前回は季節性がある事業の運転資金について考えました。今回は売上高の規模だけでは融資金額が決まらない理由について情報を整理します。

融資を受けられる金額の相場について諸説ありますが、筆者はひとつの尺度として「純利益の5倍」借りることができるというスタンスです。融資に関する書籍では返済期間10年が目安と紹介される場合が多いですが、特に創業直後の企業は10年の融資を受けることが困難ですので、5年分の利益で返せる範囲内なら借りられると見立てております。

たとえば純利益が2,000万円のケースでは、5年契約・無担保・分割返済で1億円の融資を受けられるかもしれないと予想します。但し、利益を基準として算定した借入余力の金額の満額を借りられるか否かについては、少なくとも2つの側面で制約がかかると考えます。ひとつは資金用途、もうひとつは費用構造です。

まず、ひとつめの要素の資金用途について見ていきましょう。極端に考えて、ケース【1】売上高5,000万円・費用3,000万円・利益2,000万円と、ケース【2】売上高5億円・費用4億8,000万円・利益2,000万円と、ケース【3】売上高5億円・費用3,000万円・利益4億7,000万円の事例を比べます。

ケース【1】売上高5,000万円・費用3,000万円・利益2,000万円の事例

3カ月分の運転資金があれば十分に事業が回り、利益率が40%あるので返済も滞りにくいと、金融機関側は捉えるだろうと想像します。「純利益の5倍」の基準に照らし合わせれば1億円まで借入余力があるかもしれませんが、運転資金として説明がつくのは3か月分の費用である750万円までなので、運転資金以外の資金用途がない状況で数千万円単位の融資を受けることは難しいでしょう。

ケース【2】売上高5億円・費用4億8,000万円・利益2,000万円の事例

3カ月分の運転資金を用立てようとすると1億2,000万円必要となり、借入余力の1億円を超えています。融資期間中に利益が増える見込みについて説明して、金融機関側が納得すれば1億2,000万円を満額借りることができるかもしれませんし、利益が横ばいとなる予想なら金融機関側がリスクを取らず、満額の融資は難しい可能性があります。

ケース【3】売上高5億円・費用3,000万円・利益4億7,000万円の事例

毎月の利益が4,000万円弱だとイメージされ、1カ月待てば年間の費用3,000万円を賄えるだけの資金が貯まるのではないかと、金融機関側に見做されかねません。融資を受ける目的そのものの説明が難しくなるパターンです。

同じ売上高の水準でも、利益率が高い事業の方が用途を運転資金として考えた場合の融資金額が小さくなる傾向があると考えます。金融機関側は事業の内容を見て必要な金額を判断しますし、企業側に返済余力があっても用途が定まらない資金を無尽蔵に供給したりはしません。明確な資金用途があってはじめて、融資の相談がスムーズに進みます。

次に、ふたつめの要素である費用構造について検討します。売上高比率で30%を占める費用項目があるとします。人件費かもしれませんし、輸入している原材料かもしれません。その費用が4%増加すれば、30%×(1+0.04)=31.2%となりますので、売上高比率で約1%分の利益が減少します。同様に10%増加すれば、30%×(1+0.1)=33%となりますので、売上高比率で3%分の利益が減少します。

利益率が低い産業では、人件費の高騰や輸入価格の上昇で一気に赤字に転落する可能性があります。直近の決算が黒字となっている企業でも、価格変動に敏感で取り扱い金額が大きい費用項目を抱えている場合は、融資をする金融機関側が借り手の返済能力を小さく見積もる可能性が高いです。費用構造が異なれば、融資を受けられる金額も異なります。

融資の金額は売上高だけでは決まらず、資金用途や費用構造、そして前回の記事で紹介したように事業の季節性の存在によっても左右されます。損益計算書や貸借対照表だけを参照して借り入れ可能な金額を類推することは、容易ではないです。

売上高の規模だけでは融資金額が決まらない理由についての解説は以上です。次回は日本政策金融公庫の国民生活事業と中小企業事業について説明します。