次々に新しい料理や食材などが登場するとあって、『食のトレンド』は刻一刻と移 り変わっていく。しかし、クライアントや職場の同僚と「あれ食べた?」という話にな ることはよくある。そんなときに「……聞いたこともない」というのは、かなりマズ い。この連載では、ビジネスマンが知っておけば一目おかれる『グルメの新常識』 を毎回紹介していく。第79回は「GI(地理的表示)のお酒」。
「低GI」とは違う、もう一つの「GI」とは?
最近「GI山梨」「GI山形」など、「GI(ジーアイ) +地名」の言葉を耳にする機会が増えてきている。これらは食後の血糖値の上がりやすさを示す「低GI」とはまったく別の「地理的表示のGI」に認定された酒を指している。
地理的表示制度はヨーロッパを中心としたワインの国際取引における「原産地呼称制度」が起源だ。不正な産地名の使用を防ぐために公的に基準を定め、生産者と消費者双方の利益を確保してきた。諸外国WTO(世界貿易機関)の発足に際し、ぶどう酒と蒸留酒の地理的表示の保護が加盟国の義務となり、日本では1994年に国税庁が地理的表示制度を制定。2015年に見直しをおこない、すべての酒類が制度の対象となった。
国税庁にGI認定された商品は類似品との差別化・ブランド化が可能になり、国内だけでなく海外に対しても価値を明示しやすくなる。世界的に有名なGIの例として挙げられるのが「シャンパーニュ」だ。厳格な基準を満たし、シャンパーニュ地方で生産された瓶内2次発酵のスパークリングワインだけが、シャンパンを名乗れる。日本でも同じように有名なGI酒を輩出し、地域活性と消費量増加を目指そうと、国税庁は近年、とくに酒類のGI認定に積極的なのだ。
下記画像は2021年1月末時点でGI認定されていた地域を示したものである。全国でワインは5つ、日本酒は11の地域が認定されている。
2021年だけでも酒類のGI認定を受けた地域は5ヶ所にものぼるが、もちろん手当たり次第に認定しているわけはない。地域と商品の価値を守り、さらに高めるための認定制度であることから、厳格な基準のクリアが絶対条件となる。山形・山梨・長野は、ワインと日本酒の両方のGIを県単位で認定されている。
GI認定酒は、各地域の特色を色濃く反映しているうえに高品質。日本の酒のブランド価値を高め、地方創生やグローバル展開の観点からも注目されている。「低GI」と混同して恥をかかないように、今のうちに基礎知識を押さえておこう。
「GIのお酒」はどこで手に入る?
GI認定のお酒はさまざまなところで売られているが、例えば、全国で初めて県単位で認定された「GI山形」の酒は、Amazonや楽天などのECサイトでも購入可能だ。「GI山形」は出羽桜酒造をはじめ有名な蔵が多く、飲食店で目にする機会も多い。「GI山形」のロゴマークが貼られているかどうかで判別できる(下画像参照)。
2021年1月に認定された「GI利根沼田」の認定記念セット7種(大利根酒造、永井酒造、土田酒造、永井本家)は、88セット限定で税込6万6,000円(720ml×6本、500ml×1本 計7本)で、2021年11月より販売中。2022年2月1日からは単品バラ売りでの販売も予定されている。こちらにも「GI利根沼田」のロゴラベルが貼られている。
最新のGI認定地域(2021年12月時点)である長野県で、とくに評価が高い「奨励酒」に選定された日本酒は5蔵8銘柄。七笑酒造の「七笑辛口純米酒」「七笑豪笑」「県酒販PB辛口純米酒」「楽國信州辛口純米酒」の4銘柄と、仙醸の「黒松仙醸純米吟醸金紋錦」、大信州酒造の「大信州N.A.C金紋錦2020」、薄井商店の「白馬錦純米大吟醸」、遠藤酒造場の「彗DONATI初汲み純米吟醸」だ。「大信州N.A.C金紋錦2020」以外は、それぞれの酒蔵のオンラインショップで購入できる。
2013年7月に、日本で初めてワインのGIを取得した山梨県のワインは、山梨県ワイン酒造組合が運営する「GI山梨ワインオンラインショップ」で購入可能だ。その他の地域のGI認定酒も「GI+地名」でネット検索すれば、購入可能なECサイトや、情報が掲載されている酒造組合のサイトが見つけられる。
「GIのお酒」を飲んでみた
実際にGI認定された酒をさっそく飲んでみた。「GI利根沼田」の認定日本酒、永井本家の「トネニシキ コシヒカリ90」をセレクト。「GI利根沼田」は、国内で初めて酵母や米の種類・産地まで限定し、かなり厳しい基準を制定している。使用する米は利根沼田地域で生産された「雪ほたか」「五百万石」「コシヒカリ」のいずれかのみ。使用する酵母も地元で開発された「群馬KAZE酵母」「群馬G2酵母」「蔵付き酵母」などに限定している。
「トネニシキ コシヒカリ90」は沼田市池田地区産のコシヒカリを100%使用し、精米歩合90%の純米酒。豊かでまろやかな果実香が飲む前から期待感を高めてくれる。5~10℃くらいのよく冷やした状態で飲むと上品で綺麗な味わい。少し時間を置いて常温で飲むとコクが広がり、米由来の濃醇な旨味を感じるが、キレがよく後味はスッと抜けていく。時間経過による味わいの変化が面白く、飲み飽きない酒だった。どの温度帯にも共通するのは、やわらかいコクと優しい甘み、そしてすっきりした酸味。寒い時期は熱燗にしてもいいだろう。
2021年11月24日に開催された「GI利根沼田」のシンポジウム資料を参考に、日本ソムリエ協会 会長の田崎真也氏がすすめるペアリングを試してみた。鶏肉とキノコ類をオリーブオイルで炒め、白ワイン、生クリームなどで煮込むフランスの伝統的な家庭料理「チキンフリカッセ」だ。
「トネニシキ コシヒカリ90」の上品なコクと、フリカッセのクリーミーで濃厚なコクが絡み合い、味わいに奥深さがプラスされる。米の旨味と鶏の旨味が、とろみのついたソースに溶け出し、心地よい余韻と華やかなキレが感じられた。お互いを引き立てながら、相乗効果を発揮する組み合わせだった。
GI認定酒は日本のブランド力を高めていく存在であり、今後もどんどん増えていくだろう。仕事相手の出身地がGI認定されていたら、会話の糸口としても活用できるだろう。ぜひ早めに全国のGI認定酒をチェックして、今年の営業トークの準備を万端にしておこう。