地方出身者が地元の料理を食べたくなったら駆け込める、同郷の人との触れ合いに飢えたときに癒してくれる、そんな東京にある"地方のお店"を紹介していくこの企画。コロナ禍の昨今、せめておいしい地方の物を食べて各地を旅行した気持ちになりたい! という他県のあなたも必見です。

  • 沖縄・常夏の地で食べられているおでんとは?

    沖縄・常夏の地で食べられているおでんとは?


10月に入りいよいよ肌寒くなって、戸惑っているうちに街中のコンビニではおでんを売り出すようになっていました。そう、季節はいよいよ秋へ、そして冬へ向かっていくんだなと思う昨今です。寒い中、チクワやらハンペンをハフハフ食べるのなんて最高ですね。へへへ。などと、おでんへの妄想を膨らます私の元に"ある情報"がもたらされました。

「"沖縄おでん"ってのがあるらしいぞ」

え、沖縄におでん!?

沖縄のおでんは豚足丸々1本入り!

沖縄というとあの言わずと知れた国内有数のリゾート地? サーターアンダギーがヤマピカリャーでハイサイメンソーレ? テーゲーテーゲー? 一番寒い2月も日中は20度近くある常夏の地におでん?

似つかわしいとは言い難い。沖縄料理屋さんで見たことがないし……。しかし、調べてみたらわりと一般的な食べ物なようで、現地には専門店なんかもあるそうです。

というわけで今回は、沖縄おでんを東京で食べたいウチナーンチュに教えてあげたいお店をご紹介。創業24年になる中野「あしびなー」さんにお邪魔しました。

  • 鮮やかな朱色のノレンが目印

細い階段を上がって2階へ。戸を開けると泡盛の甕(かめ)が並ぶカウンター。そして奥にはテーブル席と座敷席があります。小綺麗なチェーン店にはないディープな街・中野にふさわしい雰囲気の店内です。非常に落ち着く。これは期待できそうです!

  • 落ち着いた照明で隠れ家感溢れる店内

さっそく目的の沖縄おでんを求めて「てぃびちおでん」(1,000円)を注文。数分後にはドン! と、おでんというフレーズからイメージできないボリュームの一皿が運ばれてきました。大根、厚揚げ豆腐、昆布このあたりは一般的なおでんの範疇なんですが、真ん中に鎮座する"てぃびち(豚足)"の存在感よ!

  • 大変よくシミシミの「てぃびちおでん」

豚足丸々1本が付け合わせのチンゲン菜からチラリ。チラリじゃないよ、君! 全然隠れきれてないんだよ! しかもご店主に半日かけて丁寧に煮込んでいただいたもんだからトロットロ。お箸で切れるなんてもんじゃありません。やわらかすぎて口の中で勝手にほどけて消える……! みりんと醤油と出汁の甘じょっぱさが豚足のゼラチンとともに口の中を流れていきます。

ご店主の金城吉春さん曰く、沖縄のおでんには、このトロトロのてぃびちが欠かすことができないそう。さらにお酒との相性は最高で、〆はこれで間違いなし、とのこと。かなりボリューミーな〆ですね。でも沖縄の新しい側面を知ることができた気がします。なんかうれしい。

沖縄の家庭料理で身も心もホットに

おでんのほかにも、おすすめ料理をお願いしてみました。まずは「タマナータシャー」(700円)。何個の単語で構成されてるのかも、読み方はどこで切るのかもわかんない(笑)

調べてみると「タマナー」はキャベツ、「タシャ―」は炒めるという意味だそう。その名のとおり、100%キャベツのみが炒められている一皿です。これも私の今まで行ったことのある沖縄料理屋で見たことのない品でした。

  • キャベツのみだけど不思議と飽きのこない「タマナータシャー」

「タマナータシャー」は、金城さんのお母様が家でよく作ってくれた思い出の味で、家庭料理なのでメニューに載せる料理屋さんは少ないとのこと。「でも常連さんにも好評なんだ」と話してくれた金城さんの表情は、どこか照れたような誇らしいような感じでした。

おふくろの味っていいですよね。塩と油のシンプルな味わいで、シャキシャキの噛み応えが心地よくお酒のお供としてもおすすめです。

もう一品は、「沖縄焼きそば」(800円)。沖縄そばで使われる太めのモチモチした麺を使用した焼きそばです。具はモヤシ、タマネギ、ニラと定番もので、味付けは塩胡椒と出汁をベースにしています。頬張ると鼻に抜ける柑橘の爽やかな香りが……!? どうやら隠し味にシークワーサーを塩漬けにした「塩シークワーサー」を入れることで清涼感を持たせているそうです。

  • 麺のモチモチとキャベツのシャキシャキが楽しい「沖縄焼きそば」

このお店では、料理ごとに食材に合わせて油も塩も別の物を使用しているので、似た味付けの料理もバリエーション豊かに楽しめるんだそう。シンプルな料理だからこそ細かいところに技が光ります。

また、なんといっても泡盛の品ぞろえが豊富! 金城さん自慢の「クース(古酒)」(650円~)をいただくこともできるので、新酒と飲み比べてみるのも楽しいですね。ちょっと強くて癖のあるお酒だけど、沖縄料理にはやっぱりこれ。コクと甘みを感じながらゆったりいただいているといつの間にか、2杯3杯と……。いい感じに仕上がってまいります(笑)。

常夏の味を東京で堪能しよう!

素朴で温かみのある料理を提供してくれる「あしびなー」は、お店の雰囲気もまさに「沖縄」。ご店主の金城さん(ちょっと強面)は沖縄本島の出身で、26歳のときに東京へ上京されたそうです。

  • 語っていただいた店主の金城吉春さん

当時はまだ沖縄料理屋は少なく、東京の沖縄の人たちが集まってお酒を飲んだり三線を弾いたりできるたまり場が欲しいと感じ、沖縄県人会のあった中野にお店を開いたと語ってくれました。

店名の「あしびなー(遊ぶ庭)」は、沖縄の集落の真ん中にあり、集会などを行う広場からとったそうで、ここに集った人々の輪は今年で15年目になる「中野チャンプルーフェスタ」にもつながっていったと言います。

今年は、新型コロナウィルスの影響でリアルイベントはできませんでしたが、「あしびなー」さんに来れば、お酒に合う品々と、とっておきの泡盛、賑やかなお店が温かく迎えてくれますよ。寒い日は沖縄おでんで温まってみませんか? あなたも一緒にあっり乾杯!


<店舗情報>
「あしびなー」
住所:東京都中野区中野5-53-9 2F
営業時間:17:00~24:00
定休日:火曜日

取材・文=古屋敦史、構成=小山田滝音(ブラインドファスト)