今年3月のダイヤ改正で新サービスが導入された中央本線の特急列車などに乗り、現状を探る今回の乗車レポート。往路は新宿駅から特急「あずさ13号」、大月駅から富士急行の特急「フジサン特急3号」に乗車し、河口湖駅で下車した。

  • 特急「富士回遊」はE353系3両編成で富士急行線に乗り入れる(写真:マイナビニュース)

    特急「富士回遊」はE353系3両編成で富士急行線に乗り入れる

復路は河口湖駅から特急「富士回遊16号」に乗車した。「富士回遊」は2往復設定され、E353系3両編成を使用。中央本線新宿~大月間で「かいじ」と併結運転を行い、大月駅から富士急行線へ直通して河口湖駅まで運行される。新宿~河口湖間で定期運転を行う特急列車は初とのことで、デビュー前から注目を集めていた列車だった。

■E353系、富士急行線の勾配もなめらかな走り

河口湖駅は富士急行線の終着駅というだけでなく、駅前のバスターミナルに都心からの高速バスや河口湖・西湖などへの周遊バスが頻繁に行き来するため、日中時間帯もにぎやかだ。筆者が訪れた日も、駅周辺は多くの外国人観光客で混雑していた。「富士回遊16号」の発車時刻まで、駅併設のカフェで軽食を取りつつ待つことにする。

駅舎内に「富士回遊」の予約状況が掲出され、定期列車は「富士回遊16・20号」の2本とも満席。臨時列車の「富士回遊92号」はまだ残席があるようだ。改札口付近では、発車時刻の前からスーツケースを持った観光客の長い列ができている。インバウンド対応として新設したこの列車の狙いはひとまず当たったのではないかと感じる。

  • 特急「富士回遊」に使用されるE353系。上り新宿行の発車まで、河口湖駅の留置線でひとときを過ごす

発車時刻が迫り、他の利用者とともにホームへ。往路の「あずさ13号」と同様、復路の「富士回遊16号」も特急券はチケットレスサービスで確保してある。運賃は「Suica」で支払う。河口湖駅のIC改札機は簡易型に近いものだが、改札を通る際、オートチャージもしっかり行われた。これで新宿駅までチケットレスで行ける。

河口湖駅のホームは列車を待つ人であふれ、発車時刻が近づくほどに増えていく。やがて3両編成のE353系が入線し、ドアが開いて車内への乗車が始まる。大半が外国人観光客だ。しかもほぼ満席である。

  • スイッチバック構造となっている富士山駅。「富士回遊」も方向転換を行う

特急「富士回遊16号」は河口湖駅を15時5分に発車。進行方向が変わる富士山駅まで、座席は後ろ向きになる。富士山駅でも多くの人が乗車してきた。座席未指定券を持った立客も多かった様子。ちなみに「富士回遊」を富士急行線内のみ利用する場合、座席の指定はできず、座席未指定券を利用することになるという。

富士山駅を発車した後は下り勾配となる。E353系は中央本線の山岳区間と同様、なめらかな走りで勾配を下る。さすが新型車両と思わせる。

三つ峠駅で6000系(元JR東日本205系)の普通列車と行き違うときも、1線スルーの駅だけあってスムーズに通過する。富士急行線内でスピードを出すことはできないものの(中央道の車に抜かれる場面もあった)、コントロールが上手にできているという印象を受ける。富士急行線ではダイヤ上も「富士回遊」を優先させているのか、途中駅での運転停車も少ないように感じられた。

  • 天気の良い日には、富士急行線沿線から富士山も眺められる

15時48分、「富士回遊16号」は大月駅に到着。5番線ホームに入り、ここで「かいじ16号」との併結作業を行うのだが、車内は一部の立客が下車したものの、混雑は相変わらずで、作業を見に行くことはできなかった。数分後、軽い衝撃音とともに車体が少し揺れ、「かいじ16号」と併結されたことを知る。

「富士回遊16号」「かいじ16号」は定刻より3分ほど遅れて大月駅を発車。作業のために遅れたことを知らせる車内放送もあった。

■列車自体は成功も、混雑の常態化は課題

中央本線に入ったE353系は、往路の「あずさ13号」と同様の快走を見せる。気圧の変化でときどき耳がツンとするものの、走り自体にはしっかりとしたものがあり、遅れを取り戻そうとする意志を感じさせた。山岳区間を過ぎると、八王子駅に16時24分に到着。続いて立川駅には16時33分に到着したが、両駅とも下車する人は少ない。

通常、中央本線の特急列車は八王子駅・立川駅で下車する人も多いのだが、「富士回遊」ではほとんどの乗客が新宿駅まで乗り通しているようだ。都心から富士山エリアへ直結させるというこの列車の目的も十分に果たしているといえる。大月駅での遅れを取り戻した「富士回遊16号」「かいじ16号」は16時58分、定刻に新宿駅に到着した。

世界各国から観光客が押し寄せる富士山エリアへ、都心から直結する特急「富士回遊」は、多くの人に求められている列車であり、列車の設定自体は成功だったといえるのではないか。ただし、平日も含めた混雑の常態化が課題となっているようで、その点は改善が求められるかもしれない。日本の鉄道に不慣れな外国人観光客にとって、中央本線の特急列車に導入された新たな着席サービスになじめるのかどうかも気になる。