FP(ファイナンシャル・プランナー)にどんな相談ができるのか、過去の実例を紹介します。今回の相談は「このまま賃貸で快適に暮らすか、住宅を購入して不安を解消するか。どっちがいいか迷っています」。

■今回の相談
「このまま賃貸で快適に暮らすか、住宅を購入して不安を解消するか。どっちがいいか迷っています」

  • 賃貸か? 購入か? 多くの人が抱える家の悩み

相談者プロフィール
S・Hさん
東京都在住/男性/30歳/会社員/賃貸住宅住まい/結婚3年目/妻30歳会社員との2人家族
■収入
給与・夫(手取り)26万円、給与・妻(手取り)24万2,000円、ボーナス・夫(年間手取り)25万円、ボーナス・妻(年間手取り)48万円、月額合計 50万2,000円
■月間支出
家賃12万5,000円、食費7万円、水道光熱費1万5,000円、車両費(※1)2万7,000円、自動車ローン2万9,000円、通信費(※2)2万円、家族の小遣い8万円、交際費・娯楽費2万円、保険料1万8,000円、奨学金返済1万3,000円、雑費2万5,000円 合計44万2,000円
※1 駐車場代、ガソリン代、保険料など
※2 携帯・スマホ代、プロバイダー料金、有料テレビ代など
■貯蓄/運用
普通預金30万円、定期預金295万円(毎月5万円、ボーナス年間40万円積立)、純金積立48万円(毎月1万円積立) 合計373万円

相談者: 「最近、妻が住宅の話題を持ち出します。妻はマイホーム願望があり、多少不便な場所でも庭付きの一戸建てが欲しいと言います。私の実家は千葉県で、まさにそういう場所なのですが、同居することには、妻は断固反対するでしょう……。

となると、住宅を新たに購入することになるわけですが、私は、できれば気軽な賃貸に住み続けたいと思っています。仕事も毎日忙しく、通勤に便利なエリアで快適に暮らすというのが今の生活に合っている気がするからです。しかし、一生家賃を払い続けることに不安を感じているのも事実。

賃貸と、住宅ローンを背負って買うマイホーム、どっちが得なのでしょうか?」

どちらが得かではなく、自分たちに合った住み方を

FP: 「ご主人が住宅購入に前向きではないことを、奥様は知っているのですか?」

相談者: 「私が話にあまり乗って来ないので、そう感じているはずです。最近、食卓や寝室にさりげなく住宅雑誌が置かれていますから(笑)」

FP: 「でも、ご主人の実家を建て替えるということには、奥様は強く反対している」

相談者: 「よくある話ですが、私の母親と折り合いが悪いというか……。お互い変に頑固ですし。私も気が休まらないので、あえて同居したいとは思いませんが」

FP: 「間にはさまれる立場は大変ですね(笑)。さて、賃貸か持ち家か、結論を急ぐ理由は何でしょうか?」

相談者: 「たとえ郊外でも、住宅購入となれば、長期で住宅ローンを組まないと返済できませんので、そんなにのんびりしていられないというか。頭金を貯めるなら、家賃はもったいない気もして。とは言え、通勤に便利な今の環境はとても気に入っています。そこで、資金としてはどっちが得なのか、それを判断材料のひとつにしようと考えています」

FP: 「わかりました。結論から言えば、賃貸で住み続ける場合と住宅購入、資金的にどちらが得とは言えません。個々のケースによりますし、何より損得だけで決めることではないでしょう。今すべきはどちらになってもいいように、将来に向けてきっちり貯められる家計体質を作ることです」

FPの回答「どのようなケースでも対応できるよう、貯蓄に励む」

FP: 「住宅は借りるべきか、購入すべきか。どちらが得なのかは、よく話題になるテーマです。賃貸であればずっと家賃が発生しますが、購入は住宅ローンを完済した後は大きく住宅コストが軽減されます。しかし、持ち家の場合、固定資産税や修繕費用などのランニングコストが発生。また、個々のケースで状況が異なるため、資金的にどちらが得かは判断の難しいところです。

そもそも、購入と賃貸の比較を単にお金の面だけでしてしまうことに、無理があります。たとえば、持ち家は住宅ローンを返済中の場合、なかなか売却や買い換えは難しいし、簡単に引っ越しできないという側面もあります。一方、賃貸は引っ越しはしやすいけれど一生涯家賃を払い続けることへの不安が絶えずあるでしょう。ライフスタイルに合わせてそれぞれのメリット、デメリットを把握し、決めたいところです。

S・Hさんの年齢ならば、どちらにするかを早急に決める必要もないと思います。今後、ご主人の住宅に対する考えが変わったり、もしかしたら、奥様がご実家の環境を気に入って、同居もいいと言ったりするかもしれません。購入するなら30代のうちにという思いがあるようですが、しっかり住宅資金が準備できていれば、いつ購入しても遅くはないのです。とは言え、住宅は夫婦や家族にとって大きな問題。ご主人も住宅の話題を避けずに、まずは奥様と十分に話し合ってみてください。

同時に、現時点で大事なことは、どのようなケースにも対応できるよう、貯蓄に励むこと。家計を見る限り、貯蓄額は年間100万円と頑張っていますが、支出も多い印象を受けます。お子さんが生まれれば、教育費も準備しなくてはいけません。出産を機に奥様が退職となれば、収入が半減します。そういったケースでも慌てないよう、今以上に貯蓄ペースを上げてもいいでしょうね」

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損得で比べるのでなく、家族とよく話し合う

相談者: 「家を買うなら早くしなくてはという気持ちがありましたが、無理に決める必要がないことがわかり、少し気がラクになりました。

今は仕事優先で、便利な賃貸住宅がベストと考えていますが、確かに、将来はどう気持ちが変わるかは自分でもわかりません。妻は早く住宅購入をと思っているので、お互いよく話し合い、納得した形で決めたいと思います。

また、支出を見直してみて、もっと貯蓄できるよう頑張ります」

著者プロフィール: 日本FP協会

ファイナンシャル・プランニングの普及とその担い手であるFPの養成・認証を通じて、社会教育の推進を図る日本最大級のNPO法人(特定非営利活動法人)。くらしとお金に関する無料セミナーや相談会の開催、各世代・ライフステージに合わせた冊子の提供等、生活者一人ひとりのより豊かで実り多い明日に貢献することを目指している。
■日本FP協会

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