地方出身者が地元の料理を食べたくなったら駆け込める、同郷の人との触れ合いに飢えたときに癒やしてくれる、そんな東京にある"地方のお店"を紹介していくこの企画。コロナ禍の昨今、せめておいしい地方のものを食べて各地を旅行した気持ちになりたい! という他県のあなたも必見です。

今回のテーマは静岡県です。東を神奈川県、西を愛知県に挟まれた太平洋側の県です。北部の山梨との境には富士山がありますね。

駿河湾などに面し、黒はんぺんなどやはり海に強し!

  • 黒いおでんに黒いはんぺん?

    黒いおでんに黒いはんぺん?

かなりざっくりではありますが、「お茶」「みかん」「サッカー」のイメージが強い静岡。実際、お茶の生産量は日本一で、温州みかんの収穫量・出荷量も日本一。サッカーについては、リーガー、代表選手の輩出人数が多く、サッカースポーツ少年団発祥の地でもあるため、イメージとはそんなにかけ離れてはいない気がします。

県の東側には熱海、箱根と多くの温泉地があり、源泉数は全国3位、温泉利用宿泊施設数は全国1位という温泉県でもあります。一方の西側ですが、ウナギで有名な浜名湖のある浜松市はギョウザが全国的に知られ、楽器やバイクで有名なヤマハが本社を置く場所でもあります。

歴史的には何といっても江戸幕府初代将軍・徳川家康でしょう。また、2015年に世界遺産になった「韮山反射炉」は、国内で現存する数少ない反射炉があった場所です。さて、そんな静岡県にはどんなグルメがあるのでしょうか。

  • この看板が目印!

今回は、大井町にある「沼津魚市ひなの家」にお邪魔しました。大井町駅のJR中央東口から徒歩で1分ほどの地下にあるお店さんです。

  • 席の間がゆったりした店内

昨年リニューアルしたばかりの店内はとても清潔感があり、落ち着いた雰囲気。席数はカウンター席とテーブル席を合わせて30席ほどで、厨房からほぼすべての席が見渡せる造りとなっており、ご店主さんの気配りが見て取れるようです。

ジャガイモも実は名産

最初にいただいたのは、「焼津 黒はんぺん焼き」(540円)です。静岡県中部にある焼津市の名産品で、静岡県全域で食べられるメジャーな食材です。アジやイワシなどの赤身魚をすりおろすことから灰色っぽい色をしています。製法的にはかまぼこに近いもののようです。静岡県民の方にとって、はんぺんはこの色がスタンダードらしく、白いはんぺんを初めて見る際はみんな驚くんだとか。

  • 香ばしい焼き目の「焼津 黒はんぺん焼き」

一口味わってみましたが、白いはんぺんと比べると密度が高く、しっかりとした食感です。アジのつみれのような、魚の旨味がぎゅっと詰まったような味わい。表面を焼いて香ばしい風味が出たところに、ネギと生姜を乗せて醤油をかけると、それだけでしみじみとおいしく感じられます。ちびちびと日本酒でいただくと「最高!」と思えるやつですね。

次にお願いしたのは、「三島コロッケ」(650円)です。静岡県東部の三島市でとれるジャガイモ「三島馬鈴薯(メークイン)」100%で作られています。B-1グランプリに"出場"したことから知られるようになり、知名度の高いご当地グルメとして親しまれています。

  • まん丸の形が印象的な「三島コロッケ」

一般的にコロッケというと、ホクホクの男爵芋が使われているイメージが強いかと思いますが、しっとりしたメークインを使ったコロッケとはどんな感じなんでしょうか。

実際に食べてみるとその違いは明確。サクサクの衣の中から出てきた中身は、まるでクリームのように溢れ出ます。特有のほんのりとした甘味があり、ソースをかけると味のコントラストがはっきりして、その甘さがより感じられる気がします。ただし揚げたては半端じゃない熱さなので注意が必要。ホフホフいいながらおいしくいただきました。

地元のソウルフード「静岡おでん」!

続いて登場したのは「静岡おでん」(830円)です。牛すじや鶏ガラでとった出汁を濃口醤油で味を調えた黒いつゆが特徴で「黒おでん」や「しぞーかおでん」とも呼ばれます。

戦後の食糧事情が乏しかった時期に、それまで捨てていた牛すじなどを活用したことが起源とされています。そこに「ダシ粉」と呼ばれるイワシの削り節と、青海苔をかけるのがお決まりのスタイルです。

  • 黒いおでん汁とダシ粉が特徴の「静岡おでん」

具は、黒はんぺん、卵、こんにゃく、大根、ちくわぶなどが使われており、ここにもやはり黒はんぺんの姿が。「静岡おでんといえば私ですよね? 」といわんばかりの風格です(笑)。

一方、ちくわぶですが関東ではお馴染みで、地域的に際どいラインですが"お隣県"ということでラインナップに。ハイブリッドですね!

  • 大根は中までシミシミ。

食べてみると、つゆの濃い色に反して味はあっさりとしています。おでんは大根や卵が持て囃されがちですが、筆者は断然こんにゃく派。ブリプリの歯ごたえのこんにゃくにガッとかぶりつき、噛めば噛むほどしみ出てくるつゆの味を噛み締めるのがたまりません。そこに加えて独特のだし粉と青海苔の風味が広がります。おでんっていろんな具が楽しめて楽しいですよね!

さらに、「富士宮焼きそば」(720円=並)をいただきました! モチモチとした麺が特徴の富士宮のB級グルメ。一説には、戦中に中国で食べたビーフンをイメージして作られたそうで、こちらにもだし粉がかかっています。

  • ステンレスのお皿が懐かしさを感じさせる「富士宮焼きそば」

やや酸味のあるソースで味付けされていますが、その香りと共にだし粉の香ばしさも漂います。平たく弾力のある麺とシャキシャキとしたキャベツとモヤシが良い感じに食感のアクセントになっています。麺の歯ごたえがあるからか、そんなに量を食べたわけでもないのにお腹はいっぱいに。ごちそうさまでした。

富士山や南アルプスなどの水を使ったお酒が並ぶ

  • 左から「臥龍梅」、「磯自慢」、「日本刀(かたな)」

「ひなの家」さんは、全国の地酒を多く取りそろえていますが、静岡の地酒は3種類。その中から今回は焼津の磯自慢酒造「磯自慢 特別本醸造 生原酒」(770円)をオススメいただきました。

磯自慢酒造さんといえば、2008年開催の北海道洞爺湖サミットで「磯自慢 純米大吟醸 中取り35」が乾杯酒となったことでも知られる蔵元さんです。生酒のフレッシュさと、甘さとしっかりしたボリューム感のある味わいがありながら、後味がしつこくなくスッキリしているのが特徴です。

母の出身地・沼津が開業のきっかけに

  • シャイなご店主に代わって撮影に応じてくれたマネージャーの田辺ちはるさん

ひなの家さんは創業から今年で15年。オーナー小川康さんのお母さまの出身が静岡県沼津で、親戚が漁港で働いていたことから魚と静岡県の料理を扱う居酒屋としてスタートしました。店名は、先代社長でもあるお母さまが日本語にも響きが似ている「かわいい女の子」という意味のタヒチ語「ヒナノ」から名付けたんだとか。

平日は毎日ランチから夜まで通し営業をし、地元客が足しげく通います。地酒や焼酎を種類豊富にそろえていて、好みと料理に合わせて楽しむことができます。今日は大井町「ひなの家」さんで少し早い時間から飲むら?


<お店情報>
「沼津魚市ひなの家」
住所:東京都品川区東大井5-17-2 野村ビルB1
[平日]11:30~L.O.15:00、15:00~23:00(時短要請に従って営業)
[土曜・祝日]16:00~23:00(L.O.22:30)
定休日:日曜日

取材・文=古屋敦史、構成=小山田滝音(ブラインドファスト)