地方出身者が地元の料理を食べたくなったら駆け込める、同郷の人との触れ合いに飢えたときに癒してくれる、そんな東京にある"地方のお店"を紹介していくこの企画。コロナ禍の昨今、せめておいしい地方の物を食べて各地を旅行した気持ちになりたい! という他県のあなたも必見です。

今回のテーマは鳥取県。中国地方の日本海側。東は兵庫、西は島根、南は岡山ですね。

  • 日本海に面する鳥取県といえばお魚が美味!


鳥取で有名なものといえば?

鳥取県といえばやはり鳥取砂丘ですね。特産物では二十世紀梨がおなじみ。また、カニの漁獲高が日本一の境港を有すことから、県が「蟹取県」を名乗るなどのキャンペーンをうっていました。

人物としては『ゲゲゲの鬼太郎』の作者・水木しげる先生(境港市出身)や『名探偵コナン』の青山剛昌先生(現北栄町出身)が有名。空港の名前が「鳥取砂丘コナン空港」ですから、砂丘とコナンがどれほどプッシュされているか分かろうというものです。

さて、丸の内の「山陰海鮮居酒屋 炉端かば」(以下「かば」さん)にお邪魔しました。山陰ということで、島根の名物もお店にはあるんですが、今回はその中から鳥取の名物にフォーカスしてお届けします。

  • カウンターに鎮座する漁船が印象的な店構え

東京駅の丸の内中央口を出て3分ほど右のほうに歩いていくとある、ビルの地下1階に入っています。おしゃれなお店が並ぶ中、ひときわ元気でにぎやかな店構えなのが「かば」さん。店内はかなり広く、カウンター席やテーブル席、半個室や座席と、人数やシチュエーションに合わせて利用できる作りになっています。

体にいい一品がいっぱい

最初にいただいたのは「砂丘らっきょう」(390円)です。鳥取はらっきょうの生産量が1位の県。その中で鳥取県東部・中部の砂丘地で栽培されるものが「砂丘らっきょう」ブランドとして売り出されています。

  • 透明度のある実が美しい「砂丘らっきょう」

らっきょう自体は江戸時代に鳥取に持ち込まれたもので、日本海に面し風が強く、冬には雪が降ることもある鳥取砂丘のような、痩せた厳しい土地でも育つことから、盛んに生産されるようになったんだとか。ちなみにカレーの消費量日本一の県も鳥取なんですが、やっぱりカレーにはらっきょうの漬物派なんですかね?

  • 大きさは親指の先くらいあるらっきょう

「砂丘らっきょう」は、よく東京で見るらっきょうの1.5倍くらいある大振りサイズ。あとちょっと細長い見た目をしています。

口にしてみると驚くのは、その力強い食感。層状に重なった実の一層一層がわかるのではと思うくらいに瑞々しくシャキシャキとした歯ごたえです。もはやバリバリとかボリボリと形容しても良いくらい。これが砂丘の厳しい気候がなせる業なのでしょうか。

そして味付けはやや薄味。なんでもしっかりらっきょうの香りや味わいが感じられるように敢えてそうしてあるんだそうです。なるほど、くせのない爽やかな後味が心地良い。ブランド化して売り出すだけのことはありますね!

続いて登場するのは「すいかの醤油漬」(450円)です。スイカの漬物? 何かの間違えなのかと思ったら本当にスイカなんだそうです。

  • 縞々はないけど「すいかの醤油漬」

「源五兵衛西瓜」という漬け物専用のスイカで、野球ボールくらいの大きさになったところを皮ごとたまり醤油に漬け込むんだとか。よくよく考えるとスイカもキュウリと同じウリ科ですし、そこまで違和感ないのかもしれませんね。

出てきたものは、スイカ特有の縞模様がないので、言われないとスイカとわからないビジュアル。断面を見てみると真ん中までしっかり漬かっています。

  • きれいに芯まで浸透しており、中は琥珀色

食べてみても、当然スイカの味はしません。食べている部分が違いますしね。かと言って皮を食べたときのような青臭い感じもしません。

バリバリとした歯ごたえに、まろやかで濃厚な口当たり。たまり醤油特有の塩辛さの中に甘みが感じられます。どこか酒臭くない奈良漬けに似ているかも。これは完全にお酒のアテです。まさかスイカをアテにお酒を飲むことになろうとは……。少し不思議な気分です。グビグビ。

お次は「あかもく」(390円)をお願いしました。東北などでは「ギバサ」という名称で食されている海藻で、山陰でも広く生育しているそうです。

  • 邪魔者扱いが一転、熱視線が集まるスーパーフード「あかもく」

ただ長らく船のスクリューに絡む邪魔者として扱われていて、あまり食べる習慣はなかったとか。それが近年になって、その栄養価の高さからスーパーフードとして注目され、現在では特産品として売り出されるまでに。ご提供いただいたものは、収穫したあかもくを湯がいて、細かく刻んだ物とのこと。

  • 刻まれているはずなのに麺のように

お箸を差し込んでみると、やや鈍い感触。挟んで引っ張り上げると、あまりにネバネバ過ぎて麺みたいにリフトできてしまうじゃありませんか! すごいね、きみ。

ネバネバしている物は無条件で体に良いみたいな風潮ですが、その論法で言うと無茶苦茶体に良いのではないかという気がしてきます。それくらい過剰にネバネバ。

これをツルっとお口へ。磯の香りと、出汁の旨味が口いっぱいに広がります。かなり好きかも。クセも少なく磯の香りを余すことなく楽しみまくり! アーンドネバネバ! これで体にいいなら毎日どんぶりいっぱい食べたいものです。

鶏肉はもちろん高級魚の甘ーい煮付けも堪能

お次に登場したのは「鶏盛り」(880円)。中国地方の最高峰「大山」の麓は、名水・湧き水が数多く存在する地域だそう。そこで厳選したハーブをブレンドした飼料で育った「香美鶏」を使用し、鶏のモモ、皮、胸、砂肝など複数の部位の炭火焼きが盛り合わせになっています。

柚子胡椒が添えられていることもあって九州っぽい料理ですね。食べてみるとやわらかくて旨味の強め。また炭火焼きの香りもあって大変食欲をそそります。

  • 山盛りのキャベツと一緒に食べる「鶏盛り」

脂が乗って香りのいいモモ肉、脂が少なくさっぱりとした胸肉、クニクニとした歯応えと脂がたっぷり味わえる皮、しっかりとした歯応えの砂肝と、鶏のおいしいいところがランダムで味わえるのが楽しい料理でした。

最後にお願いしたのは「のどぐろ煮付け」(1,980円)。鳥取では境港や賀露港でも水揚げされ、「白身のトロ」とも称される高級魚で、煮ても焼いてもおいしい素敵な存在です。

  • いい感じに照りが出ている「のどぐろ煮付け」

日本一甘いとも言われる島根の「紅梅」という醤油で30分かけてじっくり煮込んだ一皿。豆腐とネギ、にんじんが添えられています。

タレは糖度のためかネットリと表現できるほどに超濃厚。身をほぐして口に入れると甘ーい風味が広がります。日本一というのは伊達じゃありません。今まで食べたことのある煮付けの中で群を抜いています。聞くとみりんは使っていないそう。それでこの甘さは、あっぱれです。口に広がった甘塩っぱさが、急激に脳に栄養を送りこみ、疲れが吹き飛ぶようでした。

しかし、そんな濃い味の中でもいい食材は光るもの。のどぐろの食感はフカフカとして、脂の乗った旨味がしっかりと主張してきます。この身があってこそ、これほど甘い味付けが可能なんですね。奇跡のマッチング。

ところで、「かば」さんのおもしろいところは、各卓に3つも醤油が並んでいるところ。

  • 山陰のおいしい醤油が3種類並ぶ

いずれも山陰で作られた醤油で、いろいろな味で刺身を楽しんでもらうために用意しているといいます。のどぐろを煮るのにも使っていた「紅梅」をはじめ、出汁醤油や、アッサリしたものまで、なかなかのこだわりようです。地のお魚は、地の醤油で食べてこそですからね。いろいろ試して食べ比べしてみたくなります。

おいしい水で作られたお酒はやっぱりおいしい

  • おすすめの鳥取の地酒(左から「八郷」「鷹勇」)

「かば」さんでは、島根と鳥取それぞれの地酒を8種類ずつ、計16種類を取りそろえています。今回は店長さんからおすすめの鳥取の地酒を推薦いただきました。西伯郡にある久米桜酒造の「八郷」です。

西伯郡は、先ほど話題に上がった大山の麓にあります。「八郷」は、その大山で磨かれたお水で作られた辛口ですっきりとした口当たりのお酒です。爽やかな香りもなんとも心地よくスイスイ飲めてしまいます。

余談ですが、ビール大好き筆者としては、同じ蔵元さんで作られている「大山Gビール」もとてもおいしいので、もしどこかで見掛けたらぜひトライしてみてください。

山陰を全国区にすべく奮闘中

山陰・山陽に多く店舗をもつグループのチェーン店「かば」さん。東京にもいくつか店舗があり、「山陰を全国区へ!」を合言葉に、日々がんばってらっしゃいます。東京の店舗にも山陰出身のスタッフさんがいて、地元のおいしいものについていろいろと教えてくれますよ。

鳥取から上京された方には、地元のチェーンが東京にもあるって、どこかほっとするところがあるんじゃないでしょうか。海外で吉野家があると誇らしいような、安心するような気持ちになるアレです。そんな山陰出身者のオアシス「かば」さんでパワー充電して、明日もはたはた(元気よく)頑張りましょー!


<店舗情報> 「山陰海鮮居酒屋 炉端かば 丸の内店」
住所:東京都千代田区丸の内1-4-1 丸の内永楽ビルディングB1F
営業時間:[ランチ]11:30~15:00、[ディナー]17:00~23:00
定休日:日曜日
※現在、緊急事態宣言発出に伴い休業中。2月7日に営業再開予定

※価格は税別

取材・文=古屋敦史、構成=小山田滝音(ブラインドファスト)