地方出身者が地元の料理を食べたくなったら駆け込める、同郷の人との触れ合いに飢えたときに癒してくれる、そんな東京にある"地方のお店"を紹介していくこの企画。コロナ禍の昨今、せめておいしい地方の物を食べて各地を旅行した気持ちになりたい! という他県のあなたも必見です。

今回のテーマは熊本県。九州の左側、北は福岡、南は鹿児島に挟まれた真ん中に位置していますね。

  • 豪快に焼き上げるおいしい料理が人気

熊本県で有名なものといえば?

熊本県で何と言っても有名なのは阿蘇山と熊本城。人物では、歴史的には加藤清正公、最近では『ONE PEACE』の作者・尾田栄一郎氏が熊本出身だそうですよ。あ、あとくまモンも忘れちゃいけませんな。

特産物で言うと、トマトとスイカ、畳に使うい草の生産が全国一位。また熊本の料理と言うと「馬刺し」を思い浮かべる人も多いかと思いますが、馬肉の生産日本一なのも熊本です。

  • 赤瓦が特徴的な外観

さて今回お邪魔したのは白金高輪にある「鳥亭」さん。白金高輪駅から徒歩5分ほど、明治通り沿いの四の橋近くにあるお店です。

  • 角が丸い椅子や机がやさしい印象の店内

木を多く使った、落ち着いた温かみのある店内。席数は40席と広々としています。大きいテーブルもあるので少し人数がいてもばっちりですね。

熊本の定番料理を堪能

最初は「からしれんこん」(600円)からスタート。熊本名物の代名詞とも言える「からしれんこん」は、江戸時代に病弱だった藩主・細川忠利公に嫌いなレンコンを食べさせるために考案された健康食で、地元熊本では正月のおせち料理として登場するそうです。

  • 黄色が鮮やかな「からしれんこん」

かじりつくと、レンコンのシャクシャクした歯ごたえと、ピリリとしたからしの辛みを楽しむことができます。レンコンの中に詰められているのは、和からしと白味噌を混ぜた物で、からしの鼻に抜ける辛さに加えて、味噌のまろやかな風味も楽しめます。

筆者は、100%からしと思っていて、なんとなく食わず嫌いだったんですが、食べてみると想像していたよりもマイルド。じっくりと味わっているとレンコンの甘さも感じられておいしいじゃありませんか。お酒との相性もなかなか。細川忠利公はワインを製造させていたという話もあるので、これをつまみに一杯やっていたことでしょう。

お次に登場したのは「馬レバーの刺身」(1,800円)。「鳥亭」さんではよくあるバラ・赤身・タテガミなどのお肉の部分に加え、タンやレバーなどの部位も取り扱っています。レバ刺しが食べられなくなって久しい昨今、物珍しさもあり、今回は「馬レバー」をいただくことにしました。

  • プリプリとした「馬レバーの刺身」

ゴマ油と熊本の甘い醤油を合わせたタレにつけていただきます。牛のレバーとは、まず歯応えが違います。弾力が強く、噛むとブツっと切れるような食感でありますが、硬いわけではなく簡単にかみ切ることができます。くどさや臭みは少なく、それでいて上品なコクを楽しむことができますよ。

「レバーは血なまぐさくて苦手」と言う人は馬のレバーなら食べられるという方もいらっしゃるんじゃないでしょうか。うれしい出合いです。ただ希少な部位なだけあり、そもそも扱っているお店が少なく、多少お値段がするのも事実……。でもレバー刺しが食べられなくなってしまい悲しい……という諸兄は、是非一度馬レバーを食べてみてほしいです。うまうまです。冗談でなく。

阿蘇では唐揚げが人気!?

次は「塩鶏唐揚げ」(700円=6ピース)をお願いしました。言わずと知れたみんな大好き唐揚げ。「鳥亭」さんでも大人気のメニューで、11種類の様々な味付けを楽しむことができます。なんでも熊本の東側にある阿蘇では唐揚げ屋さんが多く存在し、テイクアウトで持ち帰ってご家庭で食べるという文化があるんだとか。

  • 白い衣の「塩唐揚げ」

今回は、その中で「和風塩」味をいただきました。阿蘇出身の店主のおうちの近くにあった唐揚げ屋さんの思い出の味を再現しているそうです。筆者がイメージする唐揚げって醤油とニンニク、ショウガに漬け込んだこんがりキツネ色のものなんですが、こちらの唐揚げは塩だけで味付けをしているんだとか。やや厚めの衣で、全体に色の薄いのが特徴です。

衣が厚い分、食べるとサクサクとした食感。そして程よい塩味。鶏肉も肉汁のあふれるジューシーさがグッド! なるほど。一口に唐揚げと言っても味付けや衣などで地域差がありそうですな。奥が深い!!

ちなみに取材をした日は緊急事態宣言下にあり、「鳥亭」さんでは時短営業に加え、テイクアウトを実施していましたが、唐揚げのテイクアウトが人気なようでした。白金周辺で塩唐揚げブームが静かに盛り上がりつつあるのかも?

最後に「モモ肉の炭火コロ焼き」(1,300円=180グラム)を注文。熟成させた熊本産の親鳥のモモ肉を鶏油(チーユ)と炭火で焼き上げた一品です。

  • 客席からも見える調理場の様子

鶏油をかけることで火が上がり、その高火力で焼くことでお肉がジューシーにおいしく仕上がるそう。熊本でもおなじみの肉料理です。

炭で燻されたことでつく香りと色が特徴的。芳ばしく無茶苦茶食欲をそそります。親鳥を使用しているので歯応えがあり、脂の乗り具合も絶妙。噛みしめるごとにとめどなく旨味があふれてきます。そのままいただいてお酒を一杯、ゆず胡椒で違う味を楽しんだついでにもう一杯、キャベツをかじって箸休めしながらもう一杯。味なのか香りなのか、とにかくお酒をおいしくしてくれる素敵な料理でした。

お酒の話

  • 左から「鳥飼」、「白岳 しろ」

九州と言えば焼酎という印象を持つ方は多いと思いますが、熊本では米焼酎が有名です。熊本の南にある人吉・球磨は九州山系から流れ込む豊かな水に恵まれた米どころだそうで、そのお米とお水を使った焼酎は「球磨焼酎」というブランドとして売り出されています。

「鳥亭」さんでは、その代表格とも言える、鳥飼酒造さんの「鳥飼」(700円)と高橋酒造さんの「白岳 しろ」(650円)をいただくことができます。お米のやさしいまろやかな甘さと、旨味が特徴。現地ではお湯割りがポピュラーということなのでお湯割りでいただきました。温度が上がることによって豊かな香りがより一層感じられ、うっとりとするような心地です。冬には最高ですね。

熊本からおいしい出会いを

  • 店主の猿渡さん

お店は創業22年。熊本の阿蘇出身の店主・猿渡久徳さんが、熊本の鶏と馬、こだわりの野菜を活かした料理を提供しています。熊本市内にあるお兄さんが経営されている同名のお店での経験を経て、東京に進出したそうです。

熊本出身の猿渡さんだからこその新鮮で珍しい食材とおいしい料理をいただくことができます。九州の焼酎ってなんとなく芋焼酎だと思ってたあなたも、唐揚げはニンニクとショウガが味の決め手と思っているあなたも、レバ刺し久しく食べてないなと思っているあなたも、きっと新しい出会いがここにある! そんな「鳥亭」さんにみんな来なっせ!


<店舗情報>
「鳥亭」
東京都港区白金3-1-2 白金GNビル 1F
営業時間:ランチ平日11:30~14:00 ディナー17:30~翌0:00
(取材時の2021年2月には緊急事態宣言下にあり、ディナーは20:00までの短縮営業中)
定休日:日曜日 不定休(GW・お盆期間・年末年始)

※価格は税別

取材・文=古屋敦史、構成=小山田滝音(ブラインドファスト)