近年、悪しき習慣と言われることも多い「飲みニケーション」。でも、お酒を飲みながら社内外の人と仲を深めることって、本当に良くないこと? ここでは、コミュニケーションに関する研究や執筆で知られる明治大学教授・堀田秀吾さんに、そのメリットやデメリットの解説をはじめ、新しい飲みのカタチ『飲みニケーション2.0』を紹介してもらいます。二回目のテーマは「オジサンよ、なぜ部下を飲みに誘いまくるの?」

オジサンが、部下たちを誘うワケ

上司からの仕事の飲みの誘い。最近疲れ気味だし、明日も普通に仕事はあるし、できれば断りたい。しかし、「飲みの席には這ってでも行け!」と日頃から上司に言われているだけに、なかなか断りづらい……。

飲みに行くのもごくたまになら付き合うこともやぶさかではないけれど、こう頻繁だと正直キツイ……。頑張って行ったところで、いつも似たような話ばかりだし、安い酒、大してテンションの上がらない料理にゲンナリ。しかも割り勘ときた。時間もお金ももったいない。できれば誘わないでほしい……。

こういった、職場の飲み会を嫌がる若者たちの声が聞こえてるのか聞こえていないのか、世のオジサンたちはどうして部下を飲みに誘いまくるのでしょうか? 前回の記事で明らかにしましたように、若者が飲み会に行きたがらない理由も様々ですが、上司が部下を飲みに誘う理由も様々です。あえて分ければ、以下のようなものが主な理由としてあげられるでしょう。

・良い人間関係を築くため
・仕事のアドバイスをするため
・個人的な悩みなどを聞いてあげるため
・飲みに連れて行くのが上司としての義務と考えるため
・一緒に飲みに行く相手がほしいため

細かい違いこそあれ、これらの理由のほとんどに共通するのは、良い人間関係を維持・構築して、良い仕事、良い職場環境を実現したいというオジサンの思いでしょう。もっと言ってしまえば、単にオジサンは部下のみなさんと話したいのです。話せば仲良くなれると信じているのです。人間関係は仕事の柱。職場において、その人間関係を構築するうえでもっとも手っ取り早い方法が「飲みニケーション」と考えているわけです

誘われる若者の立場を考えるべし

確かに、酒を席では業務時間内とは違い、じっくり腰を据えて話ができます。酒や料理で楽しむこともできます。お酒の力を借りて、普段言えないことも言えたりします。無礼講という免罪符を発行すれば、部下の本音も聞き出せます。実際、前回お伝えしたように、マイナビが独自で行った調査を見ても、飲み会に行って良かったと思えるエピソードの大多数が人間関係やコミュニケーションの改善に関するものでした。

このように、飲みに行けば得るものもあるわけですが、若者に飲み会に行く気を失わせているのは、マイナビが独自に行った300人を対象としたアンケート結果によれば、仕事の話、叱責や説教、飲みや一発芸の強要、セクハラなどオジサンたちの振る舞いなのです。

また、そもそも、飲みに誘えば相手の時間を奪うことにもなります。仕事が終わったのに仕事上のつながりの人に時間を使わなきゃいけないというのが、プライベートと仕事を分け、仕事は食べて行くためのライス・ワークとして割り切る風潮がある現代の若者のライフスタイルからして、決して嬉しい話ではないということを理解し、誘いまくるのは慎むべきなのです。

飲みに誘うなら若者を『愛』でもてなせ

オジサンにしてみれば、部下のためを思っての行動なのかもしれませんが、若者にとってはありがた迷惑なのです。相手の立場で想像すれば、こういったことは全て理解できそうなものです。ところが実際はそれができていない。結局、オジサンが若者を飲みに誘いたがるのは、オジサンの想像力不足が原因なわけです。

日本のシンクタンク、公益法人・日本生産性本部の調査によると、叱るのは部下の育成につながると思っている管理職層は89%もいたのに対し、叱られるとやる気を失うと思っている一般社員は56.8%だったそうです。管理職層と一般社員層の間にはかなりの温度差があり、同様のことが飲み二ケーションにおける上司と部下であるオジサンと若者にも言えるであろうことをオジサンは理解しなければなりません。

また、スマホアプリ「ストレススキャン」を提供するDUMSCOの7,257人を対象にした直近1週間の飲み会頻度とストレスの数値の調査によると、飲みに行く回数が多い人ほどストレスの数値が大きかったそうです。部下の慰労や成長を願うのであればこそ、あまり飲みに誘わないという選択肢があることに気付いて欲しいものです。

あるいは、彼らが貴重なアフターファイブの時間を使ってでも行きたくなるような会にするのも手です。たとえば、予約が困難な焼肉のお店、話題の名店などならお酒が飲めない人でも楽しめるでしょうし、若者が知らないような素敵な店を予約して連れて行くなんていうのもありかもしれません。

コミュニケーション上手というのは、話が上手ければ良いわけではありません。相手が心地よくいられる場を作り出すことができることが重要です。結局のところ、オジサンに必要なのは、下心や老婆心ではなく、真心と愛情です。部下に飲みに来て欲しいなら、部下が来たくなるような仕掛けを、愛する人を喜ばすつもりで考えるべきなのです。

イラスト:佐藤ワカナ

筆者プロフィール: 堀田秀吾

明治大学法学部教授。専門は『司法コミュニケーション』。法というコンテキストにおけるコミュニケーションに関して、言語学、心理学、法学の知見を融合したアプローチで研究を展開している。研究活動において得られた知見を活かして、一般書・ビジネス書・語学書を刊行している。主な著書に『科学的に元気になる方法集めました』(文響社)、『飲みの席には這ってでも行け! 人づき合いが苦手な人のための「コミュ力」の身につけ方』(青春出版社)、『言葉通りすぎる男 深読みしすぎる女』(大和書房)など。