地方出身者が地元の料理を食べたくなったら駆け込める、同郷の人との触れ合いに飢えたときに癒してくれる、そんな東京にある"地方のお店"を紹介していくこの企画。コロナ禍の昨今、せめておいしい地方の物を食べて各地を旅行した気持ちになりたい! という他県のあなたも必見です。

今回は大分県。九州の北東、福岡の南東側、宮崎の北側の県ですね。

  • 日本一鶏肉を食べる県の鶏料理って?

温泉や鶏肉で知られる大分

大分県で有名なものといえば、やはり「温泉」ですね。湯布院に別府と有名な温泉地があり、さらに源泉の数、湧出するお湯の量ともに日本一。「おんせん県」を自称するだけのことはあります。

また、農水産品では乾燥シイタケとカボス生産量、ヒラメの養殖収穫量、太刀魚の漁獲量が日本一なんだそうで、食文化的には「鶏肉の消費量」が日本一。多くの唐揚げ専門店が並ぶ大分県中津市は「唐揚げの聖地」ともいわれていることも含めて、大分県人がいかに頻繁に鶏肉を食べるのかが感じられますね。

  • 蔵のような渋い外観

今回お伺いしたのは「銀座 大海(おおみ)」(以下「大海」)さんです。有楽町線・銀座一丁目駅から徒歩5分ほど、昭和通りを越えて京橋公園の前にあるお店です。

  • おしゃれで落ち着いた内観

店内には高めのカウンターが設けられており、どこかイタリアンレストランやカフェのようなオシャレな雰囲気。席数は、カウンターとテーブル席を合わせて29席ほどです。

高級アジや魚の郷土料理を楽しむ

最初にいただいたのは「関あじの姿造り」(2500円~ 時価)。「関あじ」というのは、大分県と愛媛県の間にある豊予海峡で漁獲され、大分県の佐賀関港で水揚げされるアジのみが名乗ることのできるブランドとして売り出されているんです。海峡は幅が狭く、潮の流れが急なことから身が引き締まったお魚が獲れるんだとか。

  • 新鮮で鮮やかな「関あじの姿造り」

立派なお造り! この大きさのアジからアジフライをとったら一回り二回り大きなものが出来上がるんじゃないでしょうか。お醤油は2種類あり、ともに大分産。甘口のものと、比較的関東の醤油に味わいが近い甘くないものを揃えていて、好みに合わせてチョイスできます。今回は、九州といえば甘い刺身醤油だろうということで、甘い物でいただきます。

まずは一口。なるほど、確かにプリプリ。引き締まった歯ごたえです。そしてねっとりと濃厚さのある旨味。少し粘度のある甘い醤油の味が引けるところから、ゆっくりアジの旨みの輪郭が現れてくるのを感じながら咀嚼していきます。他ではなかなか味わえない刺身ですね。これがブランドアジの力……。

お次は、「りゅうきゅう」(1,155円)が登場です。一口大に切った魚の切り身を醤油・みりん・すりゴマで和えたもので、ゴマやネギを薬味としてかけていただきます。もともとは漁師料理として大分で愛される郷土料理のひとつ。名前の由来は、琉球(沖縄)から伝来した食べ物とも、ゴマ和えを指す「利久和え」がなまったともいわれています。今回はブリの切り身でご提供いただきました。

  • 濃厚なタレが癖になる「りゅうきゅう」

口に運んでみると、大分産の甘い醤油とすりゴマが切り身によく絡んでいて、甘くまろやかなやさしい味。ゴマの芳ばしい香りがして食欲をそそります。ブリも脂が乗っていて醤油やゴマの味に負けることなく濃厚! 傑作なのは、このタレですね。切り身でこそいで食べたくなるような旨味の塊です。おかずにもおつまみにも最適!

今回は、寒い季節にお店に伺ったのでブリを使った「りゅうきゅう」でしたが、ほかにもカンパチやタイなど、仕入れにあわせて変わるそうです。ほかの魚の「りゅうきゅう」も是非食べてみたいですね。

大分には「りゅうきゅう」をご飯に乗せた「りゅうきゅう丼」、「あつめし」という料理があり、ここ「大海」さんでは「豊後あつめし」(990円)として提供されています。お腹に余裕のある方はぜひそちらもいただいてみてください。

これぞ大分県民のソウルフード「とり天」!

そして最後に登場したのは「豊後とり天」(825円)。大分のソウルフードとして根強い人気を誇る料理です。

お店によって味付けなどに違いはあるそうですが、「大海」さんでは胸肉とモモ肉を使用。衣に片栗粉を使わず小麦粉のみ、漬けダレにニンニクを使用せず塩で味を調えるシンプルなスタイルをとっているそうです。

  • 「豊後とり天」を2つの部位で食べ比べ

まずは胸肉からいただきます。衣はやや厚め、かじりつくとサクサクと小気味良い音が響きます。衣の中の胸肉はやわらかくジューシー。それでいてしっかりと歯応えで食べ応えがあります。海鮮を中心とするスタンダードな天ぷらのラインナップでは、この弾力感を味わえる食材はないので非常に新鮮です。

対するモモ肉は、脂が乗っていることもあって、食感はフワフワ。お肉がこんな風にやわらかく仕上がるなんて、と驚くほどです。衣のサクサクとのコントラストがお互いを引き立てていてなんともおいしい。

  • 大分県民なら知っている? フンドーキンの「カボスぽん酢」

これらの「とり天」を、大分に本社を構える調味料メーカー「フンドーキン醤油」が作る大分産「カボスぽん酢」でいただきます。カボスの名産地である大分らしい調味料ですね。ゆずポン酢よりも香りの主張がやさしく、薄めの味付けのとり天の味わいを遮ることなく、さらにおいしく演出してくれます。

さすが現地で愛されるもの同士の組み合わせ。相性ばっちりです。胸肉とモモ肉の異なる味わいを楽しみつつ、あっと言う間に平らげてしまいました。

大分の地酒「智恵美人」は料理に合わせて冷でも癇でも

「大海」さんでは、「燗酒と日本ワインの店」というキャッチコピーを掲げているだけあり、大分県産の日本酒やワインを豊富に取り揃えています。その中で今回オススメいただいたのは中野酒造さんの「智恵美人」。

冷でいただくと優しく芳醇な甘さが口の中に広がり、後味がしつこくないので飲みやすいのが特徴。一方お燗でいただくと、酸味と旨味がぐっとアップします。お刺身は冷でいただきつつ、料理の味が濃くなってくるのに合わせてお燗でいただくなんていいかもしれません。

  • 400年の歴史があるという「小鹿田焼き」

徳利とお猪口は、県の北西部に位置する日田市で作られる「小鹿田(おんた)焼き」です。「飛び鉋(かんな)」と呼ばれる独特な模様を眺めながらゆっくりと味わせてもらいました。

  • 当日お話を伺った店長の石井啓友さん

今年で創業14年になる「大海」さんは、なんとアパレルブランド「SHIPS」さんが運営するお店です。オーナーの三浦義哲さんが大分市出身であることから、本社に近い銀座に開業したそう。

大分県佐賀関港より毎日直送される鮮魚と、懐かしい故郷の料理を味わうことができるお店として、また地元産の日本酒やワインを楽しむことできる場所として親しまれています。こじゃれた空間で大分料理を食べられるこの店が好きっちゃ!


<店舗情報>
「大海」
住所:東京都中央区銀座1-19-9 三鈴ビル1F
営業時間:11:30~14:00、17:00~22:30(L.O.21:45)
(取材時の2021年2月には、緊急事態宣言下にあり、ディナータイムは16:00~20:00で短縮営業中)
定休日:土曜・日曜・祝日

※価格は税込

取材・文=古屋敦史、構成=小山田滝音(ブラインドファスト)