近年、悪しき習慣と言われることも多い「飲みニケーション」。でも、お酒を飲みながら社内外の人と仲を深めることって、本当に良くないこと? ここでは、コミュニケーションに関する研究や執筆で知られる明治大学教授・堀田秀吾さんに、そのメリットやデメリットの解説をはじめ、新しい飲みのカタチ『飲みニケーション2.0』を紹介してもらいます。五回目のテーマは「『サシ飲み』と『集団飲み』で飲みニケーション術は使い分けろ」

『サシ飲み』と『集団飲み』の違い

職場の人間と飲みに行くのはやぶさかではないけれども、サシ飲みならまだしも、大人数の飲み会は苦手。逆に、大人数でワイワイ飲むのは良いけれど、あの人とサシ飲みというのは会話が続くか不安過ぎる。こんな風に人によって、得意な飲み会の形は違うのではないかと思います。

また、集団飲みはチームの連帯感を高めるのに適した飲み方でしょうし、サシ飲みは個人の関係を深めるのに適しているでしょう。どんな目的で飲みニケーションするか、そしてそこでどういう役回りを演じたいか。それによっても立ち回り方は変わってきます。 ここでは、大きく、サシ飲みと集団飲みに分けて、それぞれの飲みニケーションの形で、よりうまく立ち回るための飲みニケーション術を考えて行きます。

集団飲み

そもそも集団飲みでは、だいたい「話し手」「聞き手」「準聞き手」「傍観者」の四つの役割をそれぞれの参加者が担います

「話し手」は話をしている参加者で、「聞き手」は話し手に直接話しかけられている参加者です。「準聞き手」は直接は話し手に話しかけられてはいないけれど、会話の輪の中にはいる、比較的関与度合いが高い参加者「傍観者」は会話の和に入らず、野次馬のような立ち位置で話を聞いているだけの人です。

それぞれの立場によって、どう振る舞うのかも変わってきます。まずは、盛り上げ役としての話し手ですが、これはもっとも難易度の高いポジションです。集団飲みで盛り上げ役になるためには、かなりの会話の瞬発力とセンス、そして気配りが要求されますし、笑いを取るために、時にはプライドを捨てて、ピエロになる必要も出てきます。

しかし、このポジションで必要なのは、実は司会的な役割も担うことです。他の聞き手の行動をさりげなく観察して、傍観者や準聞き手をなるべく出さないように、発言機会や話題を振ったりする技術です。

たとえば、「野球と言えば、〇〇さん、高校球児じゃありませんでしたっけ?」のように発言機会を作ったり、特に相手についての情報を知らなくても、タイ料理を話題にしていたとしたら、「〇〇さんもタイ料理とか召し上がったりしますか?」というように質問してあげるのも手です。このような気配りをしてあげると、シャイだったり話し下手だったりで、話したいのに思うように話せない参加者に感謝されます。それに、そもそも人は自分の話をするときに脳がもっとも快感を覚えるので、発言回数が参加者間で均等に近い方が飲み会の満足度が高くなります

もちろん話題も大事です。人には承認欲求がありますから、特定の参加者のプライドを傷つけるような話題の振り方は危険です。無難なのは、やはり相手を褒めるタイプの話題です。たとえ笑いのためにその人のちょっと恥ずかしい話をすることになった場合でも、「でも、普段はしっかりしているのにたまにそういう抜けたところを見せてくれるのが、◯◯さんのお茶目で素敵なところですよね」のように、フォローを入れるといいでしょう。いわゆるツンデレ効果(心理学的にはゲインロス効果と言います)で、悪い印象のあとに良い印象でシメると好感度が増します。また、そういう立ち回り方をしていると、人間観察をよくしている参加者からは、気配りができる人間だとしてあなたの評価が高まったりもします

集団飲みで、あなたが中心的な話し手ではない場合は、「傍観者」になるのは禁物です。具体的には、場にはいるものの心あらずでずっとスマホをいじっていたり、一人で飲みふけっていたりするパターンです。誰かとコミュニケーションを取らなければ、その場にいないも同じ。また、せっかくの飲みニケーションの科学的効用である、幸せホルモンのセロトニンの分泌も促されません。頑張って会話に加わってみましょう!

でも、自虐・自慢を避けることに注意してくださいね。話が上手でないならば、頷き係を担うのもひとつの方法です。話し手が話している時に、適宜、うなずいたり、「はい(はい)」「うん(うん)」などの相づち、「へー、すごい!」などの合いの手を挟んで、話し手の発言をサポートするのです。

直接話しかけられているわけではない「準聞き手」の場合もほぼ同様で、頷き係を積極的に演じることで、グレードアップした準聞き手の存在感を出せます。また、話に加わりたい場合は、話題に「あ、僕/私も…」のように自分の経験・趣向・意見などを被せていくのもひとつの技です。ただ、やりすぎると自分大好き、承認欲求の塊のかまってちゃん、みたいな印象を与えてしまうので気をつけましょう。それを避けるためにも、「そういえば◯◯さんも△△はお詳しいですよね?」のように、その話題に乗っかれそうな人にターン(話し手になるタイミング)を投げるというのも良いでしょう。

話し手に直接話しかけられている「聞き手」の場合はまた違う方略が必要です。これは、このあと説明するサシ飲みの技とかなり共通しますので、そちらを参考にしてください。

サシ飲み

サシ飲みでは、話し手と聞き手しかいないので、話し手のそれぞれの発話に大して、義務的に反応しなければならなくなりますし、相手の自分の振る舞いへの注視度も高くなります。となると、手抜きが難しくなってきます。

その場合、月並みに話し手の目を見て真剣に聞くこと、「いや」「でも」のような逆説接続詞の多用を避けて、共感や承認を示すような合いの手や返事を多くするように心がけることは有効です。

会話が続かない人にオススメなのが、三段話法です。簡単に言うと、「返事」「つなぎ」「聞き返し」の三文で自分のターンを構成する方法です。たとえば、好きな料理を聞かれて、「ベトナム料理です」とだけ答えるのでは話が続かなくなってしまいます。そこで、「【返事】ベトナム料理です。【つなぎ】エスニック系は割と何でも好きなんです。【聞き返し】◯◯さん(=相手)は、ベトナム料理はお好きですか?」のように答えると話も盛り上がりやすくなります。

また、サシ飲みの場合は、座席位置などにも工夫すると話しやすくなります。正面で向かい合うよりも、机の角を挟むように斜めに座ったり、隣り合うように座ると話しやすくなります。内容についても、サシ飲みの場合は、大人数の飲み会の場合よりも、少し自分のパーソナルな感情・体験・状況なども含んだ自己開示的な話をした方が関係が深まるでしょう。

イラスト:佐藤ワカナ

筆者プロフィール: 堀田秀吾

明治大学法学部教授。専門は『司法コミュニケーション』。法というコンテキストにおけるコミュニケーションに関して、言語学、心理学、法学の知見を融合したアプローチで研究を展開している。研究活動において得られた知見を活かして、一般書・ビジネス書・語学書を刊行している。主な著書に『科学的に元気になる方法集めました』(文響社)、『飲みの席には這ってでも行け! 人づき合いが苦手な人のための「コミュ力」の身につけ方』(青春出版社)、『言葉通りすぎる男 深読みしすぎる女』(大和書房)など。