前回はデットファイナンスに向く商品・サービスの契約形態について説明いたしました。今回は季節性がある事業の運転資金について考えます。売上高が同じ規模の会社同士でも、売上高の季節性の有無によって必要となる運転資金の金額に差異が出ることがあります。単純化した数値例を用いて解説します。

パターンA 売上高の季節性なし

売上高:年間1億2,000万円、月次売上高は毎月同額で1,000万円
費用:年間1億800万円、月次費用は毎月同額で900万円、支払利息なし
入出金スケジュール:売上は末日締め翌月末入金、費用は末日締め当月末払い
融資計画:運転資金は期初に融資を受けて1年後に一括返済

業績と資金繰りは下表の通りとなります。

パターンAは経理上単月黒字が続きますが、事業構造は出金が先で入金が後のため、初月に融資を受けなければ資金が足りなくなります。単純化のため融資は1年後の一括返済でシミュレーションしておりますが、期間を短くしても分割返済にしてもよいと思います。

パターンB 季節性があって第4四半期の売上高が多い

売上高:年間1億2,000万円、月次売上高は第3四半期まで毎月同額で800万円、第4四半期は毎月1,600万円
費用:年間1億800万円、月次費用は毎月同額で900万円、支払利息なし
入出金スケジュール:売上は末日締め翌月末入金、費用は末日締め当月末払い
融資計画:運転資金は期初に融資を受けて1年後に一括返済

業績と資金繰りは下表の通りとなります。

パターンC 季節性があって第1四半期の売上高が多い

売上高:年間1億2,000万円、月次売上高は第1四半期が毎月1,600万円で第2四半期以降は毎月800万円
費用:年間1億800万円、月次費用は毎月同額で900万円、支払利息なし
入出金スケジュール:売上は末日締め翌月末入金、費用は末日締め当月末払い
融資計画:運転資金は期初に融資を受けて3か月後に一括返済

業績と資金繰りは下表の通りとなります。

パターンCは期初に大きく稼ぎ期末に向けて現金残高を減らしていく流れになります。融資期間は短くて済みます。

上記のモデル比較では他の条件を一定として月次売上高のみを変化させ、自己資金ゼロで必要資金を利息のない融資で賄う実務では起こりえない前提を置きましたが、単純で極端な事例においても得られる知見がふたつあります。 ひとつは、季節性がある事業では決算期を何月に設定するかによって現預金残高や借入金残高を始めとした貸借対照表の姿が異なること。もうひとつは、年度資金として運転資金の融資を受ける場合の最適な申込金額と期間が、季節性によって左右されることです。

季節性の存在は、年単位で業績を集計した計算書類(決算書)の内容だけでは融資の金額が決まらない理由のひとつになりますし、融資申込の際に月次の残高試算表の提出を求められる背景にもなるのです。 また、財務計画を立案するときに同業他社の経営指標をベンチマークすることがありますが、決算期が異なる場合は特に、指標の大きな乖離が起き得ることを憶えておきましょう。今回の設例のパターンAからパターンCまでを比較すると分かる通り、乖離の幅は数割ではなく数倍になる可能性があります。

季節性がある事業の運転資金に関する説明は以上です。次回は、売上高の規模だけでは融資金額が決まらない理由について、季節性以外の要因を考察します。