「毎日のように怒ってしまう」「言うことを聞いてくれなくて困る」「夫(妻)と育児方針がかみ合わない」……などなど、育児に悩みは尽きません。特に、毎日忙しく過ごしている共働き夫婦なら尚更でしょう。ここでは、育児中のマイナビニュース会員に"育児の悩み"についてアンケートを実施。寄せられたお悩みに対して"どのようにすべきか"を、NHKの育児番組でキャスターを務めた経験を持ち、現在は育児のセミナー講師や書籍執筆なども行っている天野ひかりさんに、アドバイスしてもらいます。

  • 「親の言うことを聞ける子に育てる」その前に親がすべきこと

    親の言うことを聞ける子にする前に、親がすべき大切なこと

子育てでイライラするのはどんな時ですか? とのアンケートで「何度言っても行動が直らない。話を聞かない。親の言うことを聞かないこと」がダントツ1位でした。今回は、そんな時親はどうすればいいのか考えます。

お母さんやお父さんのいうことを「はい」と聞いてすぐに行動してくれたら、どんなにか楽なのに、と思ってしまう気持ちよくわかります。そういうお子さんを見て、なぜ我が子はできないのか、と焦る気持ちもわかります。

でも、親に言われた通りにできて褒められて育ったお子さんは、大人になって「指示されればできる指示待ちの人」になる可能性が高いのです。

“昭和の教育”では、言われた通りにできる人が優秀で歓迎された時代でした。でも令和と未来を生きる子どもは、自分の頭で考えて行動できる大人に育てなければなりません。なぜなら、言われた通りに完璧にできるAIが普及する時代に生きるからです。

“昭和の教育”で育ったお母さんお父さんが、“令和の教育”で子どもを育てなければならない転換期にいるので、それはとても大変です。でも、子どもの将来を考えたら、今が踏ん張りどきです!

まずは、「親の言うことをちっとも聞かないきみは、案外すごいのかもしれないな」とつぶやくところからスタートです。

怒らないとできないのはまだ器が育まれていないから

実は、子どもの脳の成長には順番があります。そのことを学ぶ機会がない私たちが知らないのは当たり前。今ここで学んでしまいましょう。

子どもは自分の思いや行動を認めてもらった後で、初めて、相手の言うことを聞けるようになるのです。

これは、大人でも同じかもしれませんね。

例えば、一生懸命に考えて寝ずに作った企画書を「これはダメだ。私が言う通りに書き直しなさい」と上司に言われたら、自信もやる気も失ってしまいそうです。

でも、もし「なるほど、新しい発想でよく考えたね。改善点を考えて作り直そう」と頑張った点を認めてもらえたなら、上司の意見を聞き入れながらもっといいものを作ろうと思いませんか。

成長期の子どもはなおさらです。親の言うことを聞けるようにする前に、親がすべき大切なことは、子どもをそのまま認めて自己肯定感を育てることです。

自己肯定感とは、「私は私だから大丈夫」「私は愛されている」「自分のことが好き」と思える強い心です。

自己肯定感が育まれると
・何かに挑戦して学んでいける
・努力して壁を乗り超えられる
・相手の立場に立って考えられる
この3つの力が発揮されるようになると言われています。

私は講演などで、自己肯定感を育てることを“器を大きくする”と表現しています。

お子さんがこれから身につけていくべき知識や社会のルール、他者とのコミュニケーションを「水」とするならば、それを受け入れる「器」は、なるべく大きくて、深くて、丈夫であってほしいと願いますね。

ところが、ほとんどのお母さんお父さんは、子どもの器を大きくする前に、水(知識、ルール)を入れることに一生懸命になっています。

栄養価の高い水・みんなにほめられる水を汲んできて、まだ育っていない器に注ぐ。でも器が小さいから、あふれてしまう。また注いで溢れさせて……とヘトヘトになって、なかなか水が入らないことにイライラしてしまう。つまり「何度言ったらわかるの!」と叱ってしまうのです。

本当は子ども自身が水を探し、自分で選んで、汲んで、頭の中に入れないと水は力を発揮しません。

親がすべきことは、水を注ぐことではなく、器を大きく育てることなのです。

器(自己肯定感)を育てる方法とは?

では、どうしたら器を育てることができるのでしょうか。それは、毎日のお父さんお母さんの言葉かけです。

どの言葉を使い、どの言葉は使わないのか、その言葉によって、お子さんの器はどんどん大きく育つ無限の可能性があります。

間違えてはいけないのは、欠点や失敗と思われることも含めて、そのままの子どもを認めることです。子ども自身は欠点や失敗だとは思っていなくて、自分に素直な行動を大好きなお父さんとお母さんに見てほしいだけなのです。

「認める言葉」が器を育てる

親は教えているつもりでも、子どもは、認められてないと感じていることがたくさんあります。

例えば、ご飯をこぼしながら食べた時、なんて声をかけたらいいのでしょうか。

×「こぼさないで、食べなさい!」
と言ってしまいがちですが、これは正論を押し付ける“水を注ぐことば”です。僕はいつも叱られる、ダメな子なんだと思ってしまう可能性があります。叱られないことだけを考えるようになって、言い訳や嘘をつくようになってしまったら逆効果ですね。

〇「一生懸命に食べてるね! (こぼすほど……)」
これは、お子さんの行動そのままを認める“器を育むことば” です。食卓の楽しさを感じて、だんだん残さずこぼさずに食べようと意欲が湧いてきます。やる気を育んだ後で、「今日はこぼさないで食べられたね」と言われる日が来れば、もう次の日からこぼさずに食べられます。育った器には、水が入るからです。

1回では無理ですが毎日の言葉を言い換えるだけで、お子さんがびっくりするほど変わります。時々、急に子どもを認めたら、親の威厳が損なわれるのでは、と躊躇するお父さんがいますが、大丈夫です。子どもは、認めてくれたお父さんをもっと好きになり、もっと尊敬するようになります。

これまで、5万人のお父さんお母さんから、「子どもを変えようと思ったら、まずは自分が変わることが大事だとわかりました」と喜びの声をいただいています。

叱ってもできるようにならないのは、脳の成長の仕組みにありました。お水を注いでヘトヘトになる前に、目の前のお子さんの言動をよく見て、まずは認める言葉を心がけていきたいですね。