「毎日したほうがいい」「毎日しなくてOK」など、たびたび話題となる耳掃除。結論から言えば、「毎日しなくていい」が正解ですが、耳掃除がやめられない人がいるのは、単に「気持ちがいいから」。おもしろくてタメになる耳掃除の話をお届けします。

  • 耳掃除をひんぱんにしていますか?

耳あかがカサカサな人だけがハマる、耳掃除

耳掃除、毎日していますか? 最新の知見を踏まえると、「毎日しなくてOK」が正解らしいですよ。

横浜のクリニック院長かつ現役シンガーで、専門は耳鼻咽喉科という「耳」のスペシャリスト、木村至信氏(キムシノ氏)は、「耳掃除を頻繁にやってしまうのは、気持ちがいいからです。耳の穴には、快感を生じさせる迷走神経が走っており、耳かきで触れば触るほど、気持ちがよくなってくるのです」と指摘します。

キムシノ氏:耳の構造を軽く説明すると、耳たぶから鼓膜までの「外耳(がいじ)」、最奥部にあり聴覚や平衡覚器が収まる「内耳(ないじ)」、外耳と内耳をつなぐ「中耳(ちゅうじ)」と、3つのパーツに大きく分けられます。

このうち、耳掃除をするのは外耳道の部分です。耳穴の入り口から鼓膜までの距離は、約3cm。この道はS字状に曲がり、外から3分の2ぐらいの皮膚が厚くなり、産毛が生えています。耳あかが見られるのはこのあたりです。

――耳のあまり深くない部分ということですか?

キムシノ氏:特に、耳の入り口から3分の1ほどのところに、耳あかの元となる脂を分泌する耳垢腺(じこうせん)があります。日本人の約6割はこの腺が少ないので耳あかはカサカサとしており、4割はベトベトタイプです。「アメ耳」という俗称もあります。ちなみに、昔は「日本人はカサカサタイプが9割」と言われていましたが、食生活やライフスタイルとともに耳あかも欧米化してきました。

――耳掃除を好むのは、耳あかがカサカサでいじりやすい人だけなんですね。

キムシノ氏:一般的な耳かき棒が有効なのは、カサカサタイプだけです。欧米人のようなベトベトした耳あかを取るには綿棒で拭き取るか、耳鼻科で処置してもらう以外ありません。欧米人の9割は耳あかがベトベトなので、欧米ではあまり耳かき棒は売っていません。

いくら気持ちよくても耳掃除はほどほどに

キムシノ氏:先ほどの説明に沿って耳の構造を考えると、耳あかが溜まるのは耳の外側に近い部分だけとなります。奥は皮膚が薄く、毛も生えず、さらに皮脂腺も耳垢腺も存在しないということは、耳掃除は手前だけでOKということになりそうです。

――耳の奥のほうは耳掃除をしないほうが良いということですか?

キムシノ氏:はい、その通りです。耳の穴の突き当たりにある鼓膜には知覚神経が走っており、触ると激痛がする部分もあります。医学的に言えば、耳掃除は入り口から1cmだけすればよく、さらに週一回で十分です。お風呂上がりに耳掃除をする習慣がある方は、一度やめてみましょう。

――それ以上するとどうなりますか?

キムシノ氏:やりすぎると、外耳道炎になる恐れがあります。皮膚がめくれ、細菌や真菌入り耳だれが出たり、中が腫れて難聴を起こしたりします。治療には抗生物質の点滴や内服が必要です。外耳道炎を繰り返し、抗生剤を短期間に連続して使うと、耐性菌が住み着き、難治性の外耳道炎、カビが生える外耳道真菌症などの深刻な症状に進むことも。出血を伴う著しい量の耳あかなど、異変があればすぐに病院へ。

――耳掃除をすると咳が出るということ、ありますよね?

キムシノ氏:外耳道には咳を出させる神経も走っているため、耳掃除をしすぎると咳が出ます。敏感な方は耳を触るだけで咳が出ることもあります。

医学的に正しい耳掃除の基本

最後に、キムシノ氏が患者さんに勧めている耳掃除の方法を説明します。

キムシノ氏:頻度は、週一回。お風呂上がりに綿棒で入り口1cmだけ掃除します。耳あかを間違って押し込んでしまったと感じたら、耳鼻科で取ってもらうのが正解です。耳が不快、かゆいなどと感じるときは、耳全体を冷やすのが有効です。耳掃除でかきすぎるとヒスタミンが出てさらにかゆくなります。

それから、マキロンなどの殺菌消毒液を少量綿棒につけて耳の中をクルクルと2回転させて掃除すると、シュワシュワとした刺激で耳あかを溶かしつつ、かゆみも抑えてくれます。最後に乾いた綿棒で1回拭き取りましょう。「お風呂で水が入ったまま抜けない」という方はいませんか。本来、自然に水は抜けるはずですが、それでも残っているなら、耳あかが水を吸っているのかも。耳鼻科で簡単に取れますよ。

取材協力:木村至信(きむら・しのぶ)

横浜市の馬車道木村耳鼻咽喉科クリニック院長・産業医・医学博士。テレビやラジオのレギュラー番組を持つタレントでもあり、「木村至信BAND」でメジャーデビューする女医シンガーの一面も。