2015年から相続税の基礎控除額が改正され、大幅に引き下げられました。これによってより多くの人が相続税の課税対象となり、その節税対策として「生前贈与」が注目されるようになりました。そもそも生前贈与とは何なのか、どのように行えばよいのか、知っておきたい生前贈与の知識と賢い節税方法をお伝えしていきます。

生命保険の生前贈与はどうやるの?

贈与で一番よく知られているのは、基礎控額110万円かもしれません。贈与する財産が1年で110万円まで非課税になるという制度です。そのほかにも贈与を活用した節税対策はいろいろありますが、今回は生命保険を活用した贈与について学んでいきましょう。

贈与には生命保険が活用できます。活用のポイントは、保険料負担者と保険金受取人を誰にするかです。

例えば、被保険者(保険をかけられる人)が父、受取人が子の場合を考えてみましょう。万が一、父が死亡した場合、保険金は子に支払われる保険内容です。ここで保険料負担者は父ではなく子にあるとしても、贈与税の基礎控除を活用すれば、父が子に対して保険料に充当するための現金を年間110万円ずつ贈与し保険料を準備することができます。贈与したお金も課税されません。これで生命保険の生前贈与は完了です。

生命保険の活用が節税につながる理由

生命保険の活用はなぜ節税につながるのか、ポイントは保険金にかかる税金にあります。

  • 保険金にかかる税金

    生命保険の保険料負担者が異なると、課税区分が変わってくる

例えば上図(1)のように、保険料負担者が父、受取人が子の場合、相続税が課税されます。相続税の計算には、500万円×法定相続人の数の非課税枠を使うことができます。

(相続税の生命保険金等の非課税枠)

非課税限度額=500万円×法定相続人の数

また、孫など相続人でない人や相続を放棄した人は、この非課税枠を使うことができませんが、保険金を受取ることはできます。

つぎに図(2)のように、保険料負担者が子、受取人が子の場合、下記の式で所得税が課税されます。子が受取る保険金は一時所得として扱われます。

所得税(一時所得)における課税対象額=受取った保険金-払込保険料-50万円)×1/2

(1)と(2)を税金の面で比較すると、負担が少ないのは(2)の所得税での課税です。

実際に(1)、(2)でどれくらい違いがあるか計算してみましょう。保険金が5,000万円、払込保険料が3,000万円のケースを想定します。

(1)の相続税の場合、保険金5,000万円、法定相続人の数が3人(妻、子2人)のケースで想定します。500万円×3人となり最大1,500万円まで非課税となり、それを超える部分に相続税が発生します。すなわち、

(5,000万円(保険金)‐1,500万円(500万人×3人))

で計算され、答えの3,500万円が課税対象額となります。

一方、(2)の所得税の場合は

(5,000万円(保険金)‐3,000万円(払込保険料)‐50万円)×1/2

で計算され、答えの975万円が課税対象額となります。

もちろん保険金額や保険料、法定相続人の数などによって課税対象額は違ってきますが、所得税で課税される方が、税金負担を軽減することができます。大切なのは、所得税で課税されるように、保険金受取人が自ら保険料を支払うよう設定することです。

生前贈与の注意点

ここで注意が必要なのが、贈与のやり方です。

例えば子が2人いたとします。それぞれ毎年110万円ずつ、合計220万円を贈与し、これを10年間続けたとすると、贈与税を支払うことなく、2,200万円の財産を保険料に充当することができます。

ただ、毎年同じ時期に同じ金額を贈与していると「定期贈与」とみなされ、基礎控除110万円以下でも贈与税がかかる可能性があります。そこで定期贈与にみなされないように、方策をとらなければいけません。

例えば、毎年贈与する時期を変えたり、金額をバラバラにしたりします。また、贈与が成立していることを証明するために、以下のように贈与の証拠をしっかり残しておくことが大切です。

・都度、贈与契約書を作る
・贈与は現金ではなく振込にする
・贈与税の申告をする(基礎控除110万円を超えた場合)

保険活用のそのほかのメリット

生命保険の活用は、節税対策以外に遺産分割対策や納税資金対策にも有効ですが、いくつか注意が必要なパターンもあります。ここでは、相続人が子2人(長男と次男)で、8,000万円の自宅不動産と2,000万円の現金というケースを想定しましょう。

このとき財産を2分の1ずつ相続するとなると、現金1,000万円と自宅不動産を半分に割った4,000万円の計5,000万円ずつ相続する……ということは現実問題として不可能です。

このような場合、生命保険を活用して将来不動産を相続する長男を保険金受取人にして生前に保険に加入しておく方法があります。相続では長男が不動産8,000万円を取得して、次男が現金2,000万円を取得し、代償財産として長男が受取った保険金を使って次男に3,000万円支払うという方法もできます。

このように生命保険を活用することで、スムーズな財産分割が可能になります。また、財産が不動産ばかりという場合にも、相続した子どもが納税資金に困らないよう死亡保険金で納税資金を準備しておくこともできます。

生命保険の活用は、保険料負担者、受取人、保険金以外の相続財産、相続人の数、受取人の所得金額などによってケースバイケースです。生命保険の活用を検討する場合は、専門のファイナンシャルプランナー等の専門家に相談することをおすすめします。