「最近、円高が進んでいるから海外旅行のチャンス」
「円安で輸入品が高くなった」
など、外国為替動向の話は私たちの生活に密着しており、時々TVや新聞などでチェックしている人も多いと思います。

もし、そういう習慣がない人は、金融リテラシーを身に付けるためにも、日々の為替レートや株価に興味を持つことから始めてください。一定の動きに対して、「なぜ?」と感じ、その理由が分かった時はとても嬉しくなり、どんどん経済や金融のことを知りたくなりますよ。

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  • 為替レートや株価について興味を持っていますか?

今は円高? 円安? どちらですか

では、為替レートを時々チェックしている人は、きっと「今は円高ですか?」と聞かれれば、最近の動きを踏まえ、回答できると思います。「日本の財政赤字が拡大し、最近は円が売られる傾向にあり……」といったコメントができる方は高い金融リテラシーを有していると思います。

ただ、ここまでを読み、「いや、何か違和感がある」と思った人はさらに高い金融リテラシーを有しているかもしれません。その違和感とは、どの通貨に対して円安、円高か? ということに一切触れていないということです。

外国為替レートは2通貨の交換レート

円が米ドルに対して高くなっているのか、安くなっているのか? これが為替レートであり、外貨預金をする時や海外旅行に行く際など、円から米ドルに両替する際も、その時点での米ドル/円レートをベースに行うことになります。そして、世界の基軸通貨は米ドルであり、日本にとってもアメリカとの取り引きは非常に重要な位置付けでもあるため、外国為替レートを調べると、真っ先に米ドル/円レートが表示されます。

場合によっては、米ドル/円レートしか表示されないケースも多いです。では、米ドルに対してのみの動きを見て、円高なのか円安なのかという判断をしても良いでしょうか? 答えはバツです。日本はアメリカ以外にもユーロ圏、アジア圏など様々な地域や国と取り引きをしています。お互いの通貨の交換レートが外国為替レートであるならば、他通貨との動向もチェックしてほしいものです。

例えば、プロ野球やサッカーなどスポーツ観戦が好きで、地元チームなどを応援している人も多いと思いますが、その応援しているチームがリーグ戦で特定のチームに強くてもリーグ優勝できるとは限りません。逆に対戦成績で分が悪い苦手なチームがいても優勝できることはあります。長い1シーズンの中で、対戦するすべてのチームとの戦績で、総合的に強いチームが優勝するのです。外国為替もこのように捉えることも大切です。

先に触れましたように、日本にとってのアメリカ、そして、米ドルは非常に重要な存在であるため、米ドル/円レートを重視することが決して悪いわけではありませんが、対ユーロ、豪ドルなどの主要通貨やアジア各国との通貨に対する動きを見ることで、現在の「円の価値」、「円の実力」をより詳細に把握することにつながるのです。

円の実力を知ることができる「実効為替レート」

米ドルのみならず各国の通貨に対して円の価格がどのように推移しているのか調べる方法が1つあります。それが「実効為替レート」と呼ばれるものです。先ほどのスポーツでの好きなチームで例えるなら、対戦するすべてのチームとの勝敗を踏まえた上でのチーム順位を算出してくれるといった具合です。

スポーツのリーグ戦の場合は、原則、まんべんなくライバルチームと対戦することになりますが、通貨の場合は通貨ごとに取引量(ボリューム)が異なります。こういったことも考慮しながら世界決済銀行が「実効為替レート」を公表しています。また、物価変動も考慮したのが「実質実効為替レート」です。

例えば、米ドル/円レートが1ドル100円でしばらく変動しなかったとします。そんな中、アメリカの物価が上昇し、1ドルの商品が1.5ドルになった場合、日本から見ると今まで100円で買えたものが150円出さなければ買うことができない状態になっています。

このように物価の変動も通貨の価値に影響するため、「実質」で分析することも重要です。以下が2010年を100とした実質実効為替レートです。

  • BIS(世界決済銀行)のデータを用いて内山FP総合事務所にて編集

グラフから分かりますように、日本円は2000年当初は主要通貨の中で相対的に一番高い通貨でしたが、現在は一番低くなっています。

実質実効為替レートの動きを日々の生活で感じることは少ないかもしれません。ただ、米ドル/円レートのみを見ている場合と比べて少し景色が違って見えると思います。

「資産の一部を外貨で持っていれば、長期的に資産価値が上昇しているのでは?」
「日本円だけで資産管理することも1つのリスクになるのでは? どの通貨が将来有望?」

このように抱く疑問もワンランクアップすると思います。時々、お財布の中に入っているお金を見ながら、「円の価値」について考えてみるのも良さそうですね。