投資の初心者が知っておくべきこと、勘違いしやすいことを、できるだけ平易に解説しようと思います。今回は投資家の皆さんにとって良い年になるようお祈りしつつ、2019年を見通します。

年末あるいは年始に出る新年の見通しは、その立ち位置からして明るいものになりがちです。暗い見通しをとうとうと説明しても、「縁起でもない」と怒られるからです。

それでも、足もとの株価の荒っぽい動きに鑑みれば、2019年はかなり慎重な姿勢で投資に臨む方が良さそうです。とはいえ、1年の見通しといっても、経済情勢の変化や経済政策の変更、政治動向などで新たな材料が出てくれば、その都度見通しは修正されてもおかしくないので、賞味期限はそれほど長くないと考えるべきです。

  • 2019年の経済・相場見通しは?

あくまでも、大まかな投資計画を立てるうえでの参考程度にすべきでしょう。

2019年の3つのシナリオ

2019年も「米国」が金融市場で中心的役割を果たしそうです。主に以下の3つのシナリオを想定しています。

メインシナリオ:米国の景気減速が鮮明化

トランプ関税によるコスト上昇、利上げの累積効果や長期金利の上昇、人手不足、株安による企業や消費者のマインド悪化など、米国経済に対する逆風が強まりつつあります。一方、2015年12月以降の断続的な利上げにより、政策金利は「中立水準(※)」に接近しています。(※)景気を刺激もせず、抑制もしない政策金利の水準

そのため、FRBは追加利上げにますます慎重になり、利上げペースは遅くなるでしょう。そして、19年の年央までに景気の減速感が一段と強まって、利上げ打ち止めの観測が支配的になります。経済情勢によっては「次の一手は利下げ」との見方が浮上するかもしれません。

このシナリオのもとで、長期金利(10年物国債利回り)は3%割れの水準が定着し、株価は調整局面が続きます。そして、18年春以降の米ドル高の基調は転換します。

トランプ大統領が2020年の大統領選挙をにらんで貿易相手国への圧力を一段と強めれば、リスクオフによって円高が進行する可能性もあります。

英ポンドやユーロはそれぞれに政治不安を抱えていますが、後述するような悪い展開とならなければ、米ドル安の裏返しで比較的堅調に推移します。

イールドカーブ(利回り曲線)の逆転が顕著になるなどして米国での利下げ観測が強まれば、資源・新興国にとってポジティブな材料になるでしょう。

ただ、資源・新興国の株価や通貨が上昇するまでにはやや時間がかかるかもしれません。

サブシナリオ:バンピーながらも米国の景気拡大が続く

米国経済は逆風に揺れながらも底堅さを維持し、インフレ圧力が高まるなかでFRBは利上げを継続します。

政策金利が「中立金利」に接近するため、2018年のような3カ月ごとの利上げといったパターンは崩れる可能性があるものの、利上げ観測は根強く残ります。

そのため、長期金利は上昇基調で推移します。企業業績への期待がある一方で、株価は高金利環境の下で頭の重い展開が想定されます。

時折、株価が調整したり、通商摩擦が激化したりすることで、リスクオフが強まって、2018年のように米ドルが対円で軟化する局面はありそうです。

米ドル堅調の裏返しで、その他の通貨は円よりも軟調が想定されます。欧州通貨は、ユーロ圏各国の足並みの乱れやブレグジット(英国のEU離脱)の不透明感が重石になります。

とりわけ、イタリアやフランスの財政赤字が大幅に拡大すれば、ユーロに下落圧力が加わります。

また、協定や移行期間のない「合意なきブレグジット」が現実味を増せば、英経済への悪影響が懸念され、英ポンドは大きく下落する可能性があります。

FRBを筆頭に、日銀以外の主要な中央銀行が金融政策の正常化を進めるため、資源・新興国への資金の流れは一段と細る可能性があります。

また、米中貿易摩擦が一段と激化すれば、中国経済と関係の深い豪州やニュージーランドの経済に悪影響が出ます。

リスクシナリオ:米株や米ドルがクラッシュ

「適温相場」で高水準を維持してきた米株がクラッシュするリスクがあります。インフレ加速で長期金利が急騰するケース、あるいは逆に景況悪化から企業の業績期待が一気にしぼむケースなどが考えられます。

米株がクラッシュすれば、景気にも一段のブレーキがかかります。そして、それは他の先進国や資源・新興国にも伝播します。

リセッション(景気後退)への対策として、米国は緊急的な利下げに踏み切り、英国やカナダなども追随するかもしれません。

日本には金融緩和余地が乏しいこともあって、米ドルは対円で大幅に下落します。強いリスクオフのなかで、その他の通貨は米ドルに対して下落するため、対円での下落幅は一層大きなものとなります。

このシナリオが実現すれば、株式や外貨(円以外の通貨)を買う好機が比較的早くにやってくるかもしれません。

これからの注目点

今後の状況に応じて、上記のどのシナリオがより現実味を帯びてくるのか、あるいは全く別のシナリオが浮上するのか、注意深く検証する必要がありそうです(足もとで株安が一段と進行すれば、新年の開始を待たずして、リスクシナリオが実現するということにもなりかねません)。

2019年1月の注目点には以下のようなものがあります。

米国のシャットダウン(政府機関の一部閉鎖)が、いつ、どのような形で解決するか。トランプ大統領と、1月3日に召集される新議会(下院で民主党が過半数)の関係はどうなるか。

1月14日の週に予定される英国議会のブレグジット協定案の採決と「合意なき離脱」の可能性。再開される米中貿易交渉の行方。1月(2月?)に開催予定の日露首脳会談や米朝首脳会談で何が飛び出すか。

シリアにおけるトルコ軍の軍事行動や米軍の撤退状況など中東情勢。そして、なによりも、引き続き株価の動向には要注意でしょう。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクエア 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして活躍。 2012年、マネースクウェア・ジャパン(現マネースクエア)入社。「投資家教育(アカデミア)」に力を入れている同社のWEBサイトで「市場調査部レポート」「スポットコメント」「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、動画サイト「M2TV」でマーケットを日々解説。