コロナ禍を機に、生活の中にさまざまなニューノーマルが生まれ、そして今後は、働き方やキャリアの描き方にも変革が必要だと言われています。

ウィズコロナ、アフターコロナの世界をどう生きるか。ニューノーマル時代にどうキャリアを築いていくか。そのヒントを探るべく、すでに自分らしい働き方を見つけて歩み始めている4人の女性たちに、今、それぞれが抱いているキャリア観について話を伺いました。

  • ニューノーマル時代のキャリアの築き方は?

課題解決を繰り返していくうちに、気付いたら仕事に

スパイス料理研究家で、スパイス専門店「香林館」代表取締役、また、東京大学の大学院生でもある印度カリー子さん。一度聞いたら絶対に忘れられないインパクトのある名前と、学生起業家という華やかな肩書きからは想像しにくいのですが、自身の過去についてカリー子さんは、「子どものころから、将来の夢を聞かれることが苦痛で仕方がなかった」「ほんの数年前までは、やりたいことも楽しいこともない灰色の人生を送っていた」と語ります。

そんなカリー子さんが、自身の人生を大きく揺るがすこととなるスパイスカレーに出合ったのは大学1年生の終わり頃。でも、その日から劇的に何かが変わったというわけでは決してないと話します。

「キャリアに成功している多くの人たちが、過去にティッピングポイント(きっかけ)があったというような語り方をしていますよね。だからみんなそれを探しちゃうんです。私も実際、ずっと探していました。でも、それって多くは後付けなんですよね。

初めてスパイスカレーを作った時、スパイス一つひとつからはカレーの香りはしないのに、複数合わせるとよく知っているカレーの香りが生まれてくることに感動したのは覚えています。今振り返れば、確かにそこは一つのポイントだったかもしれません。でも、そこでビビビッと電気が走り、突然道が開かれたというようなことはありません(笑)」。

  • スパイス料理研究家、スパイス専門店「香林館」代表取締役 印度カリー子さん

カリー子さんの今は、日常の中の小さなポイントを幾つか経た、その延長線上にあるのだそう。

「スパイスカレーに魅了され、深みにハマっていった私は、なぜこんなにおいしいものが世間に広まっていないのかと不思議でした。そして、きっとその理由には、種類の多さとか、そもそも手に入れる環境がないことが挙げられると考え、それらを解消するためには、スパイスセットがあるといいよなという思いにたどりつきます。

そして、試しに作って友達に渡してみたらすごく感触が良く、これはビジネスになるかもしれないと気付いた。そんな風に、自分の『好き』をスタートに、目の前にある疑問や課題、他者の悩みや不満などを一つひとつ解消していくうちに、思いも活動の幅もじわじわと広がり、いつしかこうしてメディアからインタビューされるまでになっていました」。

目指すはスパイス界の第一人者

カリー子さんは、自身の中に芽生えた「スパイスの魅力を世間に伝えたい」という思いの下で起業を果たしましたが、同時に、「スパイスカレーのムーブメントの源流、第一人者と言われるような存在になりたい」という熱い野望も抱いていたのだそうです。

「当時、スパイスカレーの世界をのぞいてみて気付いたのは、この領域は男性が目立つケースが多く、レシピ本を書いている人も40~50代で、若い人がいないマニアックな世界だということ。でも私は、スパイスカレーには、10代にも、初心者にもハマりうる魅力があると思ったんですよね。

そんなスパイスカレーの世界で、私は、初めてスパイスを使う人や、スパイスカレー初心者に、この道にハマるきっかけを与えられるような人物になりたいと思ったんです。そして、スパイスカレーの流行を自分で作りたいと。そう考えた時に、『10代、女子大生、印度カリー子』という肩書きは、キャッチ―さもあり、絶対的な強みになる。だから今こそ行動すべきだと思ったんです」。

  • スパイス文化は奥深い

しかし、そう簡単に事は進みません。壁にぶち当たって悩んだことも。カリー子さんは苦難をどうやって乗り越えたのでしょうか。

「私は、苦難に直面しても、誰かに相談したり頼ったりという発想には至らず、そんな時こそ自分で解決しなければならないと思うタイプなんです。その苦難を解決できる人って、同様の苦難をすでに解決したことがあるということ。

でも、私は第一人者になりたいのだから、その苦難は自分の目の前にしかなく、自分で切り開いていくしかないんです。視点を広げるために本を読んだり、冷静に物事を見つめるためにランニングしたりしながら、頭をフル回転させて考える。私は、苦難はそうして乗り越えています」。

会社で学べることは、すべて吸収しておくべき

好きなことを見つけ、それを仕事にし、順調に活躍の場を広げ、充実した毎日を送っているカリー子さん。そんな彼女に、あえて、「もしも今会社員だったらどう働く?」という質問を投げかけてみました。

「私はこれまで、会社員として働いたことも、働こうと思ったこともないのですが、その経験がないことは、私の中でのディスアドバンテージだと感じています。

起業してみて分かったのですが、社会には、暗黙のルールがたくさんあるんですよね。それ以外にも、企業に属していないと学べないことはたくさんある。逆に言えば、会社員として働いている人は、社会で生きていくために必要なことを、お金をもらいながら実践的に吸収することができる。そんな素晴らしい環境に身を置いているんですよね。

私が今、仮に会社員だったとしたら、社会のルールとか、会社の仕組みとか、お金の動きとか、礼儀作法とか、あらゆることを吸収するために、全力で努力します。また並行して、自分が本質的に興味のわくことを探します。そうすれば、やりたいことが見つかった時に、蓄積していた知識やノウハウをそこにつぎ込むことができますからね」。

そんなカリー子さんの今後の展望は、自身が20代のうちに、日本にスパイス文化のベースを築くこと。

「最近スパイスカレーがメディアなどでもだいぶ取り上げられるようになってきていますし、人々の健康への意識も高まりとともにスパイスへの興味関心も高まってきている状況にあります。そういうものをすべて追い風に変えていって、スパイスやスパイスカレーが日本の家庭の食卓に当たり前に並んでいるような状態を作りたいですね。

スパイス文化のベースを築くことで、確実に食生活は豊かになりますし、文化と文化の融合による新しいアイデアやニューノーマルが幅広く生まれると思うんです。スパイスには、そうした高いポテンシャルがあると私は信じています」。

取材協力:印度カリー子(いんど・かりーこ)

1996年生まれ。宮城県出身、スパイス料理研究家。香林館株式会社 代表取締役。東京大学大学院で食品化学の観点から香辛料の研究も行っている。レシピ本は年間4~6冊ペースで執筆。メディア出演の依頼も多く、今注目の若手起業家の一人。書籍『彼女がたどり着いた、愛すべき仕事 これが私の生きる道!』(世界文化社)でも紹介される。