果物をなぜ食べるのかと問われたら、真っ先に浮かんでくる答えはやっぱり「おいしいから」だろう。そして、歳を重ねて健康面でも気になることがもりもりと噴出し始めたいま、果物は「カラダにいいから」と、加えて「ココロがうれしいから」という答えもしたくなってきた。
このおいしくて、カラダによくて、ココロにもよろしい果物。個人的にいまイチオシが、キウイフルーツである。
キウイフルーツに、みなさんはどういうイメージを抱いているだろうか。酸っぱい? 毛が生えてる? たしかに。とはいえ一方では、「健康によさそう」というイメージもそれなりに浸透していると思われる。
スーパーに行けば必ず目にするキウイ。ただ、「キウイってどの国のフルーツ?」と質問され、自信を持って答えられる人は案外少ないかもしれない。さらには「キウイはなぜ健康にいいの?」と聞かれても「なんとなく、そんなイメージ」という人が多いことだろう。
このほど、ニュージーランドのキウイに関わるさまざまな場所・施設を訪れる機会を得た。今回から3回にわたり、“甘くておいしく、人の健康にもポジティブな影響を与える、キウイフルーツの奥深い世界”をお伝えしていこう。
“キウイの秘密”を探りにニュージーランドへ
ある日、キウイを買ったのだ。手のひらにスッポリおさまるサイズの、ちょっぴりいじらしい顔をしたあのキウイフルーツ。ただ、なじみのあるグリーンのキウイではなく、中身がピンクがかった赤いキウイだった。
「キウイはカラダにいいから」と妻が言って近所のスーパーで数個購入。家に帰り早速1個を半分に切って、食べた。ほんのり甘く、でも全体としては酸っぱさもそれなりに際立つ味だった。酸味があまり得意でない妻は「もう少し寝かしたほうがいいかもね」と言い、残りは手をつけずに置いておいた。
その妻が急な病で入院してしまった。キウイもそのまま放置したまま忘れていたのだけれど、あるとき思い出して冷蔵庫に入れ、冷やしてから口に入れてみた。すると、なんとも甘い。酸っぱさはほんのアクセントに漂う程度で、とにかく甘い贅沢感満載のフルーツへと変身していた。その後、退院した妻ものこりの1個を食べ、いままで経験したことのないゴージャスなキウイを堪能していた。
「キウイは酸っぱいはずなのに」、それだけが頭にあったから、この甘さはとにかく意外だった。思い返せば、キウイといえばニュージーランド。そのキウイがこれほどまでに甘く、おいしく、健康にもよいフルーツへと育て上げられてきた背後には、ニュージーランドの自然や風土、そして人のチカラと想いがあるにちがいない。
その“キウイの秘密”を知りたくて、4月某日、ニュージーランド航空で成田から飛び立った。およそ10時間半のフライトを経てニュージーランド最大の都市・オークランドに到着。そのまま飛行機を乗り継ぎ、北島北東部ベイ・オブ・プレンティ(Bay of Plenty)地方の中心地・タウランガに着陸した。
ゼスプリを支える生産者たちのキウイ農園
ベイ・オブ・プレンティは、ニュージーランド国内で生産されるキウイのおよそ80%を占める、まさにキウイの一大産地である。
小ぢんまりとしたタウランガの空港からバスに乗り、まず訪れたのが郊外のカティカティ(Katikati)地区にあるキウイ農園「ツイン・カウリ果樹園(Twin Kauri Orchard)」。
敷地に足を踏み入れ、防風林として植えられた背の高い木々の連なりを抜けると、キウイ畑が広がっている。その先には、海沿いの丘陵地で牛や羊が穏やかに草をはみ、そして向こうから、プレンティ湾につながる入り江の雄大な景色が目に飛び込んできた。半日を超える移動の疲れを一瞬で癒してくれる光景だった。
この果樹園を経営するのは、カーナカンさん一家。経営者のショーンさんと妻のジョーさん、息子のロッキーさんの家族3人で3種類のキウイを生産している。もともとは1982年にキウイの果樹園をスタートし、タウランガに本社を構えるゼスプリの「グローワー(キウイ生産者)」としてキウイを栽培している。
ゼスプリ(ゼスプリ インターナショナル)は、世界最大のキウイフルーツ販売・マーケティング企業である。品質にこだわったキウイフルーツを、現在は世界の50カ国以上で販売している。同社はキウイ生産者たちが集まり、1980年代後半に前身となる組織を設立。1997年に「zest(情熱)」と「spirit(精神)」を組み合わせた「Zespri」という社名およびブランドを名乗るようになった。
その成り立ちから生産者の共同組織・組合的要素の強い企業で、グローワーすなわちキウイを生産する人々が株主となっている。もちろんカーナカン一家も株主だ。
ゼスプリが販売するキウイは大きく分けて3種。果肉が鮮やかな緑色で最もなじみのある「ゼスプリ・グリーンキウイ」、黄金のように明るくきらめく「ゼスプリ・サンゴールドキウイ」、そして2021年から販売が始まった最新品種で、例のピンクがかったやわらかな赤色をまとう「ゼスプリ・ルビーレッド」だ。
グリーンは従来のキウイのイメージそのもの。うっすら産毛が生えているので「キウイには毛が生えている」というのはグリーンがもたらしたものだろう。他品種と比べれば酸味が比較的強いながらも、1日1個で不足しがちな食物繊維を補える。
サンゴールドははじけるような甘さが特徴で、少なめの酸味とのバランスもほどよく、こちらは1日1個で1日分のビタミンCを摂取できるというものだ。さらに近年注目度が高まっているルビーレッドは、上品かつゴージャスな甘さが特徴。1日分のビタミンCに加えて、そのかわいらしい赤色の元となるアントシアニン(ポリフェノールの一種)が含まれる。
カーナカンさんの果樹園では、この3種すべてを栽培している。栽培面積はサンゴールドが最も広く25ヘクタール、続いてグリーンが23ヘクタール、最新のルビーレッドは6ヘクタールとなっている。
「クオリティ、クオリティ、クオリティ」が合言葉
「キウイの栽培自体は1年12カ月、休みなく行われます。最も忙しいのはやはり収穫シーズンで、おおむね3月上旬から6月上旬。ニュージーランドでは秋から冬にかけてですね。まずルビーレッドを収穫し、その後にサンゴールドの時期がきて、最後がグリーンです」とショーンさん。
その多忙な収穫期には70人を超える従業員が作業しており、サモアから働きにきた人を中心に、いまは日本人も2人が従事しているとのことだ。
生産しているキウイについて、ショーンさんは「ニュージーランドのグローワーにとって、最も大切なものが品質です。とにもかくにもクオリティ、クオリティ、クオリティ。Quality is everythingですね」と力を込めて語る。
ベイ・オブ・プレンティ地方は、冬は寒く、春は適度な量の雨が降り、かつ太陽の光もふんだんに注ぐ。これがキウイ作りにおいて理想的な天候であるうえ、火山灰質の土壌も高品質のキウイ栽培に適しているという。
カーナカンさんの果樹園ではもともとグリーンのみを栽培しており、2010年にグリーンの苗木に接ぎ木を行ってサンゴールドの栽培も開始。さらに、今はルビーレッドも手掛けている。
息子のロッキーさんは道路や橋の建設に関わるエンジニアを12年間務めていたが、果樹園の仕事を継ぎたいとの思いで家に戻ってきた。その際、新たな果樹園を購入したところ、そこではすでにサンゴールドが生育されていたため、上述のように現在はサンゴールドの栽培面積が最大となっているのだという。
種類は3つあるものの、生産するうえでの栽培方法や難易度はどれもそれほど変わらないとショーンさんはいう。基本の苗木からサンゴールド用、ルビーレッド用の接ぎ木を行うことでそれぞれの品種に育っていくということだ。
ちなみに、サンゴールドとルビーレッドは、ゼスプリが独自に開発した品種で、ゼスプリと契約を結んだグローワーが栽培を行っている。カーナカンさんの果樹園には小規模ながらパックハウスも併設されており、収穫されたキウイは選果・梱包を経て、その後ゼスプリの管理のもと各市場に届けられている。
参考までに、ロッキーさん自身は3種の中でもとりわけグリーンが好き。ただ2歳のお嬢さんは「圧倒的にルビーレッドが好き」とのこと。ニュージーランドでは子どもや若い世代が、甘く、酸味の少ないルビーレッドが好きで、その味の特徴から“しあわせな気分”にしてくれるということで「ハッピーキウイ」と呼ばれているそうだ。
最後に、グローワーとして最も大切な要素は何かと聞くと、ショーンさんもロッキーさんも「コンシューマー(消費者)です」と口をそろえて答えた。「クオリティ、クオリティ、クオリティ」と品質を何より第一に考えるのも、すべては消費者に、おいしく、栄養価の高いキウイを食べてほしいとの想いからだと、ジョーさんも交えて3人は強調した。
話を聞いたあと、ロッキーさんにキウイ畑を案内していただいた。この畑では、1㎡あたり1シーズンで最大70個のキウイを収穫できるという。
「キウイ本来の質の高い栄養が全体に行き渡り、逃げてしまわないよう、果樹には年3回切れ目を入れます。1回目のカットによってキウイのサイズが大きくなり、最後の3回目のカットでみずみずしさとおいしさがよりしっかり詰まるようになります。春には土にどれだけの栄養素が含まれているかチェックを行い、栄養が足りない場合はよりヘルシーな土に育てていきます。また、葉にミネラル成分が行き渡っているかもチェックし、これも足りない場合は補給していきます」(ロッキーさん)
果樹園を去る直前、キウイのおすすめの食べ方を尋ねると、「おすすめというわけでもないですが、うちではスライスして食べることはあまりしません。私は半分に切ってスプーンですくって食べます。ルビーレッドはフードドライヤーで乾燥させ、スライスしてお菓子代わりのキウイチップスとして食べるのが娘は大好きですね」と笑顔で教えてくれた。
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ところで、冒頭に掲げた「キウイってどの国のフルーツ?」という問いへの答えは、実は意外と難しい。
キウイを栽培しているのはもちろんニュージーランドに限らない。日本でも、ヨーロッパでも育てられている。そして、これも意外という反応が返ってきそうだけれど、キウイのもともとの原産は実は中国だ。日本にも自生するマタタビ科の植物・サルナシの近縁種を、1904年、ニュージーランドの高校の校長だったイザベル・フレイザーが母国に持ち帰り、品種改良に成功してキウイフルーツの原型がこの世に生まれた。いまをさかのぼること120年前の話である。続いて1928年、およそ100年前にグリーンの品種(ヘイワード)が誕生。さらに1937年には本格的な商用栽培が始まっている。
それがいまやニュージーランドを代表する農産品として飛躍的に成長し、「キウイといえばニュージーランド」というイメージが定着した。現在では、おいしさはもちろんその栄養素から健康価値の高さも注目されるようになったわけだが、ここまでの大進歩は生産者の想いと努力だけでなく、ニュージーランドの自然と風土、そしてさまざまな形でキウイフルーツに関わるニュージーランドの人たちが、時間をかけてつくり上げてきたものだ。
第2回では生産されたキウイが出荷されるまで、そして新たな品種が開発されるまでのプロセスにフォーカスし、キウイを取り巻くニュージーランドの生の姿と“甘さ”の秘密に迫る。









