FXの大相場の数々を目撃してきたマネックス証券、マネックス・ユニバーシティ FX学長の吉田恒氏がお届けする「そうだったのか! FX大相場の真実」。為替相場分析の専門家がFXの歴史を分かりやすく謎解きます。今回は「トランプ・ラリーの影の主役」について紹介します。

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2016年11月、米大統領選挙でトランプが大番狂わせの勝利となった時、米景気はその年前半までの減速局面から回復に急転換していました。それこそが、ショッキングなトランプ勝利(トランプさん失礼!)にもかかわらず、懸念された株暴落などの「トランプ・ショック」が不発となり、むしろ暴落を予想した大量の売り注文が一斉に買い戻しを迫られる歴史的な「踏み上げ相場」により、「トランプ・ラリー」が起こったキー・ポイントだったのではないかと私は考えています。

その上で、この景気回復への急転換をもたらした「影の主役」は原油相場だったのではないかと思っているのです。

「世界一の産油国」となった米国

原油相場は2014年の夏までは100ドルを超えた水準で推移していました。ところがその後暴落が始まると、2016年初めには一時30ドルも割れるところとなったのです。

  • WTIの推移(2010年~)(出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成)

    WTIの推移(2010年~)(出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成)

実は、この原油相場こそが、これまで述べてきた2016年前半にかけての米景気の減速、そしてその後の回復への急転換の、まさに「影の主役」だったのではないでしょうか。

なぜ原油相場が、米景気にそれほど影響するようになったのか。それはとてもシンプルに、米国が「世界一の産油国」になったからです。シェール革命、そしてシェール原油の登場により、米国は2014年からサウジアラビアやロシアを抜いて「世界一の産油国」となりました。

原油高、原油安にはそれぞれメリット、デメリットがあり、どちらが良いとは一概に言えないものです。ただ中東の産油王国、サウジなら原油高はプラス、原油安ならマイナスと明確に分かれます。そんなサウジも抜いて「世界一の産油国」となった米国も、原油安はマイナス、原油高はプラスの要素がそれぞれに強くなっていたのでしょう。

以上を踏まえると、2015年から2016年にかけての米景気の変化はとても理解しやすくなるでしょう。2016年前半にかけて米景気が急減速したのは、「世界一の産油国」である米国にとって、原油暴落の悪影響が大きかったのでしょう。そしてそんな原油相場は、2016年2月に底を打つと、その後夏にかけて急ピッチで回復に向かったのでした。

2016年2月に26ドルで底を打ったNYの原油先物、WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)は、6月には50ドルの大台を回復しました。つまり2016年は夏にかけて原油相場は一転して倍の水準へ急上昇したのでした。

そんな原油相場の急上昇は、「世界一の産油国」米国の景気回復に大きく貢献したのでしょう。2016年の米経済成長率は、第1、2四半期の1%台から、第3四半期には3%超へ、急改善、そして第4四半期も2%以上となったのです。

基本的に、景気が回復している局面では、ネガティブ・サプライズの「きっかけ」があっても株安は広がりにくいといった株暴落を左右する景気との関係を前回説明しましたが、トランプ勝利という「ネガティブ・サプライズ」(トランプさん失礼!!)があった時にはまさにそんな状況となっており、それをもたらした「影の主役」は原油相場だったのでしょう。

2016年11月米大統領選挙の当時、米景気は急ピッチで回復していました。でも株式市場は景気回復への意識は薄く、「悪の大魔王」のようなトランプが万一にも勝利してしまったら暴落必至との見方が圧倒的でした。それには、「間が悪かった」ということもあったのでしょう。Brexit(英国のEU離脱)ショックからまだ半年も経たず、「暴落」の記憶が生々しく残っていた影響です。

吉田恒(よしだひさし)

チーフ・FXコンサルタント兼マネックス・ユニバーシティ FX学長
大手の投資情報ベンダーの編集長、社長などを歴任するとともに、著名な国際金融アナリストとしても活躍。2000年ITバブル崩壊、2002年の円急落、2007年円安バブル崩壊、2016年トランプ・ラリーなどマーケットの大相場予測をことごとく的中させ、話題となる。

機関投資家に対するアナリストレポートを通じた情報発信はもとより、近年は一般投資家および金融機関行員向けに、金融リテラシーの向上を図るべく、「解りやすく役に立つ」事をコンセプトに精力的に講演、教育活動を行なう。2011年からマネースクエアが主催する投資教育プロジェクト「マネースクエア アカデミア」の学長を務める。2019年11月より現職。書籍執筆、テレビ出演、講演等の実績も多数。マネックス証券