地方出身者が地元の料理を食べたくなったら駆け込める、同郷の人との触れ合いに飢えたときに癒やしてくれる、そんな東京にある"地方のお店"を紹介していくこの企画。コロナ禍の昨今、せめておいしい地方のものを食べて各地を旅行した気持ちになりたい! という他県のあなたも必見です。

今回のテーマは、佐賀県です。九州の北部、東は福岡県、西は長崎県に挟まれた県です。

焼き物で有名な佐賀県は、海鮮が豊富!

  • ビジュアルにびっくりする品が……!

    珍しい魚を使った料理も提供

佐賀県というと、干潟で有名な有明海や、有田焼、唐津焼、伊万里焼など、あまり陶芸に詳しくない人でも聞いたことのある焼き物の里がいくつもあります。また、Jリーグチーム「サガン鳥栖」の本拠地、鳥栖市があるのも佐賀県。8、17代内閣総理大臣で早稲田大学創設者、大隈重信氏や、『サザエさん』の長谷川町子さんも佐賀県出身ですね。

県東の神埼郡には、弥生時代の遺跡で日本最大の吉野ヶ里遺跡があります。農産品は、タマネギ、レンコン、アスパラガスなどの生産が盛んで、ハウスみかんと板のり収穫量は日本一という具合です。そんな佐賀県にはどんなグルメがあるのでしょうか。

  • のれんの「佐賀」の字が渋い外観

今回は渋谷の「佐賀雑穀」さんにお伺いしました。渋谷駅から徒歩で7分ほど。バスケットボールストリートの奥、東急ハンズ近くにあるお店さんです。

  • 大きなそば打ち鉢が飾られている内観

和風の落ち着いた雰囲気の店内で、カウンター席とテーブル席、座敷席を合わせて30席ほどがあります。座敷は個室としても使えるので、大人数での宴会での利用も可能です。

珍しい魚「わらすぼ」を使った料理とは?

まずいただいたのは「海茸の麹漬」(680円)です。海茸という二枚貝で、有明海でとれる食材。現地では刺身や一夜干しなどでも食べられてきた珍味だそうです。しかし、2007年に個体数が減ったことから休漁措置が実施され、2017年に試験操業、2018年には市場にも流通するまでに回復しましたが、まだまだその量は限定的で、多くは輸入に頼っているのが現状なんだとか。

  • 甘い香りが特徴の「海茸の麹漬」

色が似ているのでわかりにくいですが、やや透明感がある食材が海茸を刻んだものです。キノコかクラゲのようなコリコリとした食感をしていて、酒粕のクリーミーな甘みを口の中で転がしながら貝の旨味を楽しみます。ご飯に乗せて食べるという人も多いそうですが、今回はそのままいただきます。じっくりと海茸と酒粕のコンビネーションを味わいつくしたところに日本酒を流しこむと、素晴らしい相性ですね。酒飲みにはたまりません!

次に登場したのは「わらすぼ」(870円)です。ハゼの仲間で、日本では有明海にしか生息しない珍しい魚だそうです。目が退化しており、ウナギのようなヒョロっとしたフォルムと、剥き出しになった歯が印象的で、その姿から「エイリアンのようだ」という声も。今回は干物をいただきました。

  • 頭の大きな「わらすぼ」

干物にする際に内臓を抜くのですが、そのせいもあって、頭が強調されていて独特のビジュアルですね。

  • つなぎ合わせるとこんな感じ

長いものを切って盛り付けていますが、全長は15センチほどでしょうか。

  • ご尊顔

かなりしっかり干物になっているのでちょっと硬め。根気よくすり潰すようにして味わっていきます。小魚の干物によく感じる苦味はあまりなく、上品な旨味がじわーっと口の中に広がっていきます。マヨネーズをつけていただいてもよし。頭も食べられるそうなのでバリボリいただきましょう。

ちなみにヒレ酒の要領で酒に漬けて楽しむ方法もあるそうで、それもさぞおいしいでしょうね。チャンスがあれば試してみたい!

次いでお願いしたのは「魚ロッケ」(450円)です。県の北西にある焼き物の里、唐津が発祥とされる一品です。魚の練り物に衣をつけて揚げた料理で、現地では子どものおやつとしても親しまれているんだそうです。コロッケの魚版ということですね。

  • カラッと揚がった「魚ロッケ」

アツアツのサクサクです。西日本の港町ではよく見られるタイプの料理ですが、野菜が一緒に練りこんであるためほのかに甘みがあります。中のすり身も詰まり過ぎておらず、ほどよいフワフワ感です。衣のザクザク感との相性は抜群。揚げ物というとついソースなどかけてしまいがちですが、そのままの方が濃縮された魚の味がダイレクトに味わえるというものです。

筑後川の味「えつの稚魚」

最後に登場したのは「えつの稚魚の天ぷら」(980円)です。こちらも日本では有明海とそこに流れ込む筑後川にしかいない魚で、"幻の魚"と称されています。

姿揚げになっているので全身余さずにいただけます。こちらレギュラーメニューにないものだそうですが、お客さんのリクエストがあったそうで偶然いただくことができました。漁期は夏までとのこと。タイミングがよければ出合えるかもしれませんね。

  • 雪のような衣が特徴の「えつの稚魚のてんぷら」

うっすらついた衣が美しい、なんともおいしそうな姿ですね。

食べると身がふっくらしていて、クセのない淡泊で軽い味わい。衣と塩味がエツの味を邪魔することなく演出してくれます。骨が気になることもないので食べやすく、希少な魚だというのに次々と手が伸びてしまいます。

そしてここで「佐賀雑穀」さん自家製の柚子胡椒が登場しました。佐賀の青唐辛子を使ったもので塩気は抑えめで、柚子の香りが華やかに広がり、エツの繊細な味を華やかに演出してくれます。

嬉野市発の「東一」など、地元のお酒が並ぶ

  • 左から「東一」、「能古見」

実は、日本でもっとも古い稲作の痕跡が発見されているのが佐賀県なんだそうです。米作りの歴史のある佐賀県の日本酒が「佐賀雑穀」さんではずらりとそろいます。

今回は、佐賀県の南西部に位置する嬉野市の蔵元「五町田酒造」さんの「東一(あずまいち)」(1,180円=純米吟醸)をすすめていただきました。東洋一になれるようにという想いから名付けられ、自家栽培の山田錦を使ったこだわり抜かれたお酒です。華やかスッキリした味わいながらお米の味がやさしく膨らむ、絶妙なバランスのお酒でした。

創業58年目、地元出身者が開いたのが始まり

「佐賀雑穀」さんは創業58年目。開業当初のご店主が佐賀県出身だったことから始まったとか。元々は同じ渋谷の百軒店にあったお店が、「雑穀」というお店と一緒になって現在の場所になったそうです。元従業員だった市川朝子さんがお店を継いで、現在は3代目として頑張っていらっしゃいます。

メニューの中では佐賀のおつまみに手打ちそば、五穀米が目立つお店ですが、おいしく体に良いものを味わってほしいという気持ちから、できるだけナチュラルに作られた食材を集めて提供しているとのことでした。そんなやさしさの詰まった料理と佐賀の地酒をいただきながら「佐賀雑穀」さんでゆっつらゆーっと(ゆっくり)過ごしましょう。


<お店情報> 「佐賀雑穀」 住所:東京都渋谷区宇田川町31-4 篠田ビル 7F 営業時間:[月~金]17:00~24:00、[土曜・祝日]17:00~23:00 (※現在はまん延防止等重点措置の実施に伴い時短営業中) 定休日:日曜日、祝日(不定休)

取材・文=古屋敦史、構成=小山田滝音(ブラインドファスト)