FP(ファイナンシャル・プランナー)にどんな相談ができるのか、過去の実例を紹介します。今回の相談は「35年返済で借りると住宅ローンの完済が70歳を過ぎます。それでもマンション、買えますか?」。

■今回の相談
「35年返済で借りると住宅ローンの完済が70歳を過ぎます。それでもマンション、買えますか?」

  • 「35年ローン」いつまで借りてOK?

相談者プロフィール
N・Iさん
京都府在住/女性/36歳/会社員/賃貸住宅/独身、ひとり暮らし
■収入
給与(手取り)26万2,000円、ボーナス(年間手取り)45万円 月額合計26万2,000円
■月間支出
家賃3万8,000円、食費5万円、水道光熱費1万円、通信費(携帯・スマホ代、プロバイダー料金、有料テレビ代など)1万円、こづかい3万円、交際費・娯楽費3万5,000円、保険料1万6,000円、雑費2万円 合計20万9,000円
■貯蓄/運用
普通預金10万円(毎月1万円程度預金)、定期預金140万円(毎月3万円)、投資信託15万円(毎月1万円積立)、※養老保険(半年後に満期)満期金300万円 合計465万円

マンションを買ってみようと思った

相談者: 「社会人になったときに借りたアパートにいまだに住んでいます。しかし、すでに築30年を軽く超えているらしく、さすがに老朽化もひどいので、来年、取り壊しが決まりました。そのため、私も新しく住む部屋を探さなくてはならないのですが、ふと『マンションを買ってみよう』と思ったんです。

これから老後に向かい、結婚の可能性もおそらくない私にとって、住むところを確保することは必要だ、と。しかし、恥ずかしながら貯蓄があまりなく、できれば35年でローンを組みたいのですが、すると完済が70歳超に……。普通、そんな年齢になっても支払っていけるのでしょうか」

老後も住宅ローンを払う家計リスク

FP: 「ずっと住んでいたアパート、気に入っていたようですね」

相談者: 「ボロいと言えばそれまでですが、どこか京都的な風情みたいなのがあって落ち着くというか。もちろん、家賃が画期的に安かったのも、長く住んでいた理由なのですが」

FP: 「それが建て壊しになるということで、住宅購入を決意された」

相談者: 「それまで持ち家願望はまったくありませんでした。ところが、買いたいと思った途端、急に住宅情報サイトを調べたり、インテリア雑誌を買ってきたり。実は私、家が欲しかったんだということに気づきました」

FP: 「心配されているのは、ローンを長く組まないといけない点ですね」

相談者: 「70歳過ぎてもローンを払うことが、はたして可能なのかということ。でも、低い家賃に慣れてしまっているので、いきなりローンの支払額が大きくなると、家計破綻しそうな気もするんですね」

FP: 「家計について質問したいのですが、ボーナスからは一切貯蓄していないようですが、毎年そうなのですか?」

相談者: 「ここ4、5年はそうです。ストレス解消を兼ねて、海外に行って散財してしまうので。気が向いたらパッと行ってしまいます。おかげで、お金は貯まらないけど、思い出はいっぱい貯まりました(笑)」

FP: 「それはすばらしい(笑)。それと、勤務先の定年は何歳までになりますか?」

相談者: 「一応、60歳です。定年延長の形で65歳までは働けると聞いています」

FP: 「わかりました。一般には住宅ローンはできれば60歳、遅くとも65歳までには完済したいところです。定年後も住宅ローンを支払うことは、大きな家計負担になる可能性が高いからですが、その点についてさらに詳しく見てみましょう」

借入額を繰上返済が可能な範囲に抑える

FP: 「では、住宅ローンはどのくらいの返済期間が一般的なのでしょうか。ひとつデータを紹介しましょう。住宅金融支援機構の調査(「2018年度・民間住宅ローンの貸出動向調査」)によると、住宅ローンの契約期間の平均は26.4年、31年以上~35年以下を選んだ人は全体の20.8%という結果が出ました。

また、国土交通省の調査(「平成29年度住宅市場動向調査」)では、マンション購入者の平均年齢が44.1歳、分譲・一戸建ては39.6歳とのこと。異なる調査ではありますが、両者の結果を考え合わせると、40歳前後で契約する人が多く、そのため35年という長期間の返済は必然的に選ばないということが想像できます。

では、N・Iさんのケースを具体的に考えてみましょう。購入する新築マンションとして物件価格を2,500万円(単身用/40~50m2/税込価格)とします。1年後に購入するとして、諸費用分を除けば、頭金として用意できるのは250万円ほど。借入額2,250万円を35年返済、金利1.27%(フラット35を参考)で借りると、毎月の返済額は約6.7万円。これに管理費・修繕積立金と固定資産税のランニングコストを加算すれば、毎月の住宅コストは9万円前後と考えられます。

N・Iさんの家計から考えて、現在の家賃+毎月の貯蓄分でそのコストはカバーできます。しかし、60歳以降、とくに再雇用期間が終わる65歳以降の収入が不確定であることを考えれば、リスクが高いと言わざるを得ません。少なくとも年金だけで支払える額ではないからです。

対処法としては2つ考えられます。まず、繰上返済をして、返済期間を短縮する方法です。

ただし、N・Iさんの場合、貯蓄を増やすことが前提になります。ボーナスのうち半分は貯蓄し、交際費やこづかい、雑費等を見直し、毎月分の貯蓄も3万円程度は上積みしたいところ。また、退職金を充てることも可能ですが、老後資金の準備も必要ですから、貯蓄率アップが難しければ購入そのものが難しいと考えるべきでしょう。

ちなみに、50歳のときに300万円繰上返済をすると、返済期間は4年9カ月短縮され(支払利息の軽減額は約80万円)、66歳完済となります。

もうひとつの方法が、物件価格を下げるということ。先の借入条件で、借入額を1,500万円(物件価格1,750万円程度)とすれば、毎月の返済額は約4万4,000円。年間で住宅コストが30万円抑えられますから、その分、繰上返済のための原資もグッと増えます。毎月の支払額が下がれば、借入期間そのものを30年、25年と縮めることも可能。購入の実現度もより上がるでしょう」

生活を見直し購入目指す

相談者: 「生活を見直し、購入を目指す気持ちになりました。アドバイスを伺って、まずは家計支出を抑えてもっと堅実に生きるべきだと悟りました。夢の実現のためならがんばれる気がします。

ただ、これを機会に生活そのものを見直せると思うと、これからの自分が何だか楽しみになってきました。こんな気持ちになったのは入社以来でしょうか(笑)。ありがとうございました」

著者プロフィール: 日本FP協会

ファイナンシャル・プランニングの普及とその担い手であるFPの養成・認証を通じて、社会教育の推進を図る日本最大級のNPO法人(特定非営利活動法人)。くらしとお金に関する無料セミナーや相談会の開催、各世代・ライフステージに合わせた冊子の提供等、生活者一人ひとりのより豊かで実り多い明日に貢献することを目指している。
■日本FP協会

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