大学進学者のおよそ2人に1人は奨学金を利用しています。奨学金は未来の自分に背負わせる借金と言えます。安易に借りると後で苦しむことにもなるかもしれない奨学金について、知っておいてほしいことをまとめました。

  • 奨学金破産をしないために知っておきたいこと

    奨学金破産をしないために知っておきたいこと

奨学金にはどんな種類がある?

奨学金と一口に言っても、いろいろな種類があります。大きく分けると、「給付型」と「貸与型」があり、「給付型」は返さなくてもいい奨学金、「貸与型」は返済が必要な奨学金です。最も多くの人が利用しているのが日本学生支援機構の貸与型の奨学金です。無利息の第一種奨学金と利息が付くタイプの第二種奨学金があります。

第一種の方が学力や収入などの採用基準が厳しく、第二種はそれよりもゆるやかな基準となっています。最も給付型が一番いいわけですが、日本学生支援機構の給付型奨学金は、貸与型に比べさらに条件が厳しくなり、収入基準は住民税非課税世帯など、経済的理由で大学進学が極めて困難な学生に限られています。

返済プランを考えよう

貸与型の奨学金を借りた場合、貸与期間終了から7ヵ月後に奨学金の返還が始まります。3月の大学卒業で貸与終了となった場合、その年の10月から返還開始となります。

以下のモデルケースを考えてみましょう。

<第二種奨学金を月10万円、貸与利率0.10 %で借りた場合>
貸与総額:4,800,000円
返還期間:20年(月賦返還)
返還額:20,210 円/月 最終20,396 円/月
返還回数:240回
返還総額:4,850,586 円

月2万円を20年間返し続けなくてはなりません。23歳から始めたとしたら、43歳で完済となります。多くの人は、この期間に結婚や出産、住宅購入など人生におけるさまざまなイベントを経験するでしょう。月2万円の返済を滞りなく行うには、奨学金の返還をライフプランと絡めて考える必要があります。

例えば、住宅ローンを組むことになった時に、奨学金の有無が住宅ローンの審査に影響します。年収に対しての返済負担率が奨学金の返還金額分高くなってしまうからです。

こうした事態を避けるには、住宅ローンを組む前に、奨学金を繰り上げ返済によって完済してしまう方法があります。奨学金の繰り上げ返済は期間短縮型です。返還期間を短くすることで、その期間の利息を払わずに済みます。

ただし、2019年度の奨学金の利率は0.015~0.153(利率固定方式)で推移しており、極めて低い利率と言えます。20年間で5万円程度の利息と考えると、繰り上げ返済による利息軽減効果は低いと言えるでしょう。そのため、無理に繰り上げ返済をする必要はないと考えます。

住宅ローンと重なるのを避けたい、あるいは早く返済を済ましてすっきりしたいということであれば、家計に影響がない範囲で余剰資金を繰り上げ返済に充ててみるとよいでしょう。

奨学金破産とは

近年問題となっているのが、奨学金を借りても返済できずに、結果的に自己破産となってしまう“奨学金破産”です。奨学金が原因で自己破産したケースは2016年までの5年間で1万5,338件となっており、内訳としては、奨学金を借りた本人が8,108件、連帯保証人が5,499件、保証人が1,731件となっています。

このように、本人だけで終わらず、保証人となった人まで債務が発生し、結果、保証人も自己破産する“自己破産の連鎖”が起きています。こうした事態を引き起こさないためにも、奨学金を借りる前に考えておきたいポイントを次にご紹介します。

奨学金を借りる時に知っておきたい5つのポイント

1. 検討する時は給付型→無利子型→有利子型の順で

「成績優秀ではないし、親の所得もそこそこなので、給付型は無理」と安易に諦めないで、まずは給付型の奨学金を検討してみましょう。

2020年4月から始まる大学無償化には給付型奨学金がありますが、低所得世帯が対象です。この対象から外れたとしても、大学が独自に設けていたり、自治体や企業が給付型奨学金を提供したりしている場合もあります。利用できるものがないか検討してみましょう。

また、奨学金は併用ができますので、無利子型で利用できる奨学金があればそちらを優先し、足りない分は有利子型で借りるなど組み合わせるとよいでしょう。

2. 高校から準備をする

奨学金の申し込みには、高校3年時に申し込む「予約採用」と大学進学後に申し込む「在学採用」があります。給付型の奨学金は予約採用が多いため、高校3年になったら申し込みの準備をしておかなければなければなりません。

しかし、ここで気を付けてほしい点は、予約採用での学力審査は、高校1年時からの成績証明書の添付を求められるケースが多いことです。つまり審査は高校入学から始まっていると思っていいでしょう。

3. 保証人を立てない

先述した奨学金破産では、奨学金を借りた本人が返済不能となると、連帯保証人に債務の請求が行き、払えない場合は連帯保証人まで自己破産となる“自己破産の連鎖”が問題となっています。

こうした事態を防ぐためには、奨学金を借りる時に保証人を立てずに、機関保証を利用する方法があります。この場合、本人が自己破産をしたら、保証機関が弁済をしてくれます。機関保証を利用するには保証料がかかり、天引きのような形で奨学金から引かれます。

2019年度の保証料は月5万円を第二種奨学金で4年間借りた場合、月額2,108円となっています。決して安くはない保証料ですが、保証人の経済状況が厳しい場合は利用を検討してみましょう。

4.何のために借りるのか考える

貸与型の奨学金は未来の自分が今の自分に代わってお金を払うことで得られるお金です。つまり、未来の自分からお金を借りていると言えるでしょう。借りたお金を苦もなく返済できる未来の自分になるために、奨学金は使わなくてはなりません。

このように考えると、大学時代を遊んで過ごすのはもってのほか、この大学でいいのだろうか、この学部でいいのだろうか、そこまでして借りる必要があるのか、などたくさんの自問が生まれると思います。奨学金の利用を考える時に、こうした自覚を持っていれば、未来の自分が苦しむことはないでしょう。

5. 救済制度を利用する

いろいろ考えて借りたとしても、奨学金の返還が難しくなってしまう事態は起こり得ます。その時に、次の2つの救済制度を検討してみましょう。

●減額返還

災害、傷病、経済困難、失業などの返還困難な事情が生じた場合に、月々の返済額を2分の1または3分の1に減額して、その分、返済期間を延長して返済する方法です。

●返還期限猶予

災害、傷病、経済困難、失業などの返還困難な事情が生じた場合に、一定期間、返還期限を延期する制度です。延期できる期間は通算10年が限度です。

いずれも返還する金額が減るわけではないので、一時しのぎ的な面はありますが、これらの制度を利用せず、延滞金が発生する事態となると、返済額が増えて追い打ちをかけることになります。返還が厳しくなったら早めに申請をしましょう。

奨学金は本来、学びたい学生を援助するためのものです。奨学金が後々の自分を苦しめるものになってはいけません。早めの準備と制度を理解し、奨学金を味方にして明るい未来を作ってほしいと思います。