前回は継続的に融資を受けるために意識したい経営指標について説明いたしました。

今回はデットファイナンスの新潮流と題して、資金調達の最新動向を紹介いたします。フィンテックの波は資金調達手段の多角化の面にも及んでおり、オンラインレンディングや私募社債発行支援サービスが新たな取組として登場しています。また、クレジットカードの分野においても従来の商慣習がスタートアップの事業環境に合致しない事例が出てきており、課題解決するためのサービスが立ち上がっています。順番に見ていきます。

オンラインレンディング

オンラインレンディングは2019年頃から次々と参入する企業が現れ、マーケットが拡大しようとしていた矢先に新型コロナウィルス感染症が広がり、利用が下火になりました。取引データ(トランザクションデータ)を元に事業を評価して運転資金の貸付をする枠組みで、機械学習を駆使したスコアリングモデルを導入する挑戦でしたが、短期間で成果を出すには至りませんでした。オンラインレンディング市場が拡大しなかった要因の最たるものはマクロ経済環境の悪化でしたが、筆者は商慣習の壁も厚かったのではないかと想像します。

障壁となったと考えられる要因のひとつは、経理自由の原則です。例えば、ペンを買ったときに計上する勘定科目は事務用品費でも、消耗品費でも、雑費でも構いません。企業を横断して帳簿を比較分析する際に情報の対応関係が複雑になるので、経理自由の原則はオンラインレンディングの審査の障害となり得ます。要因のもうひとつの可能性は、売掛金に焦点を当てた保全方法と返済期間とのミスマッチです。2020年2月にオンラインレンディング事業の広報担当者へヒアリングした際、融資金額の上限が顧客への請求金額に応じて決まり、融資条件の代表例として金額100万円から200万円で期間は6ヵ月の分割返済というパターンが多いと聞きました。買掛金の支払いと売掛金の入金のタイミングのギャップを埋めるためであれば、金融機関から期間1年で分割返済の通常融資を受けることも検討されます。オンラインレンディングと通常融資で返済ペースが2倍異なるため、借り手企業の返済負担が重くなり、オンラインレンディングは利用しづらかったかもしれません。

新型コロナ感染症対応融資が広く普及した影響で企業が低コストで資金調達できる環境となり、審査スピードを利用メリットとしていたオンラインレンディングは影を潜めてしまいましたが、将来好況となれば事業が再開されるかもしれませんので、サービスのバージョンアップを期待して待ちたいです。

私募社債

従来は限られた企業しか利用しなかった私募社債に着目して、2021年3月に専業の証券会社が営業開始いたしました。発行条件に制約が多い公募社債と比較して簡便に起債できる私募社債ですが、今までは銀行引受私募債の事例が大半で、実質的には融資に近い利用実態に留まっておりました。私募社債が契約条件を柔軟に設計できるメリットを享受しようと、新たな資金調達の選択肢として私募社債を検討する企業が増えています。

Siiibo証券株式会社の広報担当者によると、同社が提供する私募社債発行スキームを利用する繰上償還請求権付き社債の「定期社債」の事例では、年限が2年から3年、利率が2%から3%となるケースが多いとのことでした。定期社債の起債を申し込む企業は、シリーズB以降のスタートアップやIPO直後の上場企業だけでなく、売上高5億円から20億円までの地方の老舗企業が含まれます。

企業が新規事業の立ち上げで先行投資を図る際、金融機関からの融資を受けようとすると交渉期間が長くなることもあるのですが、定期社債は発行の意思決定から1ヵ月前後のリードタイムで着金まで完了します。証券会社による発行審査に通過することが必要ですが、証券保管振替機構(ほふり)の利用が求められる銀行引受私募債とは異なり、定期社債の発行企業は非上場企業であっても、財務デューデリジェンスとして年1回の任意監査意見を取得することでほふりの利用が不要となります。定期社債の発行企業が負担するコストは、定期社債を購入した投資家へ支払う利子と、未償還残高に応じて証券会社へ支払う手数料です。

私募社債を購入する投資家は、リスクプレミアムを求めるグループと比較的信用力の高い企業への投資を求めるグループに大別され、資本性ローンのような劣後債のスキームで私募社債を発行することもできます。今後も様々な事例が公表されると予想されるので、動向を注視したいです。

クレジットカード

急成長するスタートアップにとって、利用限度額が数百万円の水準で、利用限度額の増加を半年に1回しか申し込むことができないクレジットカードの運用は悩みの種です。IaaS / SaaS の利用手数料や広告宣伝費の支払い等、短期間長期間を問わず金額の大きな決済を繰り返し実行する財務担当者にとって、利用限度額が大きいクレジットカードの枚数を増やすことは死活問題であり、時間もコストもかかるペインポイントでした。社歴の浅い企業に対して、利用限度額が大きいクレジットカードを提供するスタートアップが増えてきています。

独自の審査基準で企業の信用力を評価して大きな利用限度額を提供する事例や、デポジットを入金する必要があるものの事前入金の対価として利用限度額を引き上げる事例があります。デポジット型のクレジットカードは多額の決済のためには相応の資金を先払いしなければいけませんが、大型の資金調達を受けたスタートアップの視点では利用しやすいとも言えます。

デットファイナンスの最新動向に関する解説は以上です。次回は、2010年代のデットファイナンスのベストプラクティスと2020年代への応用というテーマで情報をまとめます。