普通に暮らしている以上、あまり意識することがない「耳」。耳鼻咽喉科医でシンガーの木村至信氏が教えてくれた、知って得する「耳雑学」をお届けします。
知られざる耳の構造と働き
医師の木村至信氏(以下、キムシノ氏)は横浜のクリニックの院長で産業医としても勤務していますが、専門は耳鼻咽喉科。過去、風邪予防などの件でたびたびコメントしてくれましたが、そういえば一番の専門である「耳」のことを聞いていませんでした。いろいろ聞いてみましょう。
――耳の構造と、音が聞こえる仕組みを教えてください。
キムシノ氏 「耳の構造からお話ししますね。耳は、耳たぶから鼓膜までの『外耳(がいじ)』、最奥部にあり聴覚や平衡覚器が収まる『内耳(ないじ)』、外耳と内耳をつなぐ『中耳(ちゅうじ)』と、3つのパーツに大きく分けられます。
音が聞こえるのは、外耳道と呼ばれる耳の穴の突き当たりに鼓膜があり、音は鼓膜を振動させ、鼓膜にくっついた耳小骨、さらに蝸牛へと伝わり、内耳神経という聴神経により脳へ信号が伝わるからです」。
――耳たぶや耳の穴など、外に出ていて目に見える部分だけでなく、内部まで「耳」という器官なんですね。
キムシノ氏 「耳の奥に鼓膜という膜があることは知られていますが、鼓膜のさらに奥には鼓室という部屋があります。鼓室は、耳管という管によって咽頭、つまりのどとつながっています。
耳管は普段は閉じていますが、つばや食べ物などを飲み込むと開いて、外耳道と鼓室の圧を調整します。この働きにより、鼓膜の外と内の圧力差を無意識のうちに解消するのです。そして内耳にも重要な機能があり、半規管など体のバランスを取る働き、いわゆる平衡感覚をつかさどります
耳は音を聞いたり、平衡感覚を保ったりする他、音が聞こえる方向からの感覚や距離を分析して、脳に伝えることもできます。例えば、虫が飛んでくる音量で、手で払ったり、後ろからくる車の音量で避けたりできます。耳は身を守るためにも大事な器官なのです」。
耳鼻咽喉科って何するところ?
風邪は内科でも診てくれますが、症状によっては耳鼻咽喉科のほうが早く治ることもあると聞きます。これはなぜなのでしょうか。また、耳鼻咽喉科ってどんなところ?
――先生、風邪は内科にかかるより、耳鼻咽喉科のほうが早く治してくれることがあるそうですね。
キムシノ氏 「風邪にはさまざまな症状があり、鼻やのどなどの疾患を伴うもの。そのため、それぞれの局所の症状ごとに診察・投薬を行う耳鼻咽喉科に行くほうが良いことがあります。
それから、季節の変わり目で軽い風邪をひいた方が、『風邪は治ったけど、耳に膜が張ったような感じがある』、あるいは『耳がずっと詰まっている感じ』などの症状も耳鼻咽喉科の領域です。風邪やアレルギー性鼻炎など、鼻やのどの炎症が鼻の奥にも及んで引き起こされる『耳管狭窄症(じかんきょうさくしょう)』を疑います」。
ピアスの穴から白い糸が出るのは本当?
最近、「若者のピアス離れ」からイヤリングを好む人が増えているそうですが、逆にピアスを楽しむ男性も珍しくありません。そして、このピアスも耳鼻咽喉科の得意科目なのだそう。
――そういえば、「ピアスの穴から糸が出てきて、引っ張ったら目が見えなくなった」なんて都市伝説がありました!
キムシノ氏 「糸も失明も嘘ですが、ピアスが原因で起きる病気は実際にあります。まず、『ピアス裂傷』。ピアスを引っかけて耳たぶが切れる急性ピアス裂傷と、重いピアスで徐々に耳たぶが切れてくる慢性ピアス裂傷があります。ピアスの穴が感染しているのに放置した場合にも、裂傷は起きます。治療は手術以外にありません。手術の傷痕は残るし、耳の形が少し変わってしまうこともあります。
その他、ピアスホールに袋状の腫瘍ができる『ピアスホール嚢腫(のうしゅ)』など、ちょっとしたことで感染など起こることもあるので、何かあれば耳鼻咽喉科、耳鼻科の他、皮膚科でご相談ください」。
――確かに、耳に穴を開けるなんてよく考えると怖い行為です。ピアスホールはどう開けるのが正解なのでしょう?
キムシノ氏 「ピアスの穴開けは医療行為であり、無資格の方が他人に穴開けをすることは医師法で禁じられています。ファーストピアスは、耳鼻咽喉科や皮膚科で入れるのが理想的です。医療機関なら医療用のピアッサーやピアスガン、軟骨やボディーピアスの場合は局所麻酔と特殊なニードルを使うことで、ほとんど痛みなしに、希望の位置に穴を開けることができます。
金属アレルギー、アトピー性皮膚炎、ケロイド体質、持病のある方など、そもそもピアスを止めたほうが良い方もいます。また、耳は左右の微妙な形状差や、向きや厚さなども人それぞれです。すでに開けた穴の位置を変えること、耳の左右差や間隔など、おしゃれの観点からもアドバイスできますよ!」。
取材協力:木村至信(きむら・しのぶ)
横浜市の馬車道木村耳鼻咽喉科クリニック院長・産業医・医学博士。テレビやラジオのレギュラー番組を持つタレントでもあり、「木村至信BAND」でメジャーデビューする女医シンガーの一面も。