FXの大相場の数々を目撃してきたマネックス証券、マネックス・ユニバーシティ FX学長の吉田恒氏が送る「そうだったのか! FX大相場の真実」。為替相場分析の専門家がFXの歴史を分かりやすく謎解きます。今回は「景気と株暴落の関係」について紹介します。

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米大統領選挙でのトランプ候補の勝利が決定した2016年11月9日、NYダウは256ドルと比較的大きく上昇しました。事前には、「トランプ暴落不可避」との見方が大勢だったところ、正反対の結果になったのはなぜか。

その一因として、前回私は「景気回復を読み違えた」ことだろうと述べました。というのも、やはり株の暴落、暴騰といった大きな動きの場合、景気との間に一定の関係があるようなのです。

気付きにくかった景気回復への急転換

実際にNYダウが1,000ドルの大暴落となったのは、2015年8月24日と2016年6月24日でした。前者は「チャイナ・ショック」と呼ばれ、後者は「Brexit(英国のEU離脱)ショック」と呼ばれました。

NYダウの大暴落が回避され、むしろ「トランプ・ラリー」となったケースと、実際に1,000ドルの大暴落となった「チャイナ・ショック」、「Brexitショック」の違いを比較的うまく説明できるのが、じつは「景気」でした。

たとえば、「チャイナ・ショック」、「Brexitショック」が起こった当時の米四半期成長率は2%を下回る状況が続いていたのに対し、「トランプ・ラリー」が起こった当時は2%以上に景気が急回復した局面でした。

  • 米経済四半期成長率と「ショック相場」の関係(出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成)

    米経済四半期成長率と「ショック相場」の関係(出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成)

以上のように見ると、景気が減速している局面で何か「きっかけ」があると株安は本格化する懸念があるものの、一方で景気回復が続いている場合は、「きっかけ」があっても株安は限定的にとどまる可能性が高そうです。

そして、2016年11月の米大統領選挙においては、あんなトランプのような無茶苦茶な人間が勝利、「世界のリーダー」になるといった株暴落の「きっかけ」があっても、景気回復が続いていると、株安が限定的にとどまるどころか、株価はその後急上昇に向かう、「トランプ・ラリー」となりました。それには、そもそも景気が回復しているという認識すらなかった、すなわち「読み違えていた」影響があったのではないでしょうか。

実際、2016年は前半まで景気減速が続きました。米国の四半期成長率は、2015年後半から2%を下回る状況が続いたのです。その中で、上述のように「チャイナ・ショック」、「Brexitショック」と株暴落が続いたのです。

ある意味で、多くの人々が景気減速に慣れ、景気回復への転換を気付かないようになっていたのかもしれません。そしてそんな時に、よりによって「Brexit以上のネガティブ・サプライズ」の可能性もありそうなトランプ米大統領誕生といったことになってしまったら、「Brexitショック」を上回る「トランプ・ショック」が起こり、世界恐慌の再来のような大変な事態になるといった懸念が強くなっていたのも、今考えてもおかしくない気がします。

しかし、実際には景気は回復に急転換していたのです。2016年第3四半期の米経済成長率は3%以上に急上昇しました。多くの人々が忘れていた景気回復への劇的な転換があったからこそ、懸念された「トランプ・ショック」は不発となり、それどころか読み違いの反動は正反対の「トランプ・ラリー」をもたらしたのでしょう。

以上のように見ると、「トランプ・ラリー」という歴史的大相場をもたらしたもう一つの鍵は、なぜ米景気は回復へ急転換したのかということになるでしょう。米景気回復へ急転換をもたらした「影の主役」、それこそは原油相場だったのではないでしょうか。

吉田恒(よしだひさし)

チーフ・FXコンサルタント兼マネックス・ユニバーシティ FX学長
大手の投資情報ベンダーの編集長、社長などを歴任するとともに、著名な国際金融アナリストとしても活躍。2000年ITバブル崩壊、2002年の円急落、2007年円安バブル崩壊、2016年トランプ・ラリーなどマーケットの大相場予測をことごとく的中させ、話題となる。

機関投資家に対するアナリストレポートを通じた情報発信はもとより、近年は一般投資家および金融機関行員向けに、金融リテラシーの向上を図るべく、「解りやすく役に立つ」事をコンセプトに精力的に講演、教育活動を行なう。2011年からマネースクエアが主催する投資教育プロジェクト「マネースクエア アカデミア」の学長を務める。2019年11月より現職。書籍執筆、テレビ出演、講演等の実績も多数。マネックス証券