆、家計相談、セミナー講師を行っている。著書『お金の教科書』全7巻(学研教育出版)、セミナー『子育て力のあるお金の貯め方、使い方』『小さな消費者へのお金の教育』など。