テレワーク推進により、雑音が多いオフィスを離れて静かな自宅で仕事をするようになり、耳鳴りに気付いたという人もいるのでは。また、季節の変わり目にも耳鳴りに悩む人は増えるそうです。耳鼻咽喉科医の木村至信氏(以下、キムシノ氏)に聞きました。

  • 耳鳴りが気になることはありますか?

    耳鳴りが気になることはありますか?

よく聞く「耳鳴り」ってどんな病気?

「耳鳴り」という語を聞いたことはあっても、正しく知っている人はそれほど多くないでしょう。また、静かなところにいると耳鳴りがするような、気のせいのような……。そもそも、耳鳴りとは何か、なったらどうすればいいのか聞いてみました。

――先生、耳鳴りってなんですか?

キムシノ氏 「耳鳴りとは、周囲で音が鳴っていないにも関わらず、ジージー、キーン、ボーボーなどの音が聞こえる症状です。耳鳴りには、本人しか聞こえない『自覚的耳鳴り』と、筋肉のけいれんや血管病変の拍動など、物理的に音が鳴る『他覚的耳鳴り』がありますが、大半は自覚的耳鳴です。耳鳴りの患者さんの90%程度は、難聴を認めており、難聴と耳鳴りは密接な関係があります」。

――難聴もよく聞く言葉ですが、具体的にどんな状態ですか?

キムシノ氏 「難聴とは聴覚障害の一つで、音を聞いたり区別したりする能力が低下した状態を指します。最近では、難聴に伴い脳の異常な興奮が起こることが関与しているのではないかと考えられています。難聴によって、聞こえの情報が脳に伝わらなくなると、脳が音に対しての感度を上げようと働き、異常な興奮状態を起こして、それが耳鳴りとして感じてしまうわけです」。

――耳鳴りが起こるメカニズムについて完全に解明されていないんですね。心理的な要因も大きそうです。

キムシノ氏 「耳鳴りを不安に思うと、耳鳴り音に意識が集中してしまい、さらに音を大きく感じるようになります。それがストレスとなりさらに不安が強くなり、ますます耳鳴りが……という悪循環に陥るケースもあります」。

耳鳴りや聞こえの問題は本人にしかわからない

耳鳴りは基本的に、本人だけが感じる症状のため、原因の特定が難しいという特徴があります。「原因や症状の出方が多岐にわたっていることも、耳鳴りの病態解明を難しくしている理由だと感じています」とキムシノ氏。

こうしたことから、耳鳴りの診断においては、耳鳴り以外にどんな症状があるかから原因を特定する手法があるそうです。教えてもらったことをまとめました。

耳が遠くなる

突発性難聴、老人性難聴、耳垢栓塞、耳管狭窄、耳硬化症、メニエール病、薬の副作用など。

めまいがする

メニエール病、内耳や脳の血行障害、脳腫瘍、脳卒中や頭部外傷の後遺症など。

自分の声が響く

耳管狭窄症(じかんきょうさくしょう)、中耳炎など。

全身に不快感がある

自律神経失調症、更年期障害、ストレスなど。

頭痛・肩こり・動悸

高血圧、低血圧、貧血など。

耳鳴りの原因と、もしなったときの検査や治療

耳鳴りなどの不快症状が強くなったら、耳鼻咽喉科や耳鼻科で相談することが第一歩。最初は聴力検査から始まり、それから耳鳴りの検査、もしめまい症状もある場合はめまい検査と進むそうです。

――薬や手術はどんなものになるのでしょうか?

キムシノ氏 「急に症状が現れた場合は、原因となっている病気を特定し、治療を行います。薬物療法では、内耳の循環改善薬、内耳の神経の働きを良くするビタミン薬、漢方薬などが代表的です。もしも、心理的な要因が強い場合には、抗不安薬や抗うつ薬が使われる場合もあります。

また、心理療法で『耳鳴りがなぜ起こるのか、耳鳴りはあっても深刻なものではない』と理解することにより、耳鳴りへの不安を解消するよう促すこともあります。それから、音響療法もあります。 補聴器を使って聞こえなくなった音を増幅させて聞く方法と、逆にノイズで耳鳴りを消す方法がありますが、毎日継続して長期間行わなければなりません。

その他、ノイズジェネレーターという、耳鳴を感じさせないために、小さなノイズをずっと耳に流す治療もあります。どの方法も慣れと根気が必要なので、じっくりと病気に向き合うことが求められます。高度の難聴の場合、聴覚障害が認定されると簡易的な補聴器が支給されるケースもあります」。

取材協力:木村至信(きむら・しのぶ)

横浜市の馬車道木村耳鼻咽喉科クリニック院長・産業医・医学博士。テレビやラジオのレギュラー番組を持つタレントでもあり、「木村至信BAND」でメジャーデビューする女医シンガーの一面も。