政府は長年「住宅取得」を景気回復の柱としてきました。住宅産業のすそ野は広く、多くの関連企業があるため、住宅産業の活性化は多くの産業分野が潤うことにつながるのです。また、日本人の多くはマイホーム志向であり、60歳以上の持ち家率は80%を超えていて、多くの需要がある上に金額も大きいので景気に対する影響は少なくありません。

しかし、個人にしてみれば莫大な住宅ローンの負担を強いられますので、その負担緩和対策として政府は「住宅ローン控除」の制度を設けているのです。そのほかにも住宅取得に関する様々優遇措置が設けられています。

住宅ローンという大きな借財に対するリスクを少なくする上で、これらの優遇措置をどう生かすかが重要なのです。

住宅ローン控除とは?

住宅ローン控除は今までの記事でも何度か取り上げてきましたが、再度確認しておきましょう。どんなケースにも適用されるわけではありませんので、条件を確認してください。

小さなマンションからスタートして、子供ができたら買い替えたいと考えていても、床面積の基準に満たないと住宅ローン控除は受けられません。

【適用要件】
・一定の居住用家屋の新築、取得または増改築を行ったこと
・新築、取得または増改築に伴い一定の借入を行い、年末の残高があること
・新築、取得または増改築をした日から6ヶ月以内に居住の用に供し、控除を受ける年の12月31日まで居住していること
・控除を受ける年の合計所得が3,000万円以下であること
・他の特例等を受けていないこと(買換えの損失の繰越控除や譲渡損失の繰越控除は併用可)
・返済期間が10年以上の住宅ローンの年末残高があること

【適用住宅】
・床面積が50m2以上であること
・床面積の1/2以上が居住用であること
・中古住宅の場合は築20年(耐火建築は25年)以内、または耐震基準に適合していること (増改築の場合)
・特定の増改築(所定のバリアフリー改修工事、省エネ改修工事、多世帯同居改修工事)であること
・工事費用が100万円以上であること
・工事後の床面積が50m2以上であること
・工事費用の1/2以上が居住用であること
・床面積の1/2以上が居住用であること
・既存住宅の特定の改修をした場合の税額控除の特例を受けていないこと

住宅ローン控除はどのくらい受けられる?

具体的にどのくらいの金額の控除を受けられるのでしょうか。控除期間は10年間で年末のローン残高の1%相当分が所得税から控除が受けられます。夫婦別々にローンを借りていてそれに応じた持ち分名義を所有していれば、それぞれ住宅ローン控除の対象となります。下表は消費税が10%になっても変化はありません。

  • 住宅ローン控除はどのくらい受けられる? (C)佐藤章子

住宅ローン控除の手続き

初年度は控除を受ける年分の確定申告書を、下記の書類を添付して納税地の税務署に提出します。

・住宅ローンの年末残高証明書
・家屋の登記事項証明書(または請負契約書の写しや売買契約書の写しなど)
・マイナンバーカード(またはマイナンバー通知カード等)の提示、写しの添付
・給与所得の源泉徴収書(給与所得者の場合)

2年目以降、給与所得者は住宅ローン年末残高証明書を用意すれば年末調整によって処理され、2年目以降の確定申告は別の申告事項がない限り不要です。事業者の場合は住宅ローン年末残高証明書とともに確定申告を行うことにより適用されます。

中古住宅・リフォームローンなどに対する住宅ローン控除

築20年(耐火建築物は25年)以内であるか、所定の耐震基準を満たしている中古住宅購入に対しては、住宅ローン控除を受けられます。また、所定の増改築に対しても住宅ローン控除が適用されるだけでなく、一定の性能向上に該当するリフォームに対しては住宅ローン控除のほかにリフォームローン控除の制度もあります。

控除された所得税額はどうする?

住宅ローンを借り入れる際に、住宅ローン控除をあてにして借り入れる方はないと思います。もし住宅ローン控除もあてにしなければならないようであったら、別個に特別なリスク回避の見通しがない限り、危険な借り方と言わざるを得ません。

では住宅ローン控除で削減された所得税分はどうなるでしょうか。特に気を付けていなければ、家計の出費の中に埋もれてしまっているのが一般的だと思います。

住宅ローン関連の記事の際には、必ず借り入れた後の管理の大切さを付け加えます。繰り上げ返済時期や、変動金利で借り入れた時の金利の変動のチェックだけではなく、住宅ローン控除で削減された所得税や住民税、優遇金利を受けた時の返済額の差額、住まい給付金などの住宅関連の優遇措置の恩恵を、できるだけ家計の出費の中に埋没させずに、別会計で貯蓄して繰り上げ返済などの資金として管理していくことを考えてください。

住宅ローン控除は単に「税金が戻ってきた」だけでなく、その戻ってきたお金の活用次第で、将来への安心感に差がつかないとも限らないのです。

■著者プロフィール: 佐藤章子

一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。