コロナ禍を機に、生活の中にさまざまなニューノーマルが生まれ、そして今後は、働き方やキャリアの描き方にも変革が必要だと言われています。

ウィズコロナ、アフターコロナの世界をどう生きるか。ニューノーマル時代にどうキャリアを築いていくか。そのヒントを探るべく、すでに自分らしい働き方を見つけて歩み始めている4人の女性たちに、今、それぞれが抱いているキャリア観について話を伺いました。

  • ニューノーマル時代のキャリアの築き方は?

会社員で映画監督というキャリア

「何か表現したい」。漠然と抱いていたその欲求を満たす手段を、ずっと探していたという穐山茉由さん。それが映画制作であることに気付いたのは、30歳を過ぎた頃でした。外資系アパレル企業で働きながら、夜間や休日に専門学校で映画作りを学び始め、今では新進気鋭の映画監督としてその名を世に知らしめた穐山さん。

ですが、今もなお会社でPRの仕事を続けています。それはなぜなのでしょうか。

「どちらの仕事もやる意味があると自分が思え、仕事を一つに絞らざるを得ない時までは、このスタイルを続けてもいいのではないかと思っています。映画の世界もそうなんですが、クリエイティブな仕事って、『これ一本に絞るのが大事』みたいな価値観があったりするんですよね。

もちろん、すべてを捨てて一つの事に飛び込むのも大事な決断ではあると思うのですが『それしかやっちゃダメ』みたいな空気は変えていかなきゃいけない、更新していきたいなと、私は思っています」。

今の穐山さんにとっては、PRの仕事をしている自分も映画監督をしている自分も、両方が互いに良い影響を与え合える関係性になっていると言います。

「私が会社員として経験し、実感していることは、世の中の多くの人が体験していることと同じ。それを知っているというのは、映画の作り手として大事なことで、今後は、そうした『普通の会社員』だった私ならではの表現で、疑問を感じる社会の仕組みなどに一石を投じ、既存の概念みたいなものをうまく壊していけたらと思っています。

そういった点で、仕事の両立は、今のところ、どちらも自分自身の役に立っているんですよね。そして、この働き方自体が、今の私の一つの表現でもあります」。

  • 外資系企業会社員で映画監督の穐山茉由さん

ニューノーマル時代の自己実現

ニューノーマル時代が到来し、誰もが働き方を模索している今、2つのキャリアを同時に積み重ねて自己実現を目指している穐山さんは、どんな思いを抱いているのでしょうか。

「今までただ何となくやっていたことや当たり前だと思っていたことに対し、これでいいのか? という気持ちが生まれてきましたね。PRの仕事は、働き方をガラッと変えざるを得なくなっていますが、意外とできるじゃんっていうことや、対応していかなきゃいけないなということがいろいろ見えてきています

。映画については、いつになったらちゃんと撮影できるのか分からず、もどかしい気持ちでいっぱいなのですが、今はそんな気持ちを原動力に、企画とか新しいシナリオを書く日々です。そうした中で、ただ見て楽しかったというものよりも、何か意味を持つものを作りたいと、意識はかなり変わってきました」。

そんな穐山さんに、『もしも今、会社員という一つのキャリアだけで生きているとしたら、どんな風に働いていますか』とあえて聞いてみました。

「映画に出合う前の私と同じように、PRの仕事以外の場で、自分が興味を持てることを探し続けているだろうと思いますね。たぶん、今の仕事で自分のやりたいことの全てを満たせている人って、それほど多くはないですよね。そうした中で、気持ちよく働くには、足りない部分を何か別のこと、しがらみなくピュアに『好き』と言える何かで補填すればいい。

商品を世の中に表現するPRという仕事は、『自分の表現』というよりは、ひとつ距離感のある表現になります。もともとゼロから何かを生み出すことへの憧れを持っていた私としては、やっぱり、その欲求を十分に満たせる別の何かを探し続けているだろうなと。好きなことが近くにある。それって、人生を豊かにすると同時に、変化の激しいこれからの時代を生きていく上で、特に大事なことではないかと思いますね」。

  • 穐山さんの初の長編作品『月極オトコトモダチ』(アミューズソフト)

ゴールは低く設定することが大切

何かを始めるのに必要な最初の一歩。でも、その一歩を踏み出すのが難しい。穐山さんは、たまたま見た1本の映画をきっかけにはじめの一歩を踏み出したそうですが、そうした行動力や前向きな気持ちは、どうしたら手に入れることができるのでしょうか。

「私はわりと考える前に行動してしまうタイプなのですが、それをハードルに感じて尻込みしてしまう人は、あまり高い目標を持ちすぎず、まずはホップ・ステップあたりの低いところから始めてみると良いのではないかと思います。それだけでも見える景色や世界が全然違ってくると思うので。

私自身、未経験向けの映画制作ワークショップに参加するところからスタートし、その後も、働きながら通学する選択をしました。いきなり仕事を辞めるとか、リスクを背負うようなことは、私もできませんでしたから。自分が今できる着地点を見つけていくということは、大事だと思いますね」。

一方で、悩んで前に進めない時には、誰かに相談してみるのも一つの手だと穐山さん。

「私は人に相談するのは苦手で、これまでは何でも自分一人で考えて、結論を出して挑んでいました。でも最近は、そんなやり方にも限界があるなと。さらにもう一つ新しいところにたどり着くには、人を頼ることも必要だと思うようになったんです。

悩みって、人に話すと、それだけで気持ちが落ち着くし、もらったアドバイスが自分に合っていてもいなくても、自分の考えが明確になったり、その輪郭が出たりしてくるんですよね。悩んだり、苦難に直面した時には、もつれた糸で一杯になった頭の中を冷静に俯瞰し、ほどいていく作業が必要です。その手助けとして、とりあえず信頼できる人に話してみたり、相談したりしてみるのはお勧め。私も今、それを自分の中でのテーマにしています」。

取材協力:穐山茉由(あきやま・まゆ)

1982年生まれ。東京都出身。外資系ファッションブランドのPRとして働きながら、30代半ばで映画監督に。現在も2つのキャリアを両立中。長編デビュー作の「月極オトコトモダチ」が第31回東京国際映画祭の日本映画スプラッシュ部門に選出された。書籍『彼女がたどり着いた、愛すべき仕事 これが私の生きる道!』(世界文化社)でも紹介される。