次々に新しい料理や食材などが登場するとあって、『食のトレンド』は刻一刻と移り変わっていく。しかし、クライアントや職場の同僚と「あれ食べた?」という話になることはよくある。そんなときに「……聞いたこともない」というのは、かなりマズい。この連載では、ビジネスマンが知っておけば一目おかれる『グルメの新常識』を毎回紹介していく。第50回は「飲むおだし」。

  • 自販機商品からドリップタイプまで、気軽に飲める「飲むおだし」が話題

「飲むおだし」とは?

出汁(だし)といえば、和食をはじめ料理に使われるのが一般的。素材の旨みを引き出し、料理のベースとなる下味の役割を果たしているが、飲料としてだしを味わう商品が増え始めている。「飲むおだし」「だしドリンク」などと呼ばれるこれらの商品は、そのまま飲めるものやお湯を注ぐだけのものなど、簡単な手順で気軽にだしの旨みを味わえるのが特徴だ。和食に馴染みのある日本人の口によく合うのはもちろん、だしをドリンクとして飲む新鮮さも注目されている理由だ。

カフェインレスでやさしい味わいの飲むおだしは、ホッと温まりながら胃腸を休めたいときにぴったり。コーヒーや紅茶を飲むのと同じように気軽に楽しめるので、仕事や家事の休憩時間、寝る前のリラックスタイム、暴飲暴食をしてしまった日の翌朝など、さまざまなシーンにマッチする。

「飲むおだし」はどこで買える?

「飲むおだし」にはいろいろなタイプが登場しているが、特に手軽なタイプは今年10月から日本コカ・コーラが全国の一部スーパーや自動販売機で販売を開始した「GO:GOOD(ゴーグッド) ゴクっ! と旨い和だし」だ。

  • 日本コカ・コーラ「GO:GOOD ゴクっ! と旨い和だし」(185g/148円税別)

「GO:GOOD」は、2019年に同社がスタートしたリキッドフードブランド。これまでコーンポタージュやミネストローネなど洋風のラインナップで展開していたが、キッコーマン監修のもと新しく「和だし」が仲間入りした。

厳選されたかつお・昆布・あごのエキスでだし本来の味わいと香りを引き立たせつつ、ドリンクとしての飽きがこないようすっきりと仕上げているのが特徴だ。「都内でのサンプリング時に行った調査結果では『やさしい味わいでほっとできる』、『このままお料理にも使いたい』など、85%の方からおいしいと評価されました」(日本コカ・コーラ 新規事業開発本部 西尾真一郎さん)と、評判も上々だという。

容器はカートカン(紙製の円筒形飲料用容器)で、自販機ではホット商品として販売されている。飲み口のシールをはずせば電子レンジで温め直すことも可能だ。「秋冬はホットでお楽しみください。また、常温で出汁の風味を少しずつ楽しんだり、暑い季節には冷やしてキリっと飲んでいただく楽しみ方もあります」(西尾さん)とのこと。塩分を控えめに、引き立つ素材の旨みがあるため、味噌汁やお茶漬け、出汁巻き卵などの料理に使うのもおすすめだという。

  • 日本橋だし場Dripの「だしスムージー」(各361円)。左から白の野菜、緑の野菜、赤の野菜

また、飲むおだしのドリンクスタンドも登場。東京・池袋の東武百貨店プラザ館地下にある「にんべん 東武百貨店池袋店」に併設している「日本橋だし場Drip」は、かつお節専門店のにんべんが手掛けるテイクアウト専用の店舗。ドリッパーで1杯ずつ丁寧にひいただしをワンコインで楽しめるホットドリンク「かつお節だし(ドリップ式) かつお節だし/かつお・昆布合わせだし」(レギュラーサイズ各100円)などを販売している。

かつお節を削るとき、ドリッパーで抽出するとき、店内はやさしいだしの香りで満たされる。同店店長の諸橋麻衣子さんは「削ると急速に風味が劣化してしまうのがかつお節の特徴ですので、削りたてのかつお節で抽出するようにしています。また、ドリップ式ですので引き立てのかつお節だしの味と香りを楽しめる一杯です」と話す。親子連れなど女性の利用客が多いそうだ。

もう一つ、同店の看板メニューとなっているのが、だしと野菜をブレンドした「だしスムージー」だ。「緑の野菜(ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草)」、「赤の野菜(トマト、にんじん、赤ピーマン)」、「白の野菜(かぶ、カリフラワー)」の3種類あり、それぞれ野菜とかつお節だしの旨みをきかせつつ、野菜のえぐみを感じさせないさっぱりとした味わい。だしの風味がきいた新感覚の冷たいドリンクで、不足しがちな野菜を手軽にとることができる。

その他、本格的な飲むおだしを自宅で楽しめるドリップタイプは、だし専門店で購入することができる。

「飲むおだし」を飲んでみた

  • 雅結寿の「のむおだし」シリーズ。左から「鹿児島ドリップ」(259円)、「玉ねぎドリップ」(281円)

東京・三宿に店舗を構える“のむ天然おだし”の専門店・雅結寿(みやびゆいのじゅ)の「のむおだし」シリーズを飲んでみた。同シリーズは、調味料・食品添加物不使用のドリップ式の天然だし。魚介だしや、魚介と野菜をブレンドしたおだしなどさまざまなラインナップの中から、今回は人気商品の「鹿児島ドリップ」と「玉ねぎドリップ」をセレクトした。

紙のパッケージを開けてみると、だしの粉末が入った袋、ペーパードリッパー、藻塩の3点が入っており、パッケージの中には商品の説明やおいしく淹れる手順が書かれている。1杯分(約150cc)を淹れる手順としては、まずマグカップや湯呑みなどを熱湯で温め、ドリッパーをセットし、だしの粉末を入れて約90℃のお湯を少し注いで20秒ほど蒸らす。その後、らせん状にゆっくりお湯を注いでいけば完成。コーヒーをドリップするときとほとんど同じ手順となっている。

  • 「のむおだし」1杯分のセット内容。長崎県対馬産の藻塩はお好みで加えて飲む

まずは同シリーズで人気No.1という「鹿児島ドリップ」を淹れてみる(記事冒頭写真)。鹿児島県産の鰹の本枯れ節と荒節、北海道産の昆布、国産原木栽培の椎茸を独自の配合でブレンドしたという、原料からして旨みの強さを期待できる商品だ。だしの粉末の袋を開けた瞬間からだしの香りが広がり、お湯を注ぐとその香りがさらに豊かに感じられた。

ドリップしたおだしをそのまま飲んでみると、調味料を一切使っていないにも関わらず、旨みをしっかりと感じられることに驚く。鰹節、昆布、椎茸それぞれの素材から抽出された旨みが見事にブレンドされ、奥深い味わいだ。飲み終わった後もしばらく舌の上に味の余韻が残った。

続いて、国産玉ねぎ、京都舞鶴産さわら煮干し、椎茸、昆布をブレンドした「玉ねぎブレンド」を飲んでみる。ドリップすると、ほうじ茶に近い褐色の液体が抽出された。こちらはたまねぎの甘みがしっかりと出ており、やさしくまろやかな味わいが感じられた。和風のオニオンスープといった感じで、ホッと安らぐおいしさだ。

いずれの商品も、添付されている藻塩をひとつまみ入れるとさらに味の輪郭がはっきりしたので、お好みで加えて楽しむのも良さそうだ。とはいえ、何も加えず飲んでも、普段濃い味に慣れた筆者の舌で素直に「おいしい」と感じられた。何よりどちらもだしの香りがとても良く、つい大きく息を吸い込みたくなる。リラックスすると同時に、食欲が刺激される魅力的な香りだった。

雅結寿を運営するボニートジャパンの酒井健太郎さんによると「『のむおだし』は、内臓がクリアになった朝に飲むと、内側から温められ、体に染み渡っていく感覚が体験できおすすめです。カフェインレスなので夜に飲んでも安心」とのこと。たしかに、一杯飲むと胃腸を中心に体がじんわりと温まっていくのが感じられた。また「鰹だしに含まれるイノシン酸とトマトに含まれるグルタミン酸は大変相性が良いので、温めたトマトジュースでおだしを割ってもおいしくいただけます」(酒井さん)と、おすすめのアレンジも教えてくれた。

朝起きて目覚めの一杯や、在宅ワークのおともにもぴったり。「飲むおだし」をドリンクの新たな選択肢に加えて、深い旨みと豊かな香りに癒されてみては。

※価格は特記がない限り税込