近年、悪しき習慣と言われることも多い「飲みニケーション」。でも、お酒を飲みながら社内外の人と仲を深めることって、本当に良くないこと? ここでは、コミュニケーションに関する研究や執筆で知られる明治大学教授・堀田秀吾さんに、そのメリットやデメリットの解説をはじめ、新しい飲みのカタチ『飲みニケーション2.0』を紹介してもらいます。一回目のテーマは「若者よ、なぜ仕事の飲み会に行きたくないの?」

現代人のストレスは『人間関係』

「飲みの席には這ってでも行け!」とスローガンのように掲げ、オジサンたちは「飲みニケーション」の重要性を若者たちに説き、飲み会に誘ってきます。職場の人間による飲みニケーションの目的は、職場内の人間関係の改善やコミュニケーション不足の解消でしょう。

社会は人とのつながりの上に成り立っています。仕事も人とのつながりが重要な要素です。良い仕事も良い職場も人とどう関わっていくかが肝心です。かくも重要な人とのつながりですが、良好な人間関係を築いていくことは簡単ではありません。だからこそみなさん苦労をしています。そのことを表すかのように、厚生労働省による労働者に対する「労働安全衛生調査」の結果を見てみると、人間関係の悩みが、例年ストレスの原因のトップ3に入っています。

ストレスの少ない働き方、良い仕事、そして良い職場を実現していくためには、良好な人間関係を築くことが必須。その手段として期待されているのが、「飲み二ケーション」なわけです

若者が飲み会に行きたくないって本当?

ところが、そういった崇高な目的のもと飲みニケーションをしようにも、最近の若者はそもそも飲み会に行きたがらないと嘆く声をオジサン方からよく耳にします。では、実際にどれくらいの若者が飲み会に行きたがらないのでしょうか。この疑問に関して、マイナビが独自でアンケートを行いました。

若干ですが、職場の飲み会に行きたくない人(53%)が、行きたい人(47%)より割合で上回っています。半分以上の若者が職場の飲み会には行きたがっていないと言えます。しかし、その反面、約半数は行きたいと思っているのも事実です。果たして、この数字はどう捉えるべきなのでしょうか。

  • 20~30代へのアンケート「職場で飲みに誘われたとき、行きたいですか? 行きたくないですか?」

比較のために、上司世代に同様のことを尋ねてみました。すると、職場の飲み会に行きたい人(52.3%)が行きたくない人(47.7%)を割合でわずかに上回るものの、若者同様、おじさんもほぼ2人に1人が職場の飲み会に行きたくないと思っていることがわかったのです。こういった結果を見てみると、オジサンが若者のことを飲み会に行きたがらないと嘆くのは少々的外れなのかもしれません。

  • 40~50代へのアンケート「職場で飲みに誘われたとき、行きたいですか? 行きたくないですか?」

飲み会に行きたくないのは、なぜ?

次に、職場の飲み会に行きたがらない人は、どんな理由で行きたがらないのでしょうか? どうやらそこには男女差もあるようです。その端的な例として、女性の場合は「仕事以外で職場の人と関わりたくないから」というのがもっとも多く(34.3%)、男性の場合は同じ回答でも10%近く少なめ(25.6%)でした。

  • 20~30代へのアンケート「職場で飲みに誘われたときに行きたくないと思う理由」

これは、男性が仕事とプライベートの区別をはっきりさせないのに対し、女性は仕事とプライベートの区別をはっきりさせたがる傾向が強いと言う一般的な傾向と合致しているように思われます。仕事は仕事。プライベートはプライベートと割り切りたいので、仕事の後も職場の人と関わることを避けたいとより強く思うのでしょう。

男性との差で面白いのは、「気を遣うから」という回答をした女性が23.9%だったのに対し、同じ回答をした男性は29.3%だったことです。男性の方が気を使っているという実態が浮き彫りになったわけです。これは、競争よりも共感を大切にし、横社会に生きる傾向が強い女性に対し、競争大好き、マウンティング合戦の縦社会に生きる傾向がある男性は、飲みの席でも目上の人に気を遣うことが多いということなのでしょう。

飲み会には『ありがた迷惑』が満載

飲み会に来たがらない理由をさらに掘り下げるべく、飲み会に来たくないと答えた人に飲み会で嫌な思いをしたエピソードについてもアンケート(自由回答)でたずねたところ、女性は「セクハラ」(16.7%)と「絡まれる」(19.4%)というのがツートップでした。

つまり、言動的に必要以上の接触をされるために飲み会に行きたくないということのようです。また、驚くことに、ホテルに連れて行かれそうになったという意見も複数見られました。そういった切実な身の危険があるようでは、飲みの席には行きたくなくなる気持ちもよくわかります。

一方、男性は、「説教される」(16%)と「酒を強要される」(16%)というのがツートップでした。人間には他人から指図されたり、非難されたくない、自分の選択で行動したいという「自由欲求」がありますから、こういった先輩たちの行為は若者たちの自由欲求に影響を与える行為です。先輩や上司としては心的距離を縮めたいとか、後輩の成長を願っての言動なのかもしれませんが、若者にとっては、単にありがた迷惑なようです。

男性は、先ほど説明したように、仕事とプライベートの区別をはっきりさせない傾向が強いので、先輩や上司の方も飲み会でもついつい仕事モードが残って、後輩への説教や仕事ぶりのダメ出しなどについつい繋がってしまうのかもしれません。

『飲みニケ』は人間関係に役立つ!

いずれにしても、こういった意見を総合的に考えてみると、どうやら若者が飲み会に来たくない大きな理由は、自分が望まない行為をされるという、同僚や上司の言動にあると言えるでしょう。ここに飲み会に行きたがらない若者の意識改革をするためのカギのひとつが隠れているかもしれません。

一方、飲み会に行きたい人の理由を見てみると、約半数の人(49.6%)が人間関係が深まるからと考えているようです。若者らしい回答としては、「ご馳走してもらえるから」という意見(10.6%)もありました。年少者の特権ですね。

飲み会で良かったと思えたエピソードについてもアンケート(自由回答)をとってみたところ、やはり、同僚上司との距離感が縮まったり、コミュニケーションが取りやすくなったというものが大半(39.6%)でした。また、「普段聞けない話を聞けた」「本音で話せた」「本音が聞けた」「先輩の人柄がわかった」などの回答(19%)も多く、他人との距離感を縮めるには、おたがいの「自己開示」が大切ですが、そういったやりとりがあることがこれから見て取れます。

このように、人間関係を作るにあたっては、やはり「飲みニケーション」は実質的に有効な手段であることは間違いないようです。となると、あとはどのようなことに気をつければ若者が来たくなるような「飲みニケーション」の場を創出していくことができるかについて、次回以降でさらに掘り下げて行きます。

イラスト:佐藤ワカナ

筆者プロフィール: 堀田秀吾

明治大学法学部教授。専門は『司法コミュニケーション』。法というコンテキストにおけるコミュニケーションに関して、言語学、心理学、法学の知見を融合したアプローチで研究を展開している。研究活動において得られた知見を活かして、一般書・ビジネス書・語学書を刊行している。主な著書に『科学的に元気になる方法集めました』(文響社)、『飲みの席には這ってでも行け! 人づき合いが苦手な人のための「コミュ力」の身につけ方』(青春出版社)、『言葉通りすぎる男 深読みしすぎる女』(大和書房)など。