「畳み人(たたみにん)」という言葉をご存じでしょうか。
大風呂敷を広げたようなビジネスアイデアを、きちんとした形に畳めるというたとえを基にし、突飛なビジネスアイデアを着実に実行に移せる人を意味する造語なのだそうです。

2020年2月に出版された『「畳み人」という選択』(プレジデント社)という書籍には、そのビジネスアイデアを畳んで(実行に移して)いく人の仕事術が載っています。

この本を書かれたのは、幻冬舎でコンテンツビジネス局の局次長を務める設楽悠介(しだら・ゆうすけ)さんという方。

  • 幻冬舎 コンテンツビジネス局 局次長 設楽悠介(しだら・ゆうすけ)さん

設楽さんの書かれている「畳み人」の仕事術というのが、意外にも"トヨタの現場の働き方"と共通する部分が多いことに気付きました。

ここでは、トヨタの現場目線で「畳み人」という働き方を紹介したいと思います。

「どうすればできるか」を考える

この本の第2章の冒頭で、「広げ人のアイデアを面白がれ」という言葉が出てきます。

「広げ人」というのはビジネスアイデアを広げる経営者やリーダーに多いですが、得てして発言は「朝令暮改」になりがちです。

そうした時に、「また言うことが変わったよ……」と言って愚痴をこぼすのではなく、アイデア自体を面白がることが大切だというのです。具体的には、広げ人のことを世界で一番理解しようとして、アクションや指示の裏側を想像し、"「広げ人の熱量」の伝道師"となるのが畳み人だということ。

"はじめは"一緒に面白がって共犯になることで、あとで軌道修正をしたりコントロールしたりがやりやすい状況になるというわけです。

このように「最初はポジティブに捉える」というのは非常に重要なポイントで、トヨタの現場でも昔から「できない理由を考えるのではなく、どうすればできるかを考えなさい」と言われていました。

なんでも否定から入ってしまうと自分自身の行動が制限されてしまい、どんどん小さな人間になってしまいます。さらに、組織としても動きにくい集団になってしまうのです。

  • 『「畳み人」という選択』(プレジデント社)

トヨタの現場に浸透する「動きより働きをしろ」

畳み人のアクションや指示の裏側を「想像する」と前述しましたが、言い換えると、"言われたことを言われたとおりにやっているようではダメ"なのです。

設楽さんは、さらにこうも言います。

「常に一緒にプロジェクトを進める広げ人に対しては、誰よりも自分が彼・彼女の行動も、考えも、そして無意識で行っている癖でさえも理解してやるぞという意気込みで臨みます。仮に恋人や家族がいる広げ人であっても、僕はその人たちよりも広げ人のことをわかっている存在を目指します。本当に意識して接していれば、気がついたらイタコのように、広げ人の次のアクションが予想できることが増えてくるからです」

このような考えかたで仕事に接し、周囲を観察することで、一歩先を読んでプラスアルファの動きをするのが畳み人だというわけですね。

この点もまさにトヨタの現場では「動くより働く」という言葉で浸透していました。漢字の音読みでは同じ「動」と「働」ですが、「にんべん」が付く、付かないという違いがあります。

トヨタ時代、僕が整備工場で漫然と仕事をしていると、先輩から「お前、ただ動いているだけになってないか?」とよく指摘されました。

「何も考えずに手足を動かすのではなく、頭を使って目の前の仕事にアイデアを付加しろ。そうやって効率を上げていくこそが『働く』ということだ」というわけです。

AIの時代と言われる昨今においては、このような「想像力を発揮して、プラスアルファのアクションをする」ということが非常に重要になってくるように思います。

肩書にとらわれない働き方

また、トヨタの現場では昔から、「多能工」が育てられてきました。多能工というのは、「多くの能力をもつ工員」という字を書く通り、一人の社員が多くの仕事を担当するのです。

自動車整備士は自動車の整備だけをやっているように思われるかも知れませんが、ショールームで接客応対もすれば、事務的な仕事もします。「自分は整備士なんだから整備以外の仕事はやりません」という人は一人もいません。

その働き方は今でも継続していて、本を書いたり、講演をしたり、SNSのマーケティングをやったり、ライターをやったり、肩書きにとらわれず多面的に働いています。

僕もそれなりにトヨタ仕込みの多能工として育っている自負があったのですが、設楽さんはそれ以上に肩書きや活動の幅も多岐にわたる人でした。

「Webメディアの編集長」「書籍の編集者」「電子書籍事業の責任者」「漫画専門出版社の取締役」「音声メディアのパーソナリティ」「イベントやメディアに登場するスピーカー」「新規事業の社外アドバイザー」などです。

ざっと挙げただけでもこれだけあります。特に興味深いのは、他社(上場企業)が行う新規事業のアドバイザーに就任している点です。

サラリーマンとして働きながら、社外アドバイザーもやっているなんて、昔は取締役クラスでしかありえませんでしたが、畳み人という働き方を身に付けると、多能工にもなりやすいのではないかと考えさせられます。

トヨタという会社が変化を遂げながら目の前の仕事を着実に実行し続けているように、これからは、現場で変化に対応する畳み人がますます活躍する時代になるのではないかと感じる次第です。

筆者プロフィール: 原マサヒコ(はら・まさひこ)

1996年、神奈川トヨタ自動車株式会社に入社し、技術力を競う「技能オリンピック」で最年少優勝。カイゼンのアイデアを競う「アイデアツールコンテスト」でも2年連続全国大会出場を果たすなどメカニックとして活躍。現在はトヨタの現場ノウハウを伝える書籍の執筆や全国での講演活動に力を入れている。

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