2018年の8月末時点で加入者数100万人に達した個人型確定拠出年金iDeCo。税効果に加えて、以前から加入している他の私的年金との併用も可能であることから、公的年金の上乗せ制度として身近に始められる資産形成です。第6回ではiDeCoのもう一つの特徴でもある「ポータビリティ(移換制度)」、そして「60歳以降の受給方法」について詳しく解説していきます。

iDeCoのポータビリティ(移換制度)

「ポータビリティ」という言葉は、元々「携帯できること。持ち運びができること」を意味します。iDeCoのポータビリティとは、転職・退職などをした際でも、今まで運用してきた資産を別の企業や金融機関にそのまま移換できるということです。

しかし、ここで注意しなくてはいけないのが、移換手続きの期限です。厳密にいうと期限はないのですが、6カ月以内に行わないと「自動移換」となります。「自動移換」とは、つまり国民年金基金連合会に自動で移換されるということです。その場合、資産の運用ができず、管理手数料なども自分で負担することになります。またこの期間中は老齢給付金の受給要件となる通算加入者等の期間(10年間)にも含まれませんので、受給開始が遅くなることがあります。

このような事態に陥らないためにも、iDeCoには移換制度があることを認識しておかなければなりません。以下で条件ごとに見ていきましょう。

(1)企業型確定拠出年金DCと確定給付企業型年金DBが導入されていない場合
・加入者としてiDeCoを継続することが可能(新規含む)
・資格喪失届を提出し、運用指図者になることが可能

(2)確定給付企業型年金DBが導入されている場合
・加入者としてiDeCoを継続することが可能(新規含む)
・資格喪失届を提出し、運用指図者になることが可能
・DBがiDeCo(新規含む)の資産受け入れ可能という会社規定の場合、移換が可能
※転職先企業に要確認

(3)企業型確定拠出年金DCが導入されている場合
・転職先企業が実施する企業型DCへの移換が可能
・資格喪失届を提出し、運用指図者になることが可能
・企業型DC規約でiDeCoへの加入を認めている場合は、移換せずにiDeCoを継続することも可能

(4)公務員
・加入者としてiDeCoを継続することが可能(新規含む)
・資格喪失届を提出し、運用指図者になることが可能

(5)国民年金の第3号被保険者(専業主婦(夫)等)
・加入者としてiDeCoを継続することが可能(新規含む)
・資格喪失届を提出し、運用指図者になることが可能

(6)国民年金の第1号被保険者(自営業者等)
・加入者としてiDeCoを継続することが可能(新規含む)
・資格喪失届を提出し、運用指図者になることが可能

iDeCo60歳以降の受け取り方法

iDeCoは60歳以降(10年間の積み立ては必要)に受け取ることができます。また積み立てはできなくなりますが、運用することは70歳まで継続可能です(企業によっては65歳まで積み立て可能)。

60歳退職時の給付方法については3つの選択肢があります。

・年金形式(分割)(5年間~20年間)
・一時金形式(一括)(70歳まで)
・年金形式+一時金形式

年金形式で受給する場合は「公的年金等控除」を受けることができます。受給した年金は他の年金と合算して雑所得となり、その後に公的年金控除額が差し引かれて総合課税に組み込まれます。

公的年金控除
・65歳未満の場合 年金収入額が70万円/年 までは非課税
・65歳以上の場合 年金収入額が120万円/年 までは非課税

一時金として受給する場合は「退職所得控除」が受けられます。

退職所得控除
積立期間が20年以下の場合 40万円×積立期間(80万円に満たない場合は80万円)
積立期間が20年超の場合 800万円+70万円(積立期間-20年)

留意点として、iDeCoとは別に退職金を企業から受け取る際は、iDeCoの一時金と退職金を合算させてから計算を行います。

例えば企業からの退職金が2,000万円、iDeCoの一時金が1,000万円の場合、3,000万円(2,000万円+1,000万円)から「勤務・積立期間が長い方で算出した退職所得控除」を差し引いてから課税されます。

iDeCoと退職金を同時期に受け取る場合

勤続年数35年 / 退職金2,000万円
iDeCo積立期間30年 一時金1,000万円
(2,000万円+1,000万円)-800万円+70万円×(35年-20年)
=1,150万円÷2=575万円(退職所得)

退職金の時期が重なってしまうと、iDeCoと合わせて1度しか退職所得控除が使えません。iDeCoは60歳で必ず受け取らなくてはいけないという決まりはなく、70歳までの期間であればいつでも受給することができますので、退職金とiDeCoの受け取るタイミングをずらして課税所得を調整することが可能です。

iDeCoと退職金を別のタイミングで受け取る場合

iDeCoと退職金のタイミングをずらして受け取る場合にはルールがあります。まずiDeCoを一時金で受け取った年より以前に(14年以内)退職金を受け取った場合は、iDeCoの積立期間と重複している期間の年数は計算上の積立期間に算入できません。すなわち、計算上は退職金を受け取った後の積立期間を当てはめることになります。

4年ずらして64歳時に一時金として受け取った場合
勤続年数35年(25歳~60歳) 退職金2,000万円(1)
iDeCo積立期間30年+4年(30歳~64歳) 一時金1,000万円(2)

(60歳退職金)2,000万円-800万円+70万円×(35年-20年)
=150万円÷2=75万円(退職所得)
(64歳iDeCo一時金)1,000万円-40万円×4年=840万円÷2=420万円(退職所得)

60歳から年金として4年間、64歳時に一括で受け取った場合
勤続年数35年(25歳~60歳) 退職金2,000万円(1)
iDeCo積立期間30年 4年間(63歳までは年金受け取り) 一時金(64歳受け取り)

(60歳退職金)2,000万円-800万円+70万円×(35年-20年)
=150万円÷2=75万円(退職所得)
63歳まで年金受け取り 70万円(2)×4-(70万円×4年間)=0円(4年間非課税)
64歳で一括受け取り720万円(3)-80万円=640万円÷2=320万円(退職所得)

また、iDeCoには「5年経過措置」があり、iDeCoの受給から5年経過して退職金を受け取れば、どちらも退職所得控除を受けることができます。

同時期受給、タイミングをずらしての一括受給や年金と一括受給の組み合わせなど、受給方法により税金に差が出ます。退職金やiDeCoの一時金は金額が大きいので、受給方法は吟味したほうが良いでしょう。

昨今は転職者が多いため、ポータビリティは有益な制度です。会社員や公務員の方にとっては、企業年金と退職金の受け取りのバランスは悩みどころですが、受給するタイミングを見計らいながら、ご自身の生活環境なども考慮して選択しましょう。次回はiDeCoはどの金融機関で始めるのが良いのか、取り扱い可能な金融機関などをご紹介していきます。