地方出身者が地元の料理を食べたくなったら駆け込める、同郷の人との触れ合いに飢えたときに癒してくれる、そんな東京にある"地方のお店"を紹介していくこの企画。コロナ禍の昨今、せめておいしい地方の物を食べて各地を旅行した気持ちになりたい! という他県のあなたも必見です。

今回のテーマは愛媛県。四国の北西に位置し、東は香川、南は高知が隣接してますね。

  • 愛媛では専門店があるほど有名な、巻き焼された"ある特産物"とは……?

愛媛と聞いて思い浮かぶものといえば?

"蛇口を開くとみかんジュースが出る"なんて冗談で言われるほど、みかんの産地というイメージの強い愛媛ですが、それ以外の柑橘類も盛んに栽培されております。いよかん、ポンカン、晩柑(ばんかん)の他に、あまり聞きなれないものも含めるとかなりの種類が存在し、軒並み日本一の生産数を誇るそう。あとキウイの生産も日本一ですよ。

魚介では太刀魚(タチウオ)と車海老の水揚げ、真鯛としまあじの養殖が、それぞれ日本一とのこと。産業的には、今治のタオルは全国的にも有名ですし、日本三古湯のひとつ道後温泉があるのも愛媛県ですね。

そんな魅力いっぱいの愛媛県の中で、今回ご紹介する店のご店主の出身は、県の西南、高知との県境にある宇和島という地域。宇和島城の有する城下町であり、漁港の数は全国有数なんだそうです。「世界の中心で愛をさけぶ」で知られる小説家の片山恭一さんの出身地でもあり、作品内でも宇和島の風景が登場するので、見たことがある人も多いかもしれません。

  • "宇和島"が強調された看板が目立つ「がいや」の外観

お邪魔したのは、阿佐ヶ谷にある「がいや」さん。阿佐ヶ谷駅南口のロータリーを右に抜けて、飲食店の並ぶ通りを進むとあるお店です。

  • こじんまりと落ち着く作りのカウンター

気さくに入りやすい外観で、宇和島をはじめ愛媛の魚介でお酒が飲める居酒屋となっています。席数はカウンターとテーブル、奥の座敷を合わせて30席ほどです。

地方色豊かな宇和島の郷土料理たち

最初にいただくのは「ふくめん」(580円)。宇和島の郷土料理で、お祝いの席で食べることの多い料理なんだそうです。

  • みかんがなんとも宇和島らしい「ふくめん」

ビジュアルはこんな感じ。紅白のでんぶとネギ、みかんの皮を刻んだものをきれいに区分けして盛り付けられています。なんだか見た目にもおめでたい料理ですね。

  • 具材の下にはこんにゃくが

具材の下には、糸こんにゃくを細く刻んで醤油や砂糖と炒めたものが敷き詰められています。食べるときはこれをガガっとかき混ぜていただくそう。

  • しっかり混ざるようにかき混ぜます

混ぜてみると、せっかくのきれいな盛り付けが……(笑)ちょっともったいない気がしてしまいました。ちなみにそぼろは白より赤の方がやや甘く、みかんの皮は乾燥しておらず、しっとりとした状態。

口に入れると、甘塩っぱいこんにゃくの味のあとに、そぼろのほんのりとした甘さ、咀嚼しているとネギの食感と香りが広がります。そして最後に控えめなみかんの味が爽やかに抜けていく。

そこまで濃い味付けの料理ではない素朴な印象ですが、味のレイヤーが多くわりと複雑。口の中で移り変わっていく料理の味を感じつつ、堪能しているとあっと言う間にお皿が空になりました。

お次にいただくのは「じゃこ天」(580円)です。こちらも愛媛の郷土料理で、日常的に非常に高い頻度で食されるものだといいます。「雑魚」(小魚の総称)、特にハランボ(ホタルジャコ)のすり身を成形して揚げたものだそうです。

  • 材料にこだわった「じゃこ天」

じゃこ天は、澱粉と塩、油、甘酒以外のほかの素材を使用しておらず、魚本来の味を楽しむことができます。

  • おいしいとこがギュッと詰まってます

断面はこんな感じ。かじりつくと弾力のある食感で、ずっしりと魚の密度を感じることができます。塩でしっかり味がついているので、醤油などに付けずそのままでOK。芳ばしく歯応えのあるすり身の味をしみじみ噛み締めます。添えられている大根おろしと一緒にさっぱりいただくのもまた良しですな。

よくある串物とはちょっと違う宇和島の名物

続いて登場したのは「太刀魚の巻き焼き」(780円)。名前のとおり長細い太刀のような魚です。それを3枚におろして竹の棒に巻き付けて焼いた郷土料理で、愛媛では専門店があるほど一般的に食べられる料理なんだそう。

  • タレの甘い香りが食欲を誘う「太刀魚の巻き焼き」

さっそくかぶりつきます。関西で食べた鰻の蒲焼のようなカリっとしていて、甘塩っぱさが感じられるんですが、食べ進めると干物を食べているような旨味の凝縮感。噛み締めるほどにじわーっと味が広がってきます。

この二段構え。旨味on旨味。有無を言わせない説得力! 魚の調理法として至高の域に近いのでは……! そしてお酒が美味しい。今日も幸せです。ちなみに、現地ではタレ以外に塩でいただくバージョンもあるそうです。それも食べてみたいなー。

そして最後は「宇和島鯛めし」(780円)をお願いしました。よく「鯛めし」などでイメージされる炊き込みご飯とは違って、出汁と醤油と卵黄をご飯にかけて、それを鯛の刺身と一緒にいただくものです。もともと現地で室町~戦国時代に活躍した伊予水軍にルーツをもつ漁師飯とのこと。

  • 海賊が考案!?「宇和島鯛めし」

鯛の刺身が超うまそう。ご店主いわく、旨味を増すために敢えて鯛を寝かせるそうです。せっかくなので混ぜる前にお刺身だけでいただいちゃいましょう。

  • 醤油は関東風を使用

脂の乗ったねっとりと溶けるような、上品な甘さ。そして鯛特有の華やかな香り。絶妙な寝かせ具合。混ぜる前に刺身で全部食べてしまいかねない!

卵を溶き、出汁と醤油と一緒にしたものをご飯にかけ、かろうじて理性をつなぎ止めて残した鯛の刺身を上に乗せる。その上に付け合わせの海苔とネギを散らします。

  • でき上がり

一気にかっこみ。豪快で、素材の良さに裏付けされた当然のおいしさ。出汁の割合が強いので卵かけご飯よりも薄味で、それゆえに鯛の味が引き立ちます。これは鯛のおいしさに深く精通した人物による、まさに凄技! ごちそうさまでした。

酒蔵10カ所から取り寄せた地酒を提供

  • 左から「賀儀屋 赤ラベル」「久米の井 超辛」「梅錦 杜氏の酒」

お店では、県内10カ所の酒蔵さんから地酒を取り寄せています。その中から今回は、ご店主から西条市にある成龍酒造さんの「賀儀屋 赤ラベル」をおすすめいただきました。

クセは軽め、それでいてお米のおいしさがしっかりとして、後味は軽やか。食べるものを邪魔しない、単体で飲んでも飽きることのない程よい味わいです。来年の正月はこちらの一升瓶を買い込んでダラダラ過ごしたい! そんなお酒でした。

厳選された愛媛のおいしいを東京でも

  • ご店主の福田光さんと「愛媛のかんきつ」ポスター

「がいや」さんは、今年で創業11年。宇和島市出身のご店主の福田光さんが、宇和島のおいしいお魚を提供したいという思いから始めたそうです。地元の魚屋さんが厳選したお魚を直送してもらっているので、季節に合わせてさまざまな海の幸が味わえます。

「がいや」とは宇和島の方言で「すごい」を意味する言葉だそうですが、郷土色豊かな料理の数々と、おいしい魚介、それを活かした品々。季節のたびに訪れたくなるそんな「がいや」さんはまさに、がいや!


<店舗情報>
「がいや」
住所:東京都杉並区阿佐谷南3-37-5 エレガント阿佐ヶ谷 1F
営業時間:17:00~24:00
(取材時の2021年1月には緊急事態宣言下にあり、平日は15:00~、土日は12:00~営業。お得な「早割呑みSET」を提供している。またテイクアウトも実施中)
定休日:不定休

※価格は税別

取材・文=古屋敦史、構成=小山田滝音(ブラインドファスト)