騙されない投資家になるために……。投資の初心者が知っておくべきこと、勘違いしやすいことを、できるだけ平易に解説しようと思います。今回は「格付け※」を取り上げます。※「格付け」は「格付」とも表記されますが、本稿では「格付け」で統一します。
格付けとは信用格付けのことで、それらが信用できないのであればシャレにもなりません。それなのに、格付けの権威は2008年秋に発生したリーマンショックで地に墜ちました。
最上級の格付けを与えられていた米国の住宅ローン関連証券が次々にデフォルト(債務不履行)したり、短期間に大幅に格下げされたりして、リーマンショックの一つの要因となったからです。格付けを信用して住宅ローン関連証券を購入した世界中の投資家が巨額の損失をこうむりました。
その後、様々な改革や規制が導入されていますが、改めて格付けの意味や限界、使い方を確認しておきましょう。それらを知っておくことは投資判断に役立つからです。
格付けとは
格付けは、債券やそれに類した金融商品(以下、債券等)に対して、専門機関(といっても営利目的の民間会社)によって付与されるものです。
大手格付け会社M社の説明資料によると、格付けとは「事業会社、金融機関、-中略-、公共セクターの事業体が発行した債務の、相対的な信用リスクに関する今後を展望した意見」とのことです。
格付けは、個別の債券等だけでなく、それらの発行体にも付与されます。国も国債を発行する発行体であり、格付けを付与されています。ソブリン格付けと呼ばれます(ソブリンは国家という意味)。
また、同資料によると、格付けは「(約束通りに)支払いが履行されない可能性と、デフォルト発生時に被ることが予想される金銭損失を反映する」ともあります。
つまり、支払いが履行されない可能性が高いと判断されるほど格付けは低く、予想される金銭的損失が大きいほど格付けは低くなります。
格付けは信用力の高い順に、
AAA>AA>A>BBB>BB>B>CCC>CC>C(S社の方式)
または
Aaa>Aa>A>Baa>Ba>B>Caa>Ca>C(M社の方式)
となっています。
さらにAA(Aa)以下では、同一の格付けでも
AA+>AA>AA- または Aa1>Aa2>Aa3
というように、それぞれ3段階に細分化されています。
その他に、デフォルトした場合の「D」、格付けが付与されていない「NR」といった記号も用いられています。
※以下では、格付け記号として、AAAやBBBなどのS社の方式で記述します。
最終的な格付け判断はブラックボックス
さて、冒頭で述べた格付けの定義の中で重要なのは、「相対的な(信用リスク)」と「今後を展望した意見」という部分ではないでしょうか。
M社は格付け手法も公開しています。それによれば、債券等やその発行体に関する様々なデータに基づいてスコアカードを作成しているとのことです。
ただし、モデルにデータを投入することで、デフォルトの確率やデフォルトした際の損失額が定量的・機械的に算出されるというわけではありません。
「AAAはAAより信用度が高い」といった定性的、相対的判断であるということ。また、不確かな予測を反映した、あくまでも意見に過ぎないということです。
実際、M社の資料の末尾には、「スコアカードは格付けにおいて重要な全ての事項を網羅的に取り扱ったものではない」、「実際の格付けがスコアカードに基づくスコアレンジからかい離することもある」、「(M社の)予想は、開示できない機密情報に基づくことがある」、「将来の予測は大幅に正確性を欠くリスクがある」等々の但し書きがあります。
要するに、最後はブラックボックスだということですね。まあ、公開された手法を用いて誰もが同じ格付けに辿りつけるのであれば、格付けを有り難がる理由はなくなるわけです。 格付けには、それぞれの格付け会社独自のノウハウが隠されているのでしょう。
格付けは「絶対」ではありませんが、個人の投資家がそれを有効に利用する方法はあります。次回は格付けの利用方法を考えてみたいと思います。