いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。今回は、豊田の喫茶店「珈琲ギャラリー ベアトリーチェ」です。

  • 「珈琲ギャラリー ベアトリーチェ」(豊田)


ゴージャスな空間でいただく珈琲に癒される

立川から2つ先の豊田駅。北口を出て目の前の大通りを進むと、時間がゆったりと流れていることに気づきます。どこの駅前にもありそうなチェーン店、あるいは個人店舗もそこそこあるものの、雑然としてはいなくて落ち着いているのです。

だから、のんびり歩いているだけで、気持ちが安らいでいくことがわかります。地味なんだけれど、地味だからこそ、いい街だなぁと感じさせてくれるというか。

数分進んで「多摩平交番前」という信号を左折すると、左側には緑に包まれた公園。そのはす向かいに、コーヒーカップとポット、そして猫の装飾が目を引くお店が現れます。

よく見れば、二階の窓辺にはワニとホワイトタイガーもいるので、どことなくシュールではあります。しかし、不思議と引きつけられる“なにか”を感じさせるのも事実。そんな気になるお店が、今回お邪魔した「珈琲ギャラリー ベアトリーチェ」です。

  • 長い歴史を感じさせる看板

ドアを開けると左奥にカウンターがあり、中央から右側がテーブル席になっています。外観からイメージしていたほど広く感じなかったのは、席数が意外と多いせいかもしれません。

  • クラシックなムードの店内

それにしても驚かされるのは、徹底した内装です。ビロード張りのソファ、レースのカーテン、シャンデリア、白鳥の置物、絵画などなど、そこにあるすべてのものがゴージャスそのもの。

  • 天井にはシャンデリアが

こういう路線って、ともすると悪趣味になってしまいがちじゃないですか。中途半端だと、途端にバランスが崩れてしまうわけです。ところがこのお店の場合、ブレがないのです。

だから、ちっともゴージャスではない僕のような人間さえ、無理なく受け入れてくれるような居心地のよさがあるのです。気に入ったかも。

  • 白鳥の置物も存在感をアピール

メニューを見てみると、「珈琲ギャラリー」と銘打っているだけあってコーヒーがとても充実していることがわかります。しかも飲み物には、すべてアルカリイオン水が使われているのだとか。

必要以上にアピールしているわけではないものの、押さえるべきところはしっかり抑えているといった印象があり、好感が持てます。

そこで、「当店オリジナル、ソフトなブレンド」と書かれている「ベアトリーチェブレンド」をオーダーしてみました。オリジナルブレンドには、そのお店の個性がいちばん表れるものですからね。

当然のことながら、流れるBGMはクラシック。会話の邪魔にならない程度の音量なので、昔のクラシック喫茶やジャズ喫茶にあったような息苦しさはまったくありません。

  • 常連さんも多いようで

そんなせいもあってか、また多摩地区の住宅街の一角というロケーションも影響してか、お客さんの大半は常連さんのよう。さっきまでママさんと会話をしていた常連さんが出ていったかと思えば、ほどなく別の常連さんが来店。少し時間を変えて、その人と待ち合わせをしていたらしいもうひとりの常連さんも加わります。

やがてその人たちは、カウンターのママさんも交えて、なぜか高校野球の話を。「ちっともクラシックっぽくじゃないじゃん」とも思ったりもしたけれど、そんなローカル感がまたいい感じです。

さて、これまたゴージャスなカップに入って登場した「ベアトリーチェブレンド」は、たしかにソフトな味わい。決して主張が強いわけではありませんが、適度な深みもあり、とても飲みやすいブレンドでした。

  • カップも上品な「ベアトリーチェブレンド」

お会計の際にお聞きしてみたら、開店は1980年だそうです。つまり、今年で41年目ということになるんですね。長く続けていると、だんだんコンセプトがずれていったりするものですが、ここは守るべきところを守り通している印象があります。

ちなみに定期的にライブも行っているようで、帰宅後に調べてみたら、昔おつきあいのあったボサ・ノヴァ・シンガーの名前も発見。不思議なところで人脈がつながるものだなぁ。

豊田は用事でもない限り降りる機会のない駅ですが、「このお店だったら、あえて電車で通ってでも常連になりたい気がするな」と感じたりもしたのでした。


●珈琲ギャラリー ベアトリーチェ
住所:東京都日野市多摩平1-6-4
営業時間:10:00~20:00
定休日:日曜日